
ゴルフクラブ業界は、厳しい事業環境に直面している。若者のゴルフ離れや顧客層の高齢化により新規顧客の獲得が難しく、多くのゴルフクラブが収益減少の憂き目にあっているのだ。そうした中、創立70年という長い歴史を持つ株式会社相模原ゴルフクラブは、会員本位を理念に掲げ、安定した経営と高い会員満足度を両立させるなど、独自の存在感を放っている。
その秘訣はどこにあるのか。今回は、社長・理事長の井上直樹氏に、クラブの特徴や理念、これまでの歩み、そして未来への取り組みについて話をうかがった。
伝統が息づく名門クラブの70年
ーー貴クラブの成り立ちや特徴について教えてください。
井上直樹:
当クラブは1955年に国際的なジャーナリストでありIOC委員を務めスポーツ界、ゴルフ界のリーダーであった高石真五郎氏によって、ここ相模原の地に「気品のあるゴルフ場」を実現すべく創設されました。その理念として掲げられたのは、「最良の設備」「楽しいコース」「気品のある紳士(淑女)のクラブ」の3箇条です。多くの方々の賛同と支援を得てこの理念が具現化され、現在に至るまで脈々と受け継がれています。
また、敷地の約98%を自社で保有し、会員から選出された役員陣が民主的に運営を行っていることが当クラブの大きな特徴です。創立以来70年にわたって安定した運営を続けてきたことは、私たちの大きな誇りとなっています。
ーー理事長に就任された経緯についてお聞かせください。
井上直樹:
私は、幼少期から父に連れられて相模原ゴルフクラブに足を運んでいました。というのも、父が当クラブの理事や委員を務めていたからです。幼い頃から、このクラブに対しては「楽しい場所」という印象が強かったですね。そのため、長じて気分転換や健康増進を目的にゴルフを嗜むようになった時、この思い出深いクラブに入会するのは自然な選択でした。
入会してから、父を知る会員や従業員の方々と交流を深めるうちに、「私もこのクラブに貢献したい」という思いが強くなり、理事に就任。財務委員会などでの活動を通じて、このクラブが持つ恵まれた経営資源やその価値を深く理解することができました。同時に、この経験を経て、当クラブの素晴らしさを再認識しました。その後理事長・社長に推挙され、「会員が楽しめるクラブであり続け、さらに発展させることが私の使命である」と考え、引き受ける決意をしたのです。
会員本位を貫くガバナンス体制

ーー貴クラブの運営体制において、どのような点が強みだとお考えですか。
井上直樹:
最大の強みは、利用者である会員が株主として経営に参画し、その意向を直接運営に反映させることができる独自のガバナンス体制にあります。この仕組みにより、他の多くのゴルフクラブが収益性確保に偏った運営とせざるを得ない中、当クラブは会員満足度の向上に集中できます。私に課せられた一番の役割は、この仕組みを忠実に運営し、会員の総意に基づいた経営を実践することです。理事会・取締役会が意志決定する体制の中で、会員が求める方向性を常に意識し、それをクラブ運営に反映させることを心がけています。
ーー現在進められている改革や取り組みについて教えてください。
井上直樹:
時代のニーズに応えるため、西コースへのカート導入をはじめとするプレースタイルの多様化に向けた改革を推進しています。また、新しい世代にゴルフの魅力を伝えるため、ホームページなどのメディアを活用した情報発信を強化し、クラブの認知度向上に努めているところです。さらに、2025年9月には日本シニアオープンゴルフ選手権の開催を予定しています。この大会を通じて、より多くの方々に長寿と健康増進につながるゴルフというスポーツの魅力と当クラブの優れたコースや設備に触れてご覧いただき、相模原ゴルフクラブを体験いただきたいと願っています。
ーー理事長として大切にされている運営方針はどのようなものですか。
井上直樹:
私が理事長として最も大切にしているのは、会員がゴルフのプレーはもとよりクラブライフを楽しめる環境づくりです。このことを常に念頭に置いて、日々の運営に取り組んでいます。
多くの会員から支持されるクラブであり続けるためには、透明性の高い健全な運営が欠かせません。そのため会員に対して詳しい情報の開示に務めることに加え、当クラブでは会員から選ばれる役員の任期を定めております。たとえば理事長は任期4年と定められており、私の任期は残り1年半となりました。この任期制は、多くの会員が委員や役員として交代で経営に参加し、クラブがより会員本位の運営となるよう支えてきた重要な制度として、当クラブの伝統となっています。多くの会員から支持される会員本位のクラブであり続けるため、今後もこの仕組みの機能を十分に発揮していくことが不可欠です。
ーー理事長である間に注力したいことは何でしょうか?
