※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

洗練されたデザインのあんこ菓子を数多く手がける、株式会社都松庵。京都・中京区に本社を置く製餡メーカー「都製餡」から生まれたブランドで、和菓子の常識にとらわれない商品で多くの人を魅了している。代表取締役社長の山梨茂彦氏に、ブランド設立の経緯やコンセプト、今後の展望をうかがった。

「あんこ」を使った今風お菓子が広い世代にヒット

ーー創業の経緯やブランドコンセプトをお話しいただけますか。

山梨 茂彦:
私たちが扱う商品の製造元である「都製餡」は、創業1953年の歴史ある製餡会社であり、歴代の経営者は「時代の変化に対応しよう」と唱えてきました。「都松庵」は、「あんこに着物ではなく、洋服を着せてもいいじゃないか」という発想から生まれた小売ブランドの会社です。

昔から、京都の和菓子は「着物姿でお茶と一緒にいただくお菓子」でした。弊社は、和菓子の素材である「あんこ」に特化し、若者世代にも親しまれるお菓子をつくるため、新たなブランドを創設したのです。家庭での洋菓子づくりが流行していた1988年には、数種類のあんこがアイスクリームショップのように店頭に並ぶ、量り売りのアンテナショップをオープンしました。

「和菓子を自作するのは難しい」という方に向けた簡単なレシピも用意して、よもぎ餅や桜餅などのお菓子を「手軽につくれますよ」とアピールしたのです。しかし、時代を先取りしすぎたようであんこの量り売りは上手くいかず、「求められているのは素材ではなくお菓子だ」と判断しました。

あんこ屋からお菓子屋、あんこ菓子専門店になるために心がけたのは、お客様に「変化球」をお届けすることです。あんこを使ったチーズケーキやマロンケーキ、プリン、クッキーといった新しいお菓子を開発しただけでなく、小麦粉不使用のグルテンフリーにもこだわり続けています。

ーーブランドのターニングポイントはありましたか?

山梨 茂彦:
若者をターゲットにした「誰かに贈りたくなるギフト」を目指すには、「今風」のおしゃれさも必要でした。2015年以降は広告業界出身の役員によるリブランディングをスタート。京都の著名なデザイナーを迎えてロゴも一新し、ようやく、現在の「都松庵」のスタイルを確立しました。

「生あん」をクッキーの生地に使用した「AN DE COOKIE(アンデクッキー)」は、ブランドを代表する商品であり、京都土産としての認知度も上がってきたと思います。創業当時は、モダンなデザイン性を和菓子に取り入れるお店が少なかったことも、弊社が受け入れられた要因ではないでしょうか。

ミニサイズの「ひとくちようかん」は、デザイン変更後に想像以上にヒットした商品です。日持ちの長さに加えて、他の商材との親和性も高いデザインだったことから、書籍や文具、雑貨など食品以外を扱うお店にも置いていただけるようになりました。「無印良品」様でのお取り扱いが実現したほか、「ネオ和菓子」特集の本の表紙に弊社のお菓子が採用されるなど、ブランドの転換期であったと思います。

米・カリフォルニア発祥のコーヒーブランド「BLUE BOTTLE COFFEE(ブルーボトルコーヒー)」様とのコラボレーションも大きなインパクトがありました。お茶よりもコーヒーに合う和菓子として、ドライフルーツやナッツを練り込んだ羊羹をつくったところ、日本法人の代表者からコラボレーションのお声がけをいただいたのです。京都のみならず、「都松庵」の名前が全国的に広がるきっかけとなりました。

あんこ菓子ブランド「都松庵」とOEM製餡会社「都製餡」の相乗効果

広告業界出身で、現在ブランディングを担う役員と。

ーー貴社の強みを教えてください。

山梨 茂彦:
鈴鹿山系の伏流水に恵まれた、滋賀県東近江市に製造工場があることが強みの一つです。同じく、水がきれいな土地である「京都の製餡所」として、その強みを損なわないことが大切だと考えました。

あんこづくりに関しては、70年以上にわたる「都製餡」の歴史に優位性があるといえます。北海道産小豆や兵庫県や京都府の丹波大納言小豆など、新規参入した業者では入手困難な素材を仕入れることができます。そのため、都松庵の商品自体が「広告」として企業様の目に留まり、コラボや商品開発の依頼が来たときに、都製餡でOEM生産できることが強みとなっています。

和菓子から離れていく人を繋ぎ止めることは「都松庵」の役割です。だからこそ、百貨店の催事をはじめ、全国からあんこ屋さんが集まる催事にはできるだけ参加しています。近年は1つのジャンルに特化した展示会が人気で、「あんこ」はまだまだ多くの可能性を秘めた素材だと感じますね。

ーー新ブランドについてもご解説いただけますか。

山梨 茂彦:
2023年にセカンドブランドの「KOMU(こむ)」を立ち上げ、東京・丸の内ビルディングに出店しました。和洋を問わずあんこ菓子の新たな可能性を発信する都松庵に対して、KOMUのコンセプトは「変化球ではない伝統の和菓子」です。グルテンフリーのどら焼きや、厳選素材を使ったあんこ入り最中で、京都のあんこの美味しさをより深く感じてもらえればと思っています。

ブランディングにおいては、一歩前はいいけれど、三歩前へは進まないことを念頭に置き、ブランディングを一新する際も、古くからの地元のお客様を驚かせないよう、徐々に変えていきました。安心感・信頼感につながる伝統を醸し出しながら、新しいチャレンジを続けることが大切なのです。

伝統と革新を兼ね備えた「あんこ」の第一人者へ

ーー今後の展望をお聞かせください。

山梨 茂彦:
イベント出展やEC事業にも力を入れつつ、いずれは「あんこ菓子といえば都松庵」と真っ先に名前が挙がるNo.1ブランドになりたいと考えています。あんこにこだわるお菓子屋さんはたくさんありますが、弊社は「あんこが全て」だと言い切れるほど命をかけています。あんこの価値を現代に合わせて表現する、その先頭にいることが、都製餡の成長にもつながるでしょう。

現代的な和菓子の競合が増えた今は、全国的に知られるような「看板商品」をつくるべく、面白い企画力のある人材を求めています。ブランドの変化と共に新入社員の傾向も変わり、既存社員にまで刺激を与える流れが生まれました。この好循環を保ち、社内に新しい風を吹かせ続けたいですね。

編集後記

都製餡の歴史は、創業者の父が「あんこづくり」を始めた大正時代にまで遡る。家業として長い歴史がある一方で、和菓子に対する固定観念を持たなかったからこそ、「都松庵」というブランドは誕生した。時代に合わせざるをえないのではなく、「変わり続けたい」というポジティブな思いからつくられるあんこ菓子は実に奥深い。彼らのチャレンジと伝統に惹かれるファンは今後もあとを絶たないはずだ。

山梨茂彦/1958年、京都市生まれ。1981年、専修大学経営学部を卒業。株式会社ナガサキヤに入社。5年間の修業を経て1986年に都製餡株式会社に入社。1988年、餡の消費拡大のため株式会社都松庵を本社ビル1階でスタート、同時に社長就任。2021年に都製餡株式会社の会長に就任、株式会社都松庵の社長は継続。2019年、京都府製餡工業協同組合理事長に就任。地域のボランティア活動にも注力している。