
大阪府松原市に本社を構えるワールドダイブ株式会社は、完全受注生産でオーダーメイドのダイビングスーツを製造する老舗メーカーだ。製品の企画開発や製造から、販売やメンテナンスまで一貫してサポートする、情熱あふれるものづくりを展開している。
代表取締役社長である高橋信弘氏は、自らもスクーバダイバーとしてインストラクターの経験を持つ。同社が描く展望や戦略について、高橋社長に話をうかがった。
ユーザーとして魅了された完全受注のダイビングスーツとの出会い
ーー高橋社長の経歴と、ワールドダイブ入社の経緯をお聞かせください。
高橋信弘:
大学2年生の頃にスクーバダイビングを始め、大学卒業後もインストラクターとして1年半ほど働きました。その時、ワールドダイブのドライスーツを初めて着用したときの衝撃は今でも忘れません。水が1滴も入らない品質の高さに感動しました。この貴重な体験が、ものづくりへの情熱を深めるきっかけとなったのです。
ーーユーザーとして製品の良さを体感した経験が、経営者としての原点となっているのですね。
高橋信弘:
まさにその通りです。弊社は1976年から続くダイビングスーツメーカーであり、レジャーや趣味で使う方々だけでなく、自衛隊員や消防士などのプロフェッショナルにも愛用されています。
レジャーダイビングでは、体にフィットするスーツが求められます。スクーバダイビングではレンタルスーツを使用する方も多いのですが、フィット感が悪いとストレスがたまり、せっかくのダイビングがだいなしです。
その点、弊社のスーツは、フィット感や保温性を重視し、ダイビング時に快適な動きやすさ、繰り返し使える耐久性とのバランスを常に意識しています。材料の選定から職人の縫製まで、丁寧なものづくりを1着1着行っているのが、弊社の強みです。
ーー高品質のものづくりを実現している秘訣は何ですか?
高橋信弘:
お客様へ感謝の心をもって製品と向き合うこと、それは製品をつくってくれている従業員への感謝の心があって、成しえると考えています。従業員全員が楽しく感謝の気持ちを込めてつくることができれば、お客様へもそれは伝わります。お客様の声、製品の声を聴きながら、きれいな製品をお届けしたい、という気持ちを常に持って取り組むことが大事だと考えています。
弊社の工場には熟練の職人が多く、長年、常に品質を追求したものづくりを続けてきました。その影響もあって、社員全員が確実に高品質のスーツをつくろうという文化が根付いています。もちろん、これで終わりということはありません。常に高い意識をもって取り組んでくれている従業員の皆さんには心から感謝しています。
原動力はポジティブな経営マインド!2028年には売り上げ規模を10億円に

ーー経営で大切にしていることをお聞かせください。
高橋信弘:
常にポジティブであることです。仕事は人生の大部分を占めるものですから、楽しく、志を持って取り組むことが重要だと思います。仕事が充実しているからこそプライベートもより豊かになり、その逆も言えると思います。どちらも充実している、それがワークライフバランスではないかと考えます。だからこそ、物事を前向きに捉えて取り組むことが、自分を高めることにつながるのです。
ーーポジティブであるからこそ結果を残せるという側面も多いのでしょうか。
高橋信弘:
その通りです。弊社では新しいドライスーツを発売しましたが、先行予約の結果が非常に良く、入札案件も増やせました。自衛隊や消防署からも多くのご注文をいただくことができたのです。ポジティブな考え方に切り替えれば、良い成果が得られると感じていますね。
また、毎週月曜日に行う4拠点をつないで行うリモート朝礼では、自分の言葉が周りに与える影響の大きさを強く実感しています。自分の発言力を意識しながら、さらに高いレベルを目指していきたいですね。2028年には売り上げを10億円規模まで成長させたいので、このような展望も社内に共有しています。
世界に認められるものづくりへの誇りを持ち続けたい

ーーものづくりに真摯に、前向きに向き合い続ける原動力は何ですか?
高橋信弘:
私たちは、目の前にある製品をただつくって販売するだけでなく、その先にあるお客さまの笑顔や、人生が変わるような体験を生み出すように仕事をしています。だからこそ、弊社のダイビングスーツを通して、島国日本の豊かな自然を肌で感じていただける時間をお届けすることが、私たちの大きな使命のひとつだと思っています。
ーー海外市場への進出もお考えですか?
高橋信弘:
現状ではまだまだ海外市場を開拓しきれているとは言えません。ウェットスーツは体型に合わせたものづくりが求められますが、欧米人とアジア人の体型は当然異なります。そこで、まずは弊社のノウハウを活かして、アジア人向けの市場に注力していくつもりです。アジア圏は依然として人口が増加している地域であり、ここに大きなチャンスがあると思っています。
一方で、少子高齢化により日本国内の市場は今後減少していくでしょう。すでに弊社は国内で一定のシェアを獲得していますが、市場規模が縮小する中で売り上げを伸ばすことは難しいと思います。
そのため、次の一手として考えている事業は、レジャー以外の市場への強化です。漁業関係者向けや官公庁向けの製品開発がその一例です。レジャー以外の市場には、まだまだ成長の余地があると感じています。
ーー社長が思い描く夢についてお聞かせください。
高橋信弘:
もっと世界で勝負できる、世界に認められるものづくりをしていきたいと思っています。
弊社のダイビングスーツの品質は、社外からお褒めの言葉をよくいただいています。また、欧米の方も弊社のドライスーツをみると、「こんなスーツがあるのか」と驚かれます。海外のドライスーツの素材はファブリック素材が主流ですが、弊社のネオプレン素材ではより着心地が良く、体にフィットするよう仕上げられています。
また、縫製にもこだわっており、表は丁寧に縫い合わせ、裏は特殊なテープで補強することで、長時間の使用でも快適な防水性を実現できました。
こうした素材や生産技術に誇りを持ち、世界に通用する製品を提供しているからこそ、より多くの方々に日本のウェットスーツの素晴らしさを知っていただきたいと考えています。
編集後記
インタビュー中に「日本のウェットスーツは、ガラパゴスだと言われている」と教えてくださった高橋社長。ガラパゴス化している要因の一つが、世界のメーカーが真似できないきめ細やかな技術力にあるという。この確かな技術力を携えて、世界へと羽ばたく未来を描く社長のまなざしからは、確かな自信と希望が感じられた。

高橋信弘/1968年福島県出身。駒澤大学経済学部卒業。大学時代に始めたスクーバダイビングにのめり込む。大学卒業後インストラクターとして1年半働いた後、当時愛用していたダイビングスーツメーカーのワールドダイブに入社。営業や企画の業務経験を経て、2022年、代表取締役社長に就任。