
株式会社JALUX(ジャルックス)は、日本航空株式会社(JAL)と双日株式会社のグループ会社であり、航空関連のサービスを中心に多彩な事業を展開している。大企業の傘下で60年を超える安定した社歴をもつ一方、代表取締役社長の高濱悟氏は、大企業に頼りがちな社風を課題と捉えていた。社内改革を積極的に推進した結果、わずか数年で目覚ましい成果が形となって現れた。高濱氏はどのように社風を変革し、今後どのようなビジョンを描いているのか。その取り組みを中心に話をうかがった。
航空関連事業と商社機能をあわせもつ独自性
ーー大学卒業からJALUXの社長に就任するまでの経緯を教えてください。
高濱悟:
大学時代は工学部に所属していましたが、私が希望していた商社からの求人は工学部向けにはほとんどありませんでした。そんな中、ニチメン株式会社(現:双日株式会社)の求人情報が工学部に来ていたので、採用面接を受けて入社することになりました。
会社で昇進して成功するためには、実力や努力がもちろん重要ですが、それだけでなく「巡り合わせ」の良さも大切だと感じています。縁や巡り合わせに恵まれながらキャリアを積み重ね、執行役員 エネルギー本部長、常務執行役員 双日欧州会社社長などを経験した後、2022年に株式会社JALUXの社長に就任しました。
ーー主な事業内容について教えていただけますか。
高濱悟:
弊社は、日本航空株式会社および双日株式会社のグループ会社です。日本航空の持つ顧客基盤を最大限に活用しながら、双日の商社機能を取り入れることで、多岐にわたる事業を展開しています。
事業の核は主に4つあります。1つめは機体や各種部品を取り扱う航空・空港事業。2つめは不動産や保険に関するライフサービス事業。3つめは空港免税品や機内販売品の取り扱いやECを展開するリテール事業。そして4つめは食品の輸入・販売を行うフーズ・ビバレッジ事業です。これらの事業はいずれも、日本航空の安全性や信頼性の理念を共通の基盤としながら、双日の商社としての機能も融合することで、弊社だけの独自性を生み出しています。
受け身の姿勢から、積極的な商社としての姿勢に導く

ーー社長就任後の取り組みの中で特に注力したことは何ですか?
高濱悟:
弊社は、大手2社の傘下にいた歴史が長いため、親会社からの業務受託が中心でいわゆる「受け身体質」の会社でした。その影響で、社員の体質も、他人とトラブルを避けようとするおとなしい性格が根付いていたように思います。
受託業務中心の時代にはそれでも良かったかもしれませんが、現在は、商社として能動的に動く必要があります。私はこの「受け身体質」を大きな課題と捉え、その体質から脱却し、主体的に行動できるような社風への転換を目指しました。
それにともなって、人事制度の改革にも着手しました。積極的な挑戦にはリスクがともないますが、減点主義の人事制度の元では、誰もリスクを取ろうとしなくなります。そこで私は、成果主義を導入したのですが、それだけでは成績が思わしくない場合に従業員がやる気を失うリスクがあります。そのため、仮に悪い成績をとった年度があったとしても、挽回できる仕組みを整え、挑戦する姿勢を評価する制度を採用したのです。
また、管理職を含めた社員たちは、経営数値や計画管理に対する意識が希薄でした。そこで、会議の場では目標の進捗や達成度を、具体的な数値に基づいて発表し、その内容に責任を持つ仕組みに改善しました。この取り組みを通じて、商社として必要な経営意識を全社的に根付かせることができます。
さらに、全体の事業規模も見直しました。これまでは赤字店舗の閉鎖に消極的で、利益が出ないまま人手不足が深刻化していました。私はいくつかの赤字店舗を閉鎖し、人員配置を見直しました。海外で展開していた日本商品についても「将来性がない」と判断して、撤退を決断しました。これらの施策は「選択と集中」という経営方針に基づくものです。取り組みの結果、私が社長に就任してから2年間で、過去最高益を達成することができました。
全力疾走の先にあるステップアップの道筋
ーー今後の方針と展望についてお聞かせください。
高濱悟:
これまで、弊社が持つ経営資源を最大限に活用し、成果を上げてきたと考えています。コロナショックの影響が小さくなり、航空産業が回復する中で、インバウンド需要の増加も追い風となって、経営にプラスの効果をもたらしました。しかし、さらなるステップアップを目指すためには、現在の経営資源だけでは不十分です。優れた経営資源を有する他社の買収や新たな分野への投資を行い、経営基盤の拡大を図る必要があります。
弊社の4つの事業分野はいずれも重要ですが、特に注力すべき分野として、航空・空港事業とフーズ・ビバレッジ事業を挙げたいと思います。コロナショックの際、航空分野が大きな打撃を受けた経験を踏まえ、非航空分野への注力を経営目標の1つに掲げています。特にフーズ・ビバレッジ事業は、消費者に直接関わる分野であり、どのような状況下でも安定した需要が見込まれるため、さらに力を入れていきたいと考えています。
2025年は、現在進行中の中期経営計画の総仕上げの年となっており、この計画において弊社が持つ経営資源を限界まで活用して成果を出し、「自分たちはここまでやり切った」という達成感を全社で共有したいと考えています。この達成感は、次のステップである事業拡大の必要性を実感するきっかけとなるはずです。そのためにも、2025年は全力疾走の1年にする覚悟で臨みます。
編集後記
非常にロジカルな思考と言葉に学ぶべきことの多いインタビューだった。社風や体質の改善は短期間では難しいものだが、高濱氏はわずか2年で遂行して、過去最高益という明確な成果を出した。その視線はすでに次なるステップへと向かっている。大手グループの傘下という状況に甘んじることなく、独立した企業としての経営哲学が語られており、多くの企業や、これから起業を考える人たちにも大いに役立つだろう。

高濱悟/1960年宮城県生まれ、東北大学卒業。ニチメン株式会社(現:双日株式会社)に入社。執行役員 エネルギー本部長、常務執行役員 双日欧州会社社長などを経て、2022年に株式会社JALUX代表取締役社長に就任。