※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

水力発電を主力事業としながら、風力発電や太陽光発電など多様な発電方法を展開する東京電力リニューアブルパワー株式会社。同社は明治時代から続く水力発電所の運営実績を持ち、2009年以降は風力発電所の建設、2011年からはメガソーラーの開発にも着手している。2030年の商用化を見据えた浮体式洋上風力発電の実証実験など、再生可能エネルギーの可能性を追求する同社の戦略について、代表取締役社長の永澤昌氏に話をうかがった。

前例のない判断が自身を成長させた

ーー永澤社長の経歴を教えてください。

永澤昌:
私は1990年の入社以来、35年近く東京電力ホールディングス株式会社(以下、東京電力)に勤めています。入社から3年半ほどの間は現在で言うコールセンターに配属され、お客さまに最も近い部署で仕事をしていました。その後、企画部に異動し、それ以来ずっと企画の仕事に携わっています。

2011年の東日本大震災では、福島県の皆さま、広く社会の皆さまに多大なるご迷惑をおかけしてしまいました。大変申し訳ないという気持ちでいっぱいです。その時弊社では、4割の電源が発電できないという深刻な事態に直面し、計画停電という前例のない判断に踏み切ることとなりました。短期間でさまざまな事柄に対応しなければならず混乱もしましたが、振り返ってみるとこの時期を乗り越えたことで、自分自身が大きく成長できたように思います。

ーー社長就任後、組織づくりではどのようなことを重視していますか?

永澤昌:
風通しのよい社風をつくることを大切にしています。仕事を成功させるためには、たとえ耳の痛い意見であっても、きちんと耳を傾けることが必要です。意見を言ってくれる人が貴重なのはもちろんですが、その意見を聞く側にも、その意見を受けとめる度量が必要とされていると思います。そして、そうした度量が求められるのは私自身も例外ではありません。そのため、誰もが意見を言えて、その意見を受け入れられるような雰囲気づくりをするよう心がけています。

自然エネルギーを最大限に活用した多様な発電事業

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。

永澤昌:
弊社は2019年に、東京電力の再生可能エネルギー発電事業を承継し、子会社として設立されました。弊社の主力事業は水力発電です。日本の電力事業会社は、東京電力が設立される以前から地域ごとに発展しており、特に水力発電は古くは明治時代につくられた発電所などもあります。

水力発電以外には、風力発電や太陽光発電も保有しており、また地熱発電などにもチャレンジしています。弊社の事業全体を通して「再生可能エネルギーのデパート」を目指しています。

ーー各発電方法の特徴や強みについて教えてください。

永澤昌:
弊社の水力発電事業は、関東全体の電気供給量の約4〜5%を占めています。前述の通り、日本の電力事業の初期から開発されてきた発電方法という歴史的背景があり、現在ではほぼ開発し尽くされていると言っても過言ではありません。水が流れてさえいれば発電できるので、太陽光発電などと比較すると、非常に稼働率がよく安定的に電力を供給できるというメリットがあります。

風力発電事業については、2009年に東伊豆風力発電所が、2010年には銚子沖洋上風力発電所が建設されており、弊社の設立以前から東京電力が開発を進めてきました。こちらも水力発電と同様に、昼夜を問わずに発電でき、エネルギー資源である風が枯渇する心配はありません。また、洋上風力発電は、国の基本方針において導入・拡大が推奨されており、弊社としても、今後は水力発電に次ぐ事業の柱として成長させるべく開発に取り組んでいるところです。ただし、国内風車メーカーの撤退によって海外から設備を調達する必要があるなど、コストが上昇しているため、今後これをいかにビジネスとして成立させるかが課題となっています。

太陽光発電事業に関しても、2011年から開発を進めており、浮島太陽光発電所を始めとする3つのメガソーラーを建設してきました。太陽が存在している限り枯渇することのない、安全かつクリーンなエネルギーです。「広大な土地が必要」「夜間は発電できない」などの課題はあるものの、まだまだ開発の余地があります。

電力の付加価値向上に向けた新事業を展開

ーー今後の採用方針についてお聞かせください。

永澤昌:
水力発電の分野でキャリア採用を増やしたいと考えています。東日本大震災以後、採用を行っていなかったため、この分野での30代の比率が少なくなっているのです。弊社の知名度を向上させる施策を通して、多くの方にご応募いただける状態をつくりたいと思います。

キャリア採用以外に現場の人財も増やしたいのですが、こちらはできれば地元で採用したいですね。水力発電所は山側の地域につくられているので、地元の守り人としてその地域のために、生涯をかけて発電所事業に携わりたいと考えている人に適していると思います。地元での採用を強化して、そのような人財を見つけたいですね。

ーー今後は、どのような事業に注力していきたいですか?

永澤昌:
弊社は2021年から、「テトラ・スパー型浮体式洋上風力発電実証プロジェクト」に参画しています。2030年ごろには、この「浮体式洋上風力発電」が商用化され、再生可能エネルギー事業の主力になるだろうと予測しているので、現在は先回りして準備している状態です。今後も積極的に開発を進めていきたいと考えています。

また、環境問題への意識が高い企業さまへのコーポレートPPA(電力購入契約)や発電所のネーミングライツ(命名権販売)等の活動を通じて、色も形もなく価格のみが求められてきた電気の付加価値を高めていきたいと思います。

編集後記

発電事業という公共性の高い領域で、地域密着型の人材育成を目指す姿勢が印象的だった。明治時代から続く水力発電所の歴史を受け継ぎながら、最新の浮体式洋上風力発電にも挑戦する。こうした伝統と革新の両立は、永澤社長の描く「再生可能エネルギーのデパート」としての未来図を強く印象づけるものだった。

永澤昌/一橋大学経済学部卒業。1990年、東京電力株式会社(現:東京電力ホールディングス株式会社)に入社。企画部 経営分析グループマネージャー、経営企画本部 事務局総括調整グループマネージャーを経て、2016年に東京電力エナジーパートナー株式会社の常務取締役ガス事業プロジェクト推進室長に就任。2017年、東京電力ホールディングス株式会社、執行役員 経営企画ユニット企画室長、2019年には同社常務執行役チーフ・スポークスパーソンを務める。2021年、東京電力リニューアブルパワー株式会社の取締役副社長を経て、2022年より同社代表取締役社長に就任。