
2003年に設立された株式会社スパイスボックス。SNSを中心としたデジタル領域からマスメディアまで、総合的な広告・コンテンツ制作とマーケティングを手がける企業だ。代表取締役社長の田村栄治氏に、企業の強みや広告の成功例、今後の展望についてうかがった。
大手とベンチャーの風土を掛け合わせ、デジタル広告事業を立ち上げ
ーー経歴をお話しいただけますか。
田村栄治:
1991年に博報堂へ入社し、営業局にて複数社の広告宣伝業務を担当しました。当時は、広告業界におけるデジタル領域がまだ存在しておらず、テレビやCMなどのマスメディア広告が中心でした。キャリアが5年目に突入し、ビッグクライアントとされる大手メーカーを担当した際に、大きな予算を活かして新しい取り組みができたことも貴重な経験です。
学生時代から「いずれは起業したい」と考えていたことから、組織マネジメントを学ぶべく、2002年にサイバーエージェントへ転職しました。ここでは経営手法だけでなく、デジタル関連の広告・メディア開発の知見が身につき、弊社の設立に至った次第です。
私は2社の経営者を間近で見て、とても多くのことを学びました。大手広告会社である博報堂の風土と、サイバーエージェントのベンチャーマインド、両社の優れた部分をかけ合わせて「スパイスボックス」のカルチャーを形成したと感じています。
SNS分析を起点にリアリティ&交流重視のコンテンツを発信
ーー事業の内容や強みを教えてください。
田村栄治:
エンゲージメント・コミュニケーション事業として、SNSの活用を中心としたインターネット広告・マーケティングを手がけています。強みは、SNSにおける生活者の反応・コメントを細かく分析し、広告全体をプランニングする手法です。SNSアカウントの運用や広告・コンテンツ制作を起点に、マス広告やリアルのイベントにも仕掛けを広げて、話題づくりをすることもあります。
広告業界においてデジタル領域が重視される中でも、中心となるプラットフォームは生活者の多くが使用しているSNSです。弊社はSNSマーケティングだけでなく、デジタル広告全般に強い人材が多数在籍していることも、主要クライアントの大手企業様に支持されている理由でしょう。
また、メンバーの大半が20代、30代であることも特徴です。広告のターゲットが若年層の場合、SNSの活用実態やユーザーのセンスを鋭く捉えて、リアリティのある提案・運用ができます。
ーーどのように顧客を開拓しているのでしょうか。
田村栄治:
弊社は、博報堂グループのデジタル専門会社として存在していますので、直接お付き合いさせていただいているお客様とは別に博報堂のお客様のデジタル、SNS関連の仕事も担うケースが多いのですが、親会社の営業に頼り切る方針ではありません。博報堂と同じくフロントに立って、お客様に貢献するスタイルで仕事をしています。
今後は「専門性の高さ」を前提にソリューション力に磨きをかけ、競合との差別化を図ることで、より多くのお客様のお役に立っていきたいと思います。
人材が輝く環境と独自のポジションを築き、「健全な広告業界」を牽引する存在へ

ーー人材育成の方針についても教えていただけますか。
田村栄治:
営業部門の新人は、早いうちから先輩とお客様を開拓していくことで、「自社の強みを相手に伝える力」を養わせています。社内では営業職を「営業プロデューサー」と呼び、案件の獲得から戦略の提案・実行まで総合的にクライアントを担当します。営業プロデューサーの育成速度を上げつつ、即戦力となる中途採用者が社内に溶け込みやすい環境を作ることが目下の課題ですね。
また、「多様性を愛する」「フェアネス」「本質志向」「やってみる精神」という4つの経営バリューに添って、「多様な働き方」への対応も進めています。弊社の男女構成比でいうと、女性メンバーの比率の方が高いので、チームリーダーを担う女性ミドル層が休職する際の影響は少なからず存在します。
現状は、営業プロデューサーからミドル層まで、キャリアの道筋がまだ多くありません。キャリア形成に複数のパターンがあったり、新しい職種を設けたりすれば、ライフステージが変わっても働き続けられる人が増えることでしょう。産休・育休をしっかりと取ってもらいながら、問題なくプロジェクトを動かせる仕組みを構築中です。
ーー今後の展望をお聞かせください。
田村栄治:
「デジタルの知見で広告業界を牽引していく」というビジョンからスタートし、「SNSに強いデジタルエージェンシー」に転換した企業として、この先も新しい技術やツールが登場する可能性を常に見据えて、いち早く対応していきたいと思います。
現在の事業スタイルはまだまだ伸びしろがあるため、「コミュニケーション広告のフロンティア」を追求していくことで、業界内で独自のポジションを築くことも目標です。そして、私たちが手がける広告そのものが「消費者にとって健全なコンテンツ」であり、「経済全体にプラスの影響を与える存在」として進化を続ける未来も願っています。
編集後記
インターネットが当たり前となった世の中において、X、Instagram、TikTokといったSNSは、常に新たな話題が誕生・拡散される場所となった。強烈な広告効果を得られるツールとして、SNSを上手く活用したい企業は増える一方だ。まだこの世にない新たな提供価値と、独自のポジションを追求し続ける「スパイスボックス」から学べることは多い。

田村栄治/1968年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。1991年、株式会社博報堂に入社。大手国内企業の国内外向け広告宣伝業務、外資系企業の日本国内におけるマーケティング業務に携わる。2002年、株式会社サイバーエージェントに入社。インターネットコミュニケーションに特化した広告およびメディア開発・運営事業を統括。2003年に株式会社スパイスボックスを設立し、2005年に同社の代表取締役社長に就任。