
1914年創業の丸太運輸株式会社は、時代の流れを汲み取った事業を展開中だ。顧客企業とのパートナーシップを深める輸送業および大手特殊鋼メーカーの構内物流の支援や、インフラ整備に不可欠なシールドマシン事業、そして食の安心・安全のニーズに応える植物工場の運営など、その事業は多岐にわたっている。
100年を超える伝統と、次の100年を見据えた事業展開を担う同社の髙村重好代表取締役社長に、その経営戦略についてうかがった。
陸運・海運からエンジニアリング、植物工場まで幅広く事業を展開
ーー一口に運輸といっても貴社の事業領域は非常に幅広いですね。
髙村重好:
確かに社名だけ見ると運送会社のイメージが強いですが、弊社の歴史を振り返ると創業当初から事業拡大にチャレンジする心意気はありました。1914年の創業から間もない1916年には、特殊鋼鋼材メーカーとの取引を機に重量運送に取り組んでおり、1950年には化学繊維メーカーのプラント工事を請け負っています。
私自身も、天然温泉のレジャー施設の開業や植物工場の開設のほか、鋼材輸送を手がける弊社初の海外法人をタイに設立しました。これら全ての取り組みの根底にあるのは、「環境に適応した企業のみが生き残る」という信念です。社会が変化し続ける中、時代のニーズを先取りし、常に事業の取捨選択と再構築を行わなければ、企業は時代の流れに飲み込まれ、淘汰されてしまいます。
ーー現在の貴社の事業内容について教えていただけますか?
髙村重好:
弊社では、祖業である物流部門のほか、エンジニアリング部門、プロダクション部門、ライフサービス部門といった多岐にわたる事業を展開中です。物流部門では、陸上輸送に加え、1,400トンクラスの沿海区域輸送船を2隻有し、大規模な物流を担っています。
エンジニアリング部門では、高速道路やトンネル、鉄道といったインフラ建設を手がけており、これまで東海北陸自動車道の飛騨トンネルや、東京湾アクアラインといった重要なプロジェクトに参画してきました。
さらに、プロダクション部門では、1916年から取引きが続く大同特殊鋼株式会社の協力のもと、特殊鋼鋼材の製造から出荷までの全物流を担当しています。ライフサービス部門では、植物工場で葉物野菜の生産・出荷を行い、日々の暮らしに直結するサービスを提供しています。
このように、弊社は多様な分野で事業を展開し、それぞれの領域で高いクオリティを維持していることが強みです。事業の幅広さと質の高さが、弊社の競争力を支えています。
ビジネスの波を見据えて会社の利益の安定を図る

ーー事業の幅を広げる狙いについて教えてください。
髙村重好:
ビジネスには、経済や政治の影響を受ける時代の流れに伴い、常に変動する波が存在します。ある分野が停滞すると、別の分野が活気づくこともよくあります。このように変動する流れの中で、企業全体の経営を安定させるためには、リスクと利益を分散して管理することが重要です。一つの分野に依存せず、幅広い分野で事業を展開することで、景気に左右されずに、企業の持続的な成長を図ることができると考えています。
ーーこれだけ幅広い事業をマネジメントするポイントは何ですか?
髙村重好:
私は、会社を無理に大きくするという考えは持っていません。一つの会社があれこれ抱える必要はなく、新しい事業を始める際には、別会社を立ち上げて進める手法も選択肢に入れています。最も重要なのは、会社を存続させるための基盤である利益をしっかり確保することです。
そして、そのためには社長自ら旗を振り、率先して行動することが大切だと思っています。社員にただ指示を出すだけではなく、その意図や目的を理解してもらうためには、私自身が率先して行動することが必要だと考えています。
学歴も年功序列も関係なく頑張った者を評価する
ーー多様な事業を推進する貴社が求める人材像をお聞かせください。
髙村重好:
簡単に言えば、欲があり、夢を持っていることですね。「欲」という言葉にはさまざまなニュアンスがありますが、お金を稼ぎたいという強い気持ちを持つ人は、仕事に対しても一生懸命になってくれます。
同様に、夢を持っている人はエネルギーに満ち溢れています。そして、その夢を他者に明確に語れる人には、それを実現するためのビジョンも備わっているものです。弊社では、欲と夢を持ち、仕事に対して全力で頑張ってくれる人材を求めており、学歴には特にこだわっていません。
ーー社員の頑張りをどのように評価していますか?
髙村重好:
弊社では、頑張った社員に対しては、積極的な昇給昇格を認めています。年功序列を重視しておらず、成果に応じた評価が基本です。その一方で、降格の可能性もありますが、降格されてもほとんどの社員は諦めずに、再び努力して這い上がってきます。やはり、欲や夢を持つ人間には、粘り強さが備わっていると感じます。
もちろん、社員が頑張れる環境を整えるため、福利厚生にも力を入れています。2023年の弊社の平均勤続年数は14.7年で、2022年の全国平均12.3年と比較しても、社員の頑張りが表れていると思いますね。だからこそ、私も先頭に立ち、行動することに大きな意味があると感じています。
リーダーシップ育成を目指す独自の「文明開化塾」の取り組みで次の100年につなげる
ーー人材育成プログラムで特徴的な取り組みを教えてください。
髙村重好:
弊社では、選抜されたリーダー社員を対象に「文明開化塾」という10カ月間の社内教育プログラムを実施しています。これは毎月1冊の課題図書を読み、テーマに沿った議論を通じて互いに切磋琢磨する場です。参加者同士の成長を促し、リーダーシップや洞察力を鍛える重要な機会となっています。
さらに、毎回OBや役員による講演もあり、OBからの貴重な経験談や、役員の意外なエピソードを聞くことができるなど、人間としての幅を広げる貴重な機会にもつながっています。
ーー創業110年の歴史を次の100年へとつなげていくために重要なものは何ですか?
髙村重好:
弊社が100年以上にわたって築き上げてきたもの、それはお客さまからの揺るぎない信頼です。改めて振り返ってみると、弊社のさまざまな事業の根底に流れているのは、常にお客さまに最高のサービスを提供するという強い信念です。
この信念に基づき、全社員が企業人としての自覚を持ち続け、お客さまが求めるサービスに対して常に最高品質で応える姿勢を維持していくことが、これからも弊社の成長の基盤となるでしょう。そのためには、私自身が率先してその姿勢をさらに磨き上げ、日々の業務に取り組みながら、新たなビジネスの創出に挑戦しつづける心意気でいます。
編集後記
新事業に取り組むとなれば、社員の負担も増えることになるだろう。しかし、100年を超えて成長を続ける企業には、そうした負担を乗り越える社員のDNAがあるように思う。おそらく文明開化塾で語られるOBの言葉がそのDNAを引き渡すのだろう。丸太運輸株式会社の次の100年も順調にスタートしたのを感じる。

髙村重好/1959年、愛知県生まれ。1984年、丸太運輸株式会社に入社し、4年間、三菱商事株式会社にて社外勤務。2002年、代表取締役社長に就任。