井上直樹:
現在の最優先課題は、今年9月に開催される日本シニアオープンゴルフ選手権の成功です。それと同時に、当クラブにおけるクラブライフの豊かさをより多くの方々に知っていただく努力を続け、クラブの理念に共感していただける方々が、会員として、あるいは従業員として自然に参加できる環境を整えていくことが目標です。会員資格の親族への早期譲渡制度は導入済みですが、重要なステークホルダーである従業員も視野に入れて次世代へのスムーズな継承を支援することに力を入れています。
地域と人を結ぶゴルフクラブの価値観
ーー貴クラブで働く魅力や、採用方針についてお聞かせください。
井上直樹:
採用において、当クラブで働くことの「楽しさ」を広く発信することが重要だと考えています。勤務地が相模原市にあるため、通勤可能な範囲で就職や転職を検討されている方々を対象に、地域の情報やつながりを活かしながら、クラブの魅力を積極的に伝えていきたいですね。
当クラブのスタッフはシニアオープンなど全国規模の大会をいつでも開催できるような品質で、コース整備や業務運営をしていこうという意気込みを持って仕事に従事しています。2025年9月の日本シニアオープンゴルフ選手権は、自分たちの運営スキルの高さを検証できる貴重な経験となります。私たちは、これを「楽しい挑戦」として前向きに捉え、自らの仕事の水準を高めていける人材を求めています。
ーーゴルフクラブの社会的価値について、どのようにお考えですか。
井上直樹:
当クラブは、ゴルフを通じて人々が集い、豊かな時間を共有し楽しむことができる場を提供しています。豊かな社会において楽しみを生み出す事業には大きな社会的意義と価値があり、多くの人々に貢献できると考えています。この信念こそが、私がクラブ運営に関わり続ける理由の一つです。
さらに、ゴルフはワンショット、1ホール、そして18ホールごとに観察、立案、決断そして実行のプロセスを自らの感情や精神と折り合いをつけつつ繰り返すスポーツです。同時に同行のプレーヤーやキャディに対してもマナーや立ち居振る舞い上の配慮をしながらプレーしなくてはなりません。
このようにゴルフをプレーできるプレーヤーは自身の冷静な思考に基づいた計画を決意を持って実行にうつす。そして結果を冷静に受け止め、次の糧とするという世の中の仕事全てに共通する技術を身につけることになる。こうしたある種の修行にも通じるゴルフの持つ深い魅力を、より多くの方に体感していただける場として、相模原ゴルフクラブのクラブライフをさらに充実させていきたいと願っています。
編集後記
井上理事長の言葉には、会員とともにクラブを育む強い覚悟と、ゴルフの魅力を次世代に伝えたいという情熱が宿っている。2025年9月の日本シニアオープンゴルフ選手権を見据えた準備は、単なる改革ではなく、クラブの未来を見据えた果敢な挑戦そのものだ。70年という歴史を支えてきた会員主体の運営は、単なる伝統の踏襲ではなく、未来へと続く確かな信念として息づいている。相模原ゴルフクラブが今後どのように進化を遂げていくのか、その歩みに期待せずにはいられない。

井上直樹/1956年神奈川県生まれ。東京大学経済学部を卒業後、ペンシルバニア大学ウォートンスクールで経営管理修士(MBA)を取得。1980年に日本長期信用銀行に入行し、内外の金融機関で経営管理職に従事。シティバンク銀行やSMBC信託銀行などで代表取締役を務めた後、2019年から2021年まで株式会社ワークスアプリケーションズの代表取締役最高経営責任者を務める。2018年、株式会社相模原ゴルフクラブの理事・取締役に就任。2022年より理事長・代表取締役社長として、クラブの運営を牽引している。