※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

韓国に本社があるインボディ社は、体内に電流を流すことで体の水分をはじめ、筋肉量や体脂肪量などを測る装置を提供している。日本法人の株式会社インボディ・ジャパンは、医療機関やフィットネス施設を中心に、全国1万6,000台以上の医療・業務用機器の導入実績を持つ。

代表取締役の申基権(シン キゴン)氏に、コロナ禍で経営危機に陥った会社を立て直すまでのエピソードや、同社の製品を使うことで得られるメリット、今後の展望についてうかがった。

経営が傾いていたタイミングでの社長就任

ーーまずはインボディ社に入社した経緯についてお聞かせください。

申基権:
社会人になったら故郷を離れて海外で仕事をしたいと思っていたため、世界中に拠点があるインボディ社に入社しました。大学時代に日本文学を二重専攻していたこと、作家の三浦綾子先生を尊敬していることがきっかけで、三浦先生が生まれ育った日本に行きたいと思い、日本法人への赴任を希望したのです。

日本法人に入社した当時は、10人程度の小規模な組織でした。そのため社内には決まった部署はなく、営業やマーケティングなどあらゆる業務をこなしていましたね。少ない人数で仕事を回さなければいけなかったので、とにかく目の前の課題を解決するのに必死でした。そうしていくうちに役職を越える仕事を多く任され、後から昇進も付いてきたのです。

ーー社長就任までの経緯を教えていただけますか。

申基権:
役職が上がるにつれて、組織運営に関心を持つようになりました。そうした中、「こうしたら、もっと業務効率が上がり業績向上につながるのではないか」と、自分なりに事業戦略を練る癖がついていきました。そして、コロナ禍の影響で会社の経営が厳しくなり、社長が退任することになったのです。

社長のポストが空いたことから、本社では外部から人を入れるか、もしくは社内から選任するか話し合いが行われました。ただ、弊社が取り扱う製品は専門性が高く、外部から適任者を選ぶとなると、さまざまな面でハードルが高くなります。そのため、社内から選ぶのが良いということになったのです。

その結果、私が次の社長に指名され、2021年11月に就任しました。当時はまだコロナ禍が続き、会社の資金繰りは厳しいままでした。さらに社長の急な退任など、会社は大変な状況でしたね。ただ、こんなときだからこそ、先代から教わった「自分が経験したことがない問題を解決できるスキル」が求められるときだと感じました。

業績回復のために行った社内外の改善対策

ーーそこからどのように会社を立て直していかれたのですか。

申基権:
まず着手したのが、組織文化の改革です。これまではルールに忠実に従うあまり、意思決定が遅く、会議ばかりに時間を割いていました。そこで非効率な社内文化を根本から変えようと考えたのです。

また、社員から不満の声が出ていた人事評価制度も大きく見直しました。これまでは役職に関係なく同じ難易度の目標が付与され、課長や係長が社員と変わらない仕事をしても継続して高い報酬がもらえ、年俸に比例して賞与までたくさんもらう構造でした。また、一発性の大きい成果をインセンティブでなく翌年の年俸に反映し、社員の能力と年俸が見合わない事例も多くありました。

そこで、役職に比例して業務目標の難易度を高め、人事評価も厳しくする仕組みを作りました。会社の業績に応じて一律に支給してきた賞与も評価に連動して差別支給する代わり、インセンティブ制度は金額と種類を拡大して運より挑戦と努力の結果としてもらえる要素を大きくしました。

ーーその他に行った取り組みを教えてください。

申基権:
もうひとつ力を入れたのが、代理店との関係改善です。これまでは代理店から取引条件における調整依頼があっても、「自社のルールは変えられない」と門前払いしていました。そのため、関係が悪化していたのです。

私は、「パートナーシップは紙でなく日々のやり取りから生じる」と考えていたことから、社内稟議の手続きを簡略化し、代理店からの依頼に積極的に答えるようにしました。

さらに変えたのが、自社製品のマーケティングの方向性です。従来は会社や製品を知らない人向けに高い技術力をPRする活動を行ってきました。しかし、最高の広報は製品を導入してくれた施設側が製品を100%活用できることと思い、ユーザーの活用を高める支援策を次々と考え出しました。

その結果、私が社長に就任してから会社は経営の危機から脱出し、2022年から3年連続で歴代最高の実績を更新することができたのです。

健康と効率を両立する科学で未来の体づくりをサポート

ーー貴社の強みについてお聞かせください。

申基権:
社名が製品名と同じ「InBody(インボディ)」であることからも分かるように、弊社の最大の強みは製品力です。弊社は1970年代に開発された、BIA(生体電気インピーダンス分析法)を、誰でも簡単に使えるよう製品化しています。

弊社の製品は医療機関とフィットネス施設での導入が最も多いですが、その他にも教育機関と企業の研究・福利厚生・スポーツ部門、介護施設、整骨院、薬局など、ヘルスケアに関わる分野で幅広く活用されています。

BIAとは人体に電流を流した際に発生するインピーダンスから、その人の身体を構成する成分を定量的に分析する方法です。全身と部位別に得られた体成分の情報からは、栄養状態に問題がないか、体がむくんでいないか、筋肉はバランスよく発達しているかなど、人体成分の過不足を評価します。

そのため、InBody測定は食習慣や活動量など生活習慣の改善に取り組む際や各種治療の方向性を定めて効果を確認する際の重要な過程として位置づけされました。

家庭用市場進出が生み出す新たな顧客体験と可能性

ーー経営者として大切にしている考えを教えていただけますか。

申基権:
私を採用してくれた創業者から学んだ教訓を今も大切にしています。そのひとつが、経営者に求められるのは、既知の課題を解決する能力ではなく、未経験の問題に対処できる能力だということです。仮説を立てて実行に移し、検証するサイクルを繰り返すことが重要だと教わりました。この教えの通り、たとえ失敗しても諦めず、成功するまで挑戦し続ける姿勢も大切にしています。

ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。

申基権:
弊社は毎年20%の成長を目標としています。こうした高い目標を掲げることで、業務改善への意識やチャレンジ精神を養いたいと考えています。また、今の人員でこの目標を達成するため注力しているのが、1人当たりの生産性の向上です。業務の効率化を進め、限られた人数でも仕事を回せるよう改善を重ねています。

さらに、一層の売上アップを図るために現在力を入れているのが、家庭用製品の販売です。スポーツジムで弊社の製品を利用された方が、「自宅にも欲しい」として家庭用の需要が伸びたことから、ECサイトの売上は前年比60%以上成長しました。今後も引き続き一般消費者の方々に向けて弊社の製品を使うメリットをお伝えし、販売の促進に力を入れる所存です。

編集後記

コロナ禍で会社の経営が大きく傾いたタイミングで社長に指名され、必死で沈みかけた船の舵取りを行ってきた申社長。同社が抱えていた課題をひとつずつ改善し、業績を軌道に乗せた経営手腕に脱帽した。株式会社インボディ・ジャパンはこれからも体成分の測定データを活かした身体づくりをサポートし、人々の健康を支援していく。

申基権/1979年韓国仁川生まれ。高麗大学(Korea University)卒。2004年にインボディ社に入社し、2年間ソウル本社の営業部に勤務。2006年に株式会社インボディ・ジャパン社に移籍し、営業・マーケティング・経営管理など業務を担当。2021年末に同社代表取締役法人長に就任。体成分(体組成)の重要性を伝え、健康意識を高めるための活動を続けている。