
愛知県周辺に住む車好きの方ならば、株式会社太平タイヤの名前を一度は聞いたことがあるだろう。同社は1985年、中古自動車部品の販売買取専門店のパイオニアとして誕生した。安定した品質と品揃えの豊富さで、過去にはYahoo!の年間ベストストアを連続受賞している。代表取締役の松井重幸氏に、創業秘話や同社の強み、今後の展望を聞いた。
家業で働く日々からヒントを得て、中古タイヤ・ホイール販売を開始
ーー創業までの経緯を教えてください。
松井重幸:
実家が、自動車解体業者や修理工場から出てくるタイヤ・ホイールを回収する会社を経営していたため、高校卒業後は家業を手伝っていました。
毎日ひたすらタイヤとホイールを外す仕事で、当時若かった私でも、体力面で非常に大変でした。とにかく力を使う仕事だったので筋力がつき、もともと40kgだった握力が、2年もしないうちに80kgまで上がったんですよ。
一生懸命家業を手伝いましたが、私には兄が2人いるため、跡継ぎはすでに決まっていました。また、家業を行っている知り合いも多く、身内ばかりいる環境で働くことの大変さというのも見聞きしていました。そのため、私は「自分で会社を興そう」と早い段階で決意し、家業を手伝ってから2年後、20歳で株式会社太平タイヤを創業したのです。
ーーなぜ中古タイヤ・ホイールの販売をしようと考えたのでしょうか。
松井重幸:
創業した1980年代は、車が人々の大きな娯楽の1つだったというのが背景にあります。バブルで好景気だったということもあり、高級車やスタイリッシュなスポ―ツカーも人気でしたね。
家業を手伝っていた頃、アルミのホイールがおしゃれだと流行したのですが、私には高くて買えませんでした。ですが、仕事柄、解体業者や修理工場からアルミホイールがバラで届きます。ある時、たまたま欲しかったアルミホイールが数本届き、その翌月にまた同じ物が届いて4本揃ったことがありました。その時に、これは世の中の役に立つ仕事だ、と思い事業を始めたのです。
中古のタイヤやホイールなら安く買えますし、本数が揃えば商品価値が出ます。そのため、十分商売になると考えたのです。創業した1985年当時は同じ業態の会社があまりなく、競合も少なかったですね。
圧倒的な商品数と提案力の高さで業界をリードする

ーー改めて、貴社の事業内容と強みを教えてください。
松井重幸:
弊社はタイヤやホイールをはじめとした中古自動車部品の販売買取専門店です。店舗だけでなく、楽天市場やYahoo!オークションでECも行っています。
弊社の強みは、商品数と提案力にあると考えています。中古は新品とは異なり、どんな方にも需要のある商品とはいえません。だからこそ中古品は、一つひとつの素材を生かす「一品一様」の考え方が非常に重要です。それは弊社の経営理念である「出会いに感謝、素材を生かして強く優しく」という言葉にも反映されています。
中古商品に対するお客様のニーズはさまざまで、幅広いニーズに応えるには、たくさんの商品を展示し、選択肢を増やすことが大切です。また、お客様の話を丁寧にヒアリングすることも重要です。そのうえで、嘘偽りのない情報を出して、お客様の状況に最適な商品を提案することも欠かせません。
どのような要望にもヒットするよう、高品質を維持しながら引き出しを増やす。そして、ただ増やすだけでなく、それぞれの商品の個性を十分に生かせるよう製品化する。この2点は特に注力していますね。
ーー会社経営で心がけていることはありますか。
松井重幸:
現場主義を徹底しています。やはり、経営の答えは現場にあると考えているからです。入ってくる商品や来店されるお客様の傾向、時代の変化というのは、外からパッと見ただけでは、私にはわかりません。ですから現場に立ち、お客様やスタッフと会話をして、求められるものを肌で感じ理解するよう努めています。
会社全体としては、汗をかく習慣をつけさせています。中古品は新品のように注文すれば物が入ってくるわけではなく、自分から商品をつくっていかなければなりません。商品をつくるといっても、商品を簡単に雑巾で拭き、右から左へ店頭に並べるだけでは不十分です。素材である商品をどう生かすか考え、安全性を十分に確認しなければなりません。それが私たちの仕事ですから、自分から動いて常に汗をかき、良い商品をつくっていくよう従業員にはいつも伝えています。
安定した品質と安全性で「小さいけれど強い会社」を目指す
ーー今後の展望について教えてください。
松井重幸:
創業時から一貫して目指しているのは、「小さいけれど強い会社」をつくることです。具体的には、潰れない会社ということですね。
強さを支えるものは何かというと、ぶれのない品質と信用です。私たちが販売するタイヤやホイールの品質は、お客様の命に直結します。ですので、品質と安全性の維持という肝心要の部分を守れるよう、後継者や幹部の育成を引き続き行う方針です。その部分が盤石になった暁には、フランチャイズ展開なども考えています。
また、採用も積極的に行っていきたいですね。中途・新卒にこだわらず、やる気があって仕事に真摯に向き合える方に来ていただけたら嬉しいです。
編集後記
車好きの知り合いから、同社の品揃えの豊富さ、品質の良さをよく聞く。顧客からの信頼の影には、創業時から積み重ねてきた企業努力と信念があるのだと確信した。これからも多くの優れた商品を顧客に届けてくれるであろう同社から目が離せない。

松井重幸/1965年愛知県生まれ。愛知県立平和高校を卒業し、家業(太平ホイール)に入社。2年後、20歳で株式会社太平タイヤを創業。2006年には自社ECサイトやサイバーモールでの販売も開始。