
文部科学省が、部活動の指導を地域や民間の力で支える方針を打ち出したことから、教育現場における部活動の在り方が転換期を迎えている。その背景にあるのは、先進国の中でも突出して長い日本の教員の労働時間であり、多くが部活動指導に費やされているという深刻な現状だ。また、スポーツ指導の質の観点からも、教員が専門外の競技を指導せざるを得ない状況や、勝利至上主義といった古い体質は改善すべき課題といえる。
こうした状況に対し、「部活動をスポーツに戻す」というビジョンを掲げ、教育現場の改革に取り組むリーフラス株式会社。全国で4,500以上のスポーツスクールを展開し、23年連続で会員数を伸ばし続ける同社の代表取締役、伊藤清隆氏に話を聞いた。
学習塾経験を活かしたスポーツ教育への挑戦
ーースポーツとの出合いから起業を決意した背景をお聞かせください。
伊藤清隆:
スポーツとの出合いは小学生の頃です。集団登校の前に友達と草野球やリレーを楽しむなど、地域の中で自然にスポーツに親しんだ経験が、私の起業の原点となっています。大学進学にあたり、空手発祥の地である琉球大学の教育学部を選び、教員を目指しました。しかし、教育実習を通じて学校教育の現場を垣間見たことで、教員としての働き方に違和感を覚えるようになったのです。
その後、個別指導を行う学習塾に入社し、一人ひとりに真摯に向き合う教育の重要性を学びながら15年間勤めました。そして、「社員が公私において幸福を実現できる会社を作りたい」という強い思いが芽生えたことをきっかけに起業を決意した次第です。
ーー起業に向けて、具体的にはどのような取り組みをされましたか?
伊藤清隆:
私にとってスポーツは、小学生のころから現在まで常に身近にある存在でしたので、スポーツと教育を結びつける事業を始めようと考えました。そこで、学習塾で培った“教室を借りて講師が指導を行い、月謝をいただく”というビジネスモデルは踏襲しつつ、理念や運営方針が全く異なる会社をつくることにしたのです。
2001年に創業し、スポーツスクールの生徒を募集しました。当時の福岡では、子どもがスポーツに本格的に取り組む場合、少年団などのボランティア団体が主催するものに参加するケースが主流だったので、スポーツスクールは非常に珍しい存在だったといえるでしょう。どうなることかと思いましたが、募集開始と同時に100名もの応募があり、そのうちの半数が入会を決めてくれたのです。
「子どもたちの人間力を向上させます」という理念が、多くの保護者の共感を得られた結果だと、大きな手応えを感じました。子どもたちが楽しく参加できるスポーツ環境をつくりたいという私たちの思いが、保護者の潜在的なニーズと合致したのだと実感しています。
非認知能力の育成を重視。全国4,500スクール、会員6.9万人が選ぶ理由

ーー主な事業内容について教えてください。
伊藤清隆:
現在、3つの柱を軸に事業を展開しています。
1つ目は、2歳から小学6年生を対象とした子ども向けスポーツスクールです。野球、サッカーなど計13種目を、全国4,500以上のスクールで展開し、現在約6.9万人の会員にご利用いただいています。
2つ目は部活動支援事業です。文部科学省が推進する部活動の地域移行に伴い、これまでに累計約1,700校で指導を実施しています。
3つ目は、発達障害のあるお子様を対象とした放課後等デイサービスです。この事業は全国19カ所で展開しており、社会的ニーズに応える形で着実な成長を遂げています。
ーー「部活動をスポーツに戻す」というビジョンについて、詳しくお聞かせください。
伊藤清隆:
海外では専門の指導者による部活動が一般的ですが、日本では教員が専門外の部活動の指導を任されることが多く、ミスマッチが日常的に発生しています。このことが教員の過重労働を引き起こすだけでなく、子どもたちのスポーツ体験の質にも大きな影響を与えています。
私たちが掲げるビジョンは、部活動を「日本特有の特殊な活動」から「本来あるべきスポーツの姿」に戻すことです。子どもたちが生涯にわたってスポーツを楽しみながら、人間的にも成長できる環境づくりを目指しています。
具体的な例として、2人体制での指導を実施し、地域住民や教員の兼職・兼業を含めた多様な形で人材を確保しています。また、非認知能力の育成も取り組みの一つです。単なる技術指導ではなく、「人間力の向上」という観点から非認知能力を育成するプログラムを提供し、子どもたち一人ひとりの成長をサポートしています。これこそが、他社とは一線を画す弊社の強みです。
社員の幸福実現へ向けた成長戦略と組織づくり
ーー部活動支援事業の今後の展望について、どのようにお考えですか?
伊藤清隆:
部活動支援事業は、中学生だけでも300万人以上という大きな市場を持つ重要分野として、今後全国的な広がりが期待されます。これまでボランティアベースで運営されてきた部活動が、プロフェッショナルな事業として確立される過渡期にあると弊社は捉えており、採用や人材育成をさらに強化し、事業拡大を支える体制を整える計画です。
また、国内市場は少子化の影響を受けていますが、これを逆に成長機会と捉え、グローバル展開を視野に入れています。スポーツを通じた非認知能力の育成という価値を、世界中の子どもたちに届けることを目指しています。
ーー経営面での取り組みについてはどのようにお考えですか?
伊藤清隆:
人事制度面では、「社員に良し」という理念に基づき、5年以内に社員の平均年収を倍増させることが目標です。
現在、スポーツ教育業界は大きな転換期を迎えており、特に部活動の地域移行という変革は、教育現場に新たな可能性をもたらすと同時に、私たち民間企業にとって大きな挑戦の機会となっています。
ーー求める人材像と、社員の育成についてお聞かせください。
伊藤清隆:
弊社が求めているのは、「スポーツを通じた人間力の育成」という理念に共感し、子どもたちの成長に情熱を注げる人材です。競技経験や指導スキルはもちろん重要ですが、それ以上に人間的な成長を支える情熱を重視しています。
社員一人ひとりが自分の働き方をデザインでき、キャリアパスを主体的に選択できる環境づくりに注力しており、研修制度を通じてスポーツ指導のスキルと人間的な成長の双方を支援しています。
編集後記
取材を通じて強く心を動かされたのは、「社員に良し」という理念を企業の根幹に据えて実践する姿勢だ。また、「部活動をスポーツに戻す」というビジョンには、既存の教育制度を変革する熱意が溢れていた。日本特有の部活動システムに一石を投じ、子どもたちが心からスポーツを楽しめる環境づくりに挑むリーフラス株式会社の取り組みは、教育現場のみならず社会全体の未来を照らす一歩となるはずだ。

伊藤清隆/愛知県出身。琉球大学卒業。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、代表取締役に就任(現職)。創業時よりスポーツ指導にありがちな体罰や暴言、非科学的指導などを否定。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導を提唱。