
親会社であるオークラ輸送機が開発・製造した物流システムの据付工事やメンテナンスを手がける会社として、1971年に誕生したオークラサービス株式会社。eコマースなどの物流システムを支えるための安心・安全で高品質なサービスを提供し、世界的知名度を誇るリーディングカンパニーの成長を支援してきた。言うなれば「縁の下の力持ち」として、力を存分に発揮するため、人材育成に特別な力を注いでいる。そこには、どのような思いが込められているのか。代表取締役社長の大庫隆夫氏に話をうかがった。
メーカーを支える会社として、社会に必要とされる事業価値を
ーー社長就任から今日まで、どのようなお考えで経営に取り組んできましたか?
大庫隆夫:
弊社は1927年に祖父が創業したオークラ輸送機株式会社の子会社として、1971年に設立されました。1992年に社長に就任して以来、「メーカーであるオークラ輸送機をどう支えていくか」を常に意識して経営にあたってきました。オークラ輸送機の成長を支えるために、オークラサービスが果たすべき役割を深く自覚し、安全と高い品質をお客様へ提供できる会社を目指し、日々取り組んでいます。
ーー貴社の事業について教えてください。
大庫隆夫:
親会社であるオークラ輸送機は、ベルトコンベヤをはじめとする物流システムを開発・製造し、提供している企業です。一方、弊社はオークラ輸送機がつくり出したシステムを安全に運用いただくための据付工事を行う工事事業と、設置したシステムを長期間ご利用いただけるようサポートするメンテナンス事業を主軸に事業を展開しています。
メンテナンスサービスの価値を認めていただくために

ーーこれまでの主な取り組みについて教えてください。
大庫隆夫:
機械には必ずメンテナンスが必要です。弊社が設立する前は、オークラ輸送機の製造部工事課のサービス係がメンテナンスを担当していましたが、すべて無償で提供されてきました。事業が拡大し、販売台数が増えるにつれてメンテナンスの需要が高まり、お客様に満足いただけるサービスを提供し続けるためには、メンテナンスを事業化して利益を生み出していくことが喫緊の課題でした。
現在では、携帯電話やパソコンをはじめとする多くの製品において、アフターサービスに費用が発生することは常識です。部品交換には部品代が、修理には人件費や技術料がかかることを、多くの人が納得して修理を依頼しますが、かつてはその意識は一般的ではありませんでした。「壊れたのはメーカーの責任だから、無償で修理してほしい」と考えるお客様が多く、有償でのアフターサービスはなかなか受け入れられなかったのです。
弊社の有償でのメンテナンスも受け入れていただくまではかなりの時間を要しました。お客様からご要望があればすぐさま駆けつける覚悟で何事にも真摯に対応し、一貫して高品質なメンテナンスを提供し続けてきました。その積み重ねがあったからこそ、多くのお客様に弊社のメンテナンスサービスの価値を認めていただけるようになったと自負しています。
安心・安全で高品質のサービスを提供する要は「人財」
ーー高品質のサービスを提供するために取り組んでいることを教えてください。
大庫隆夫:
お客様のニーズに応えるためには、プロフェッショナルとして誇りを持つ技術者や職人を育てることが重要です。この思いを形にしたのが「社内大学」です。設立したのは1999年ですが、当時は社内教育組織を設置している企業は少なく、かなり先進的な取り組みだったと思います。
社内大学では新卒社員向けの実習を交えた研修や、業務で必要な技術を習得するための講座などを開講しています。工事やメンテナンスを行う物流システムの扱いには危険が伴うため、事故防止に努めるためにも、社内大学でシステムの取り扱いや安全管理について徹底的に学んでもらうことにしているのです。
また、社内大学の教育を推進していくために、弊社独自の「技術者資格制度」を導入しました。これは「工事」「メンテナンス」「設計」の各分野において、厳しい審査に合格した者に資格を授与する制度であり、「社員一人ひとりに専門的な得意分野を持たせたい」という私自身の思いが込められています。
社内大学と技術者資格制度によって社員一人ひとりの成長はもちろん、会社全体のレベルアップや社員の定着にもつながっています。
予知保全と協働ロボットの実現を目指して
ーー今後はどのようなことに注力する予定ですか。
大庫隆夫:
お客様が最も困るのは、機械が突然故障し、工場のラインが止まってしまうことです。物流センターで機械が停止すると、商品の出荷が滞り、その先にいる一般のお客様、ひいては社会全体へも大きな影響を及ぼす可能性があります。
そうした事態を避けるために現在弊社が取り組んでいるのが予知保全です。IoTを活用して機器の稼働状況をリアルタイムで把握し、故障を予測して機械が止まる前にメンテナンスを行うことが狙いです。予知保全によってお客様設備の安定稼働を実現できるのはもちろん、従業員の働き方改善にもつながると考えています。
もう一つ実現したいのは協働ロボットの開発・導入です。たとえば、これまでのトラブル対応をデータベース化し、AIを搭載したロボットに学習させることで、技術者の現場作業を支えるような協働ロボットを考えています。
世の中全体で省力化・自動化のニーズが高まっており、私たちの主な顧客である物流や生産の現場でもその流れは顕著です。親会社であるオークラ輸送機は、こうした課題を解決するための機械を開発・製造する企業であり、私たちオークラサービスは据付工事やアフターサービスを担うことで、グループ全体でお客様のニーズに応え続けていくための体制を構築しています。それこそが、私が目指す会社のあり方だと考えています。
編集後記
高品質のメンテナンスを提供することで、「アフターサービスは無償」という固定観念を覆し、「アフターサービスは有償」を新たな常識として根付かせたオークラサービス。その会社を率いてきた大庫社長は、社内大学の設置など先進的な取り組みを次々と実現し、さらなる挑戦に臨もうとしている。その姿に注目し、期待を寄せる人は少なくない。関西弁で飄々と語る大庫社長の言葉の裏には、強い意志と揺るぎない情熱が感じられた。

大庫隆夫/1957年兵庫県生まれ。関西学院大学商学部卒業後、1980年三ツ星ベルト株式会社入社。1985年にオークラサービス株式会社へ入社し、1992年同社代表取締役社長に就任。社内教育組織「社内大学」を設けるなど、人財育成に力を注いでいる。