
株式会社ビジョンメガネは、眼鏡やコンタクトレンズ、補聴器など、人々の目と耳を守る商品を扱う老舗企業だ。一度は民事再生の憂き目にあった同社を復活させ、今日まで率いてきたのは代表取締役社長の安東晃一氏である。店員からキャリアをスタートさせたという安東社長に、これまでの歩みや同社の強み、今後の展望についてうかがった。
社長就任の2週間後に民事再生を経験
ーー社長に就任した経緯を教えてください。
安東晃一:
新卒でビジョンメガネに入社し、いくつかの店舗で店長を経験した後、本社へ異動しました。本社では、後輩の教育や研修を担当したり、企画や店舗開発に携わったりと、いろいろな部署で経験を積みました。
そんな折、経営不振による業績悪化のため、弊社は上場を廃止せざるを得なくなったのです。当時私は本社でIR業務に就いていたのですが、株主や投資家の方々に情報開示する部署ですから、会社の状況もよくわかっていました。
一度退いていた創業者の息子さんが、会社立て直しのために戻ってきて、その方からご指名をいただいて、私が社長に就任しました。2011年のことです。
その後、今度は親会社であるビジョン・ホールディングスの社長が辞任し、「親会社の社長もやってもらえないか」と言われました。民事再生の申し立てが2週間後に迫っている厳しい状況下でしたが、誰かがやらなければいけません。ならば、会社のIR情報に詳しく、店舗運営の経験もある自分がやるしかないと決意し、2013年にビジョン・ホールディングスの社長に就任しました。
ーー民事再生の状況からどのように復活したのですか。
安東晃一:
業績がかなり厳しい状況に陥っていたため、社長就任後はまず、社員と取引先への説明から始めました。従業員・取引先ともに不信感が高まった状況での民事再生だったため、経営に携わる者として、人の信用を失うのはこんなに怖いことなのかと痛感しました。
今日ここまで来られたのは、弊社を見捨てずにいてくださった取引先の方々と、一緒に頑張ってついてきてくれた従業員の皆がいたからだと思っています。
私は新卒のプロパー社員でしたので、従業員一人ひとりのことも昔からよく知っていました。ですから、再生のための協力をお願いできる従業員が、先輩も含めたくさんいたのはありがたかったですね。皆さんも私のことを知っていたので、「あいつ、何か大変そうだな」と助けてくれたのかもしれません。
従業員との関係性を長年築いてきたおかげで、自分に社長が務まるだろうかという不安はあっても、困難な状況を皆で乗り越えれば、なんとかなるだろうという自信もありました。
ホスピタリティの心が生み出す新しい保証制度

ーー貴社の事業内容や看板商品を教えてください。
安東晃一:
弊社は眼鏡やコンタクトレンズ、補聴器やその関連商品を扱う眼鏡の小売店で、2024年に48年目を迎えました。どんなに動いてもずれない眼鏡「MYDO(マイドゥ)」や形状記憶技術を活用した「KtaiFLEX(ケータイフレックス)」など、機能性に優れた商品が多くそろっています。
また、2019年から始まった「ビジョンパーフェクト保証」という、有料で眼鏡の保証を3年間延長できる保証制度で、弊社ならではのサービスだと思います。これは保証期間中であれば、お客様側の追加負担ゼロで何度でも度数変更や破損の際に交換に対応できる保証延長制度です。成長期のお子さんは合う眼鏡が変わりやすいため、特に親御様から高い評価をいただいています。
保証が延長できるサービスは同業の中にもありますが、保証対応時に追加料金がなく対応できるのは、国内を見ても弊社くらいではないでしょうか。
ーー貴社の強みをお聞かせください。
安東晃一:
充実した教育制度による販売員の技術と知識です。お客様の喜びを自分の喜びと感じられる、ホスピタリティにあふれた従業員が多いと感じますね。顧客満足度のアンケートでも、99%の方に満足していただいています。
自分にぴったり似合う眼鏡は、普段の生活や用途を鑑みて、顔型やパーソナルカラーといったお客様自身の特徴を考慮して見つけるものです。視力検査ひとつをとっても、単に視力を計るだけではなく、お客様が日常でどういった使い方をするか、というニーズをお聞きしながら行う必要があります。
眼鏡は現物を見て、実際に体験していただきながら、販売員と相談して選んでいただくものです。その時に、サポートができる技術と知識を持った従業員がそろっている点が、私たちの強みだといえるでしょう。どんなお客様のどのような困りごとでも解決できるような体制を構築していると自負しています。
ーー今後は採用にも注力するそうですが、どのような人に来てほしいですか。
安東晃一:
人のために行動したいとか、人の役に立ちたいと思っている方でしょうか。眼鏡というのは若い時は不要な方でも、歳をとれば誰しも必要となるものです。ですから、眼鏡を販売する仕事は、必ず人様の一生に一度はお役に立てる仕事だと思います。
「見える」ようになることを、とても喜んでくださるお客様が多くいらっしゃいます。「ありがとう」と感謝の言葉をいただくことも少なくありません。お客様が見たい世界やかなえたい夢を実現させるためにお手伝いができる、そんな仕事です。お客様のためならいつも笑顔で頑張れる、という方に来ていただけたら嬉しいですね。
グループの拡大を通して眼鏡業界の発展に貢献
ーー今後の展望について教えてください。
安東晃一:
1つ目は、グループの拡大です。現在、個人経営の眼鏡屋さんはどんどん減ってきています。後継者がいないために廃業される方も多いと聞きます。町の眼鏡屋さんがなくなった時、困るのは近隣のお客様です。
ですから、後継者がいなくなった眼鏡屋さんに私たちのグループに入っていただき、眼鏡業界を一緒に盛り上げてもらいたいと考えています。これは弊社の店舗の拡大ではなく、個人の眼鏡屋さんのスケールメリットを活かした、持続可能な経営を目指すものです。背景には、業界の維持と発展への思いがあります。「町の眼鏡屋さん」を残しつつ、眼鏡業界が発展するための可能性を追求していきたいと考えています。
2つ目は、業界の枠を超えたサービスを生み出すことです。業界内だけで同じビジネスを続けていくと、いずれ限界が来ます。そういった意味で、保険会社様と取引する中で誕生した「ビジョンパーフェクト保証」サービスは画期的でした。業界の枠組みを超えて新しいサービスを生み出せたことに、大きな可能性を感じています。
ーー最後に、読者にメッセージをお願いします。
安東晃一:
私は眼鏡屋を、自転車屋さんや薬剤師さんのような存在だと考えています。毎日行くような場所ではありませんが、何か不具合が生じた時の駆け込み寺のような存在ですね。
普段はあまり目立たなくても、本当に困った時にすぐ行けて、悩みを解消してくれる。そんな「町の眼鏡屋さん」として縁の下の力持ちであることが、私たちのあるべき姿だと思っています。こうした思いに共感してくださる方と一緒に働けたら、とても嬉しいですね。
編集後記
取材を通して、安東社長から、逆境にあっても不屈の精神で進む、ぶれない強さを感じた。顧客一人ひとりの生活のためにサポートするという誠実な姿勢はこれからもずっと受け継がれていく。さらに、地域全体として「町の眼鏡屋さん」の存続のしくみを考える大きな視点にも感銘を受けた。業界全体の発展を見据えて走り続ける同社の次なる挑戦に期待したい。

安東晃一/1972年、大阪府生まれ。1996年株式会社ビジョンメガネに入社後、2011年に代表取締役社長に就任。2013年にビジョンメガネの親会社である株式会社ビジョン.ホールディングスの代表取締役社長に就任。