
1階から8階まで吹き抜けの中央階段、山並みを一望する展望露天風呂、斜面に沿って建つ特徴的な建築。下呂のランドマークとして知られる「ホテルくさかべアルメリア」を運営する株式会社アルメリア・スパアンドリゾーツは、他に類を見ない施設設計と豊富なエンターテインメントで独自の地位を築いてきた。さらに、犬と泊まれる温泉旅館「わん泊亭(わんぱくてい)」も運営し、幅広い客層のニーズに応えている。
社員とともに、お客さまへ「活力」を届けることを目指す代表取締役社長の日下部孝氏に、施設の魅力とユニークな施設運営の秘訣をうかがった。
現場で経験を積みながら経営の道へ
ーー入社されてから社長に就任されるまでの経緯を教えてください。
日下部孝:
弊社は私の妻の家業であり、私は婿として入社しています。入社後は、本館である「ホテルくさかべアルメリア」で、皿洗いや布団敷きといった業務からスタートし、その後はフロントや予約管理、レストランなどの主要な部門を一通り経験しました。
そして、入社から約1年半が経ったころ、休館していた「紅葉館(こうようかん)」を「わん泊亭」として再出発させるプロジェクトが始動することになったのです。私が支配人に就任することになり、コンセプトを「犬と泊まれる宿」として掲げ、他の系列旅館と差別化を図って営業を再開しました。そこで約5年間支配人を務めた後、「ホテルくさかべアルメリア」に戻り、経理や総務といった業務を担当しながら、社長室長として前社長のもとで経営を学ぶ機会をいただきました。そして、2024年に社長へ就任したという経緯です。
ーーこれまでどのような苦労がありましたか?
日下部孝:
「わん泊亭」の立ち上げは、弊社に犬連れのお客様に対応するノウハウがなかったため、ゼロからのスタートでした。多くの課題がありましたが、必要な設備やサービスについて、お客さまの声を取り入れながら、一つひとつ形にしていきました。
たとえば、食事会場はペット同伴で利用できませんが、「食事中も一緒にいたい」という声を受け、部屋食プランを導入しました。また、雨の日など散歩ができないときのために、室内ドッグランを設置して館内でも運動ができるようにしています。ほかにも、散歩道具や足拭き用のおしぼりを玄関に無料で用意するなどのサービスも導入しました。すべて試行錯誤の連続で、大変な5年間でしたね。
しかし、そうした取り組みを続けるうちに、お客さまから「温泉街で犬と泊まれる宿をつくってくれてありがとう」という喜びの声を多くいただけるようになったのです。その言葉が、大きな励みになりました。
癒しと活力を提供する、非日常な空間

ーー「ホテルくさかべアルメリア」の特長を教えてください。
日下部孝:
「ホテルくさかべアルメリア」の特長は、そのユニークな施設設計と多彩なイベントにあります。同館は山の斜面に沿って建てられており、館内にはゴンドラのように斜面を移動するケーブルカーが設置されています。また、アジアのリゾートを思わせる内装デザインや、1階から8階まで吹き抜けになっている中央階段、下呂の街並みと雄大な山並みを一望できる展望露天風呂も、他の施設では見られない景色だと思いますね。
さらに、癒やしだけでなく「元気を届ける」ことをコンセプトとして、プロダンサーを招いたショーなど、元気が出るようなイベントを開催しています。お客さまからは「ここに来ると元気になれる」「元気がなくなったらまた来るね」というお言葉をいただくことも多く、コンセプトがお客さまにしっかり伝わっていることを実感しています。
ーーどのようなビジョンを持って経営されているのでしょうか?
日下部孝:
私たちは、「お客さまに明日への活力を提供する」ためにホテルを運営しています。くつろぎや癒やしを提供するのはどの旅館でも同じですが、私たちはお客さまの創造力を刺激し、新たなインスピレーションを生み出すような体験を提供したいと考えています。これは、お客さまから「アルメリアに来ると元気になって帰れる」という声を多くいただくなかで、明確になってきたビジョンです。そのために、日常のなかでは得られない新たな発想や前向きなエネルギーを生み出す、「非日常」な空間づくりを目指しています。
お客さまもスタッフも元気になれるホテルを目指して
ーー社内のキャリアアップ制度について教えてください。
日下部孝:
弊社では、年功序列に縛られることなく、誰でもキャリアアップが可能です。若手や中堅といった経験年数に関係なく、意見を発信し、新しいことに挑戦できる風土を大切にしています。弊社では若手でも、意欲のある方に積極的に仕事を任せており、たとえば、プロダンサーを招くショーの管理を担当しているのは入社2年目の社員です。このように、挑戦する意欲を持つ社員に責任ある役割を任せることで、さらなる成長の機会を提供しています。
ーー今後、どのような会社を目指していきたいですか?
日下部孝:
「お客さまに明日への活力を提供する」ために、まずはスタッフの活力があふれる会社を目指したいと考えています。サービスを提供する側の社員が疲弊していては意味がありません。私たちの提供する非日常の空間は、お客さまだけでなく、働く社員たちにとっても刺激的で楽しい場所であるべきです。そうした活力あふれる職場環境があってこそ、本当の意味での「活力を与える企業」になれると考えているので、その実現に向けてこれからもまい進していきます。
編集後記
一般的な温泉旅館では考えられない斬新な施設とサービス。しかし、その根底には「お客さまの声を聴く」という極めてオーソドックスな姿勢があった。犬と泊まれる宿「わん泊亭」の成功は、まさにその証しだろう。社長就任後もなお、現場の声に耳を傾け続ける日下部社長の姿に、老舗旅館を運営する企業が革新を続ける理由を見た気がした。

日下部孝/1979年、愛知県生まれ。名古屋工業大学大学院卒業。2004年、住友理工株式会社(旧:東海ゴム工業株式会社)へ入社し、技術職として開発業務に携わる。2009年、株式会社アルメリア・スパアンドリゾーツへ入社。2024年、同社代表取締役社長に就任。