
葬儀の企画や葬儀場の運営、仏壇仏具の販売など、葬儀にまつわる事業を主軸に展開している株式会社博愛社。ほかにも、相続・不動産売買の斡旋や保育事業など、多岐にわたる事業を手がけている。
今回、他社と差別化する取り組みで評判を高めてきた同社の代表取締役社長、村上武白氏を取材し、同氏の経営術と今後の戦略に迫った。
会社の経営状態を改善させるため、家族葬プランを業界内でもいち早く開始
ーー社長就任の経緯を教えてください。
村上武白:
博愛社は家業ですが、私自身最初は会社を継ぐ気がなく、自分で花屋を始めるために生花店で修業していました。そんな中、博愛社の経営が厳しくなり、売上を上げるための施策として社内に生花部をつくるという話が出ました。
そのとき、父に「会社に戻ってきてほしい」と言われて2009年に弊社へ入社し、2020年に代表取締役社長に就任しました。
ーー経営状態を改善するために、どのような改革に着手しましたか。
村上武白:
1つは、価格を分かりやすく打ち出した宣伝広告です。当時、大手の葬儀会社は、チラシを使って自社のサービスをよく宣伝をしていました。しかし、金額を伏せている会社がほとんどだったので、詳細な金額を記載して宣伝したところ、依頼がたくさん舞い込んでくるようになったのです。これを機に売上が伸び、葬儀場をどんどん展開できるようになりました。
もう1つが、家族葬プランをつくったことです。現在の家族葬は、お棺や遺影、骨壺など、葬儀にまつわるものが一式セットで提供されるのが普通ですが、これが当たり前でない時代から、弊社では家族葬をセットで販売してきました。
弊社の家族葬は、故人とより濃密なお別れができるよう、通常よりも時間をかけて執り行っているのが特徴で、遺族の方々から非常に喜ばれています。
「自由度の高い葬儀」で遺族を喜ばせ、従業員のやりがいにもつなげる

ーー貴社独自の取り組みについて聞かせてください。
村上武白:
一度の登録料5,000円で葬儀にまつわるいろいろな特典を受けられる会員限定サービス「オーロラクラブ」をつくったのも、他社にはない取り組みです。
これを始めたのは、葬儀を行うために従業員が自らトラックを運転し、公営の斎場まで足を運ぶことで、従業員の負担や諸々のコストが高くなっていたことが気になったからです。
そこで、弊社が以前1ヵ所建てたものの、あまり使っていなかった「オーロラホール」を、葬儀場として活用。これにより、従業員の負担や今までかかっていたコストを減らすことができ、お客様はホール利用料が無料で使える、双方にとってよりよいサービスになりました。
ーー他社とはどのような点で差別化していますか。
村上武白:
多くの葬儀会社は、遺族と葬儀に関する話しかしませんが、弊社の場合はその話をする前に、故人のことを徹底的に聞き取りし、オンリーワンのサービスを用意しています。
たとえば、例年、正月は家族とともにハワイで過ごしていたが、正月前に亡くなってしまいハワイに行けなかったという方の葬儀では、ハワイにまつわる装飾を施したり、自作のハワイ行き旅行券を渡したりしました。
従業員が自らこういったサプライズプランを立てており、大手と違って小回りが利き、臨機応変に対応できる点が弊社の強みです。
従業員は自ら工夫でき、仕事の自由度が高いのでやりがいにもつながりますし、従業員同士で情報交換をすることが多いため、社内は非常に仲が良いです。
そのほか、従業員が提案したことは、たとえ厳しいと思ってもお試しで取り入れるなど、とにかく何でもトライする点は他社にはない強みだと思います。
今後は成長著しい海外も視野に、新規事業を展開していく
ーー最後に、今後の注力テーマを教えてください。
村上武白:
1つは、海外ビジネスを加速させることです。弊社は保育園の運営を国内で手がけており、最近は「カンボジアで日本式の教育を受けられる保育園をつくってほしい」という依頼がきています。今後は東南アジアなどの国でも、保育園や老人ホームなどの事業を展開していきたいです。
さらに、新規事業として、不動産事業や民泊事業、葬儀後のサポート事業に力を入れていく予定です。葬儀後のサポート事業としては、葬儀が終わった後、相続で悩む遺族を専門家に紹介したり、故人の家の解体工事をサポートしたりすることを想定しています。
また、会社の規模が急速に大きくなっているので、幹部になり得る人材の育成も進めなければいけません。葬儀場を運営できる幹部が育たないと出店数を増やせませんし、今後は幹部になるための勉強会も積極的に開催しようと考えています。
そのほか、分かりやすく変えた人事評価制度を浸透させることと、いまだにFAXで商品を発注するなどアナログなところが多いので、AIやシステムを導入してDX推進などに注力していきます。
編集後記
「一歩踏み出したことをするから、お客様は喜んでくれるし感動してくれる」と語った村上社長。遺族へのサプライズなど、他の葬儀会社がしないことまで踏み込んで行うからこそ、同社は顧客から高い評判を得ているのだと感じた。
何でもまずはトライする同社の姿勢は、今後力を入れる海外ビジネスや日本での新規事業にもきっと活かされることだろう。

村上武白/1979年生まれ、高校卒業後、飲食店やアミューズメント関連のアルバイトを経て、20代前半の頃にイベント関連の事業で独立。その後事業に失敗し、約2年間の生花店での修業を経て2009年に株式会社博愛社に入社。2020年代表取締役社長に就任。