※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

株式会社ライスカレー。一見すると飲食店を連想させるこのユニークな社名の企業は、祖業のSNSマーケティング支援で培ったデジタルマーケティングのノウハウを、オーラル美容ブランド「MiiS(ミーズ)」をはじめとする主軸のブランドプロデュース領域の運営に活かす革新的な企業である。

時代の変化を敏感に捉え、SNSを活用した独自の戦略で急成長を遂げた背景には、どのような理念があるのか。また、今後の差別化戦略やさらなる成長のビジョンはどこに向かうのか。創業者であり代表取締役の大久保遼氏に、挑戦を続ける企業の未来図を語っていただいた。

ユニークな社名に込めたメッセージ

ーー会社設立までの経歴を教えてください。

大久保遼:
高校時代に出身校のOBであるオイシックス株式会社(現:オイシックス・ラ・大地株式会社)の高島宏平社長の講演を聴く機会がありました。「売上が10億円でもまだまだだ」と語る社長の姿を見て、起業に興味を持ちました。親族には資格職やクリエイターが多く、自分で自分の将来を決めたいという性格もあり、自然と起業を目指すようになったのだと思います。

東京大学理科二類に入学し、当初は研究者を志したものの、起業への関心が冷めることはありませんでした。その後、経済学部に転部し、在学中にはアプリの制作や販売にも挑戦しましたが、思うような結果は残せずその過程で金融業界にも興味を持つようになったのです。

卒業後はゴールドマン・サックス証券株式会社に入社し、配属された広告・通信系企業向けのM&A部署で築いた人脈、特に大手通信系企業とのつながりが、後に起業する際に大きな力となりました。

ーーなぜ株式会社ライスカレーを設立したのですか?

大久保遼:
最初に起業したのは「Momentum(モメンタム)株式会社」という会社で、ウェブ広告が不適切な記事に表示されないよう制御するツールを開発・販売し、現在も事業を継続しています。たとえば、暗い事件の記事にブランド消費財の広告が表示されないようにする仕組みです。この会社は現在も存続しています。

しかし、ウェブ広告が主流になると予測されていた時代から、アプリ広告へと潮流が変化したため、この会社をKDDIグループのSyn.ホールディングス株式会社(現:Supershipホールディングス株式会社)に売却しました。その後、新たな事業としてSNSマーケティングに着目し、2016年に「株式会社ライスカレー製作所(現:株式会社ライスカレー)」を設立したのです。

ーー社名の由来を教えてください。

大久保遼:
創業の準備中に「ゴッホ」と検索すると、通常の検索エンジンでは画家のゴッホがヒットしますが、Instagram上で検索するとカレー店が表示されることに興味を持ちました。そのカレー店は一般にはあまり知られていませんが、カレー好きの間では有名な店でした。

この「ゴッホ」と「カレー」の組み合わせに、一般ユーザーが発信するニッチな情報が価値を持つ時代の到来を確信すると同時に、私の考えにも合致していると感じたのです。ただし「カレーライス」ではドメインが取得できなかったため、「ライスカレー」を社名に採用しました。

個性と柔軟性を重視する人材戦略

ーー設立後、現在までの流れをお聞かせください。

大久保遼:
設立当初は多少の苦労もありましたが、Momentum株式会社で培った経験や人脈のおかげで、比較的順調に進めることができたと思います。設立当初からInstagramに注目していたことが功を奏し、その後の「インスタブーム」が追い風となりました。

さらに、弊社が運営する美容メディア「MiiLabo(ミーラボ)」を通じて、コロナ禍におけるオーラルケア人気の高まりをデータで捕捉し、それをきっかけにオーラル美容のBtoCブランド「MiiS」を展開。このブランドは、弊社の主力ブランドへと成長し、弊社が設立から8年で上場を果たす上で大きな助けになりました。

現在は、ブランドプロデュース領域とマーケティングソリューション領域の2つの柱で事業を展開しています。ブランドプロデュース領域では、「MiiS」や「MOVE」をはじめとした自社ブランドを展開するほか、OEM(他社ブランド製造受託)事業も行っており、そこで蓄積したノウハウやデータを活かして、大企業向けに大衆商品を効果的にSNSマーケティングする支援も提供しています。

ーーどのような人材を求めていますか?

大久保遼:
弊社は、BtoCとBtoBというまったく異なる領域の事業を同じグループ内で展開しており、社内にはさまざまな個性を持つ人材が集まっています。学歴や年齢もバラバラで、設立9年目の若い会社ですが、もうすぐ定年を迎える社員も在籍しており、幅広い多様性が特徴的です。弊社で活躍できるのは、この「カオス」ともいえる環境を楽しめる人材です。

採用においては、自分と異なる価値観を持つ人に対するリスペクトと寛容性を重視しており、そうした柔軟性を持つ方を採用したいと考えています。

経済成熟時代に挑む価値創造

ーー今後、どのような戦略で事業を進めますか?

大久保遼:
弊社は「ニッチトップ戦略」を掲げています。消費者の属性やニーズは多様であるにもかかわらず、テレビCMのように画一的に多数派を狙った広告では、どうしても無難な内容になりがちです。一方で、SNSを活用すれば、対象となる消費者層ごとに細かくメッセージを届けることが可能であり、これが私たちの大きな強みとなっています。

一見、成長の余地がないように見える市場でも、SNSのインサイトを利用することで隠れたニーズを発見することができます。そうした小さな需要を見つけ、その領域でトップを目指す形でブランドプロデュースを展開していきたいと考えています。

また、SNSマーケティングについても同様の「ニッチマーケティング戦略」を展開し、多様な使い方や解釈の中から成長が見込める部分を見つけ出し、そこに訴求していく方針です。

ーー貴社の将来像についてお聞かせください。

大久保遼:
近年、日本を含む先進国では経済が成熟し、成長が停滞していると言われており、多くの企業が成長市場を求めてアフリカや東南アジアといった地域に進出しています。しかし、私は「先進国にはもう成長の可能性がないのか?」という疑問を持っているのです。アフリカや東南アジアもやがて成熟した市場となった時、その次はどこを目指すのでしょうか?

熟した市場に見える先進国にも、実はまだ隠れたニッチな需要や成長の余地があることを広めたいと考えています。また、単なる経済成長以外にも、成熟した市場だからこそ生まれる豊かさや新しい価値観を追求し、それを発信したいとも思っています。

こうした視点で事業を展開し、成熟市場に新たな可能性を示す会社にしていきたいのです。仮に海外進出する場合でも、私はあえて先進国を選び、そこに新しい価値を提供する挑戦を続けていく所存です。

編集後記

成長市場を求めて海外へ、そしてその先にある未知の課題。これは、私たちビジネスの未来を考える者にとって避けては通れない課題だ。大久保社長は、その先にある「成熟市場での新たな価値」を模索している。まだ全貌は見えないかもしれないが、その視点には挑戦者としての確かな情熱が宿っている。

株式会社ライスカレーが生み出す新しい価値は、いつの日か世界経済の歴史に新たな一頁を刻むに違いない。その瞬間を目撃できる日が、今から楽しみでならない。

大久保遼/東京大学経済学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券株式会社投資銀行部門に入社。主に広告、通信・メディア、テクノロジー関連のM&A、ファイナンシングのアドバイザリー業務に従事。2014年にMomentum株式会社を創業(のち、Syn.ホールディングス株式会社に売却)。2016年に株式会社ライスカレー製作所(現:株式会社ライスカレー)を設立し、代表取締役に就任。2024年に東証グロース市場に上場。