
高齢社会において介護業の存在は、社会や経済の維持に欠かせない役目を担う。人の命にも関わる介護業は良質なサービスを提供することが求められる一方で、改善すべきであっても容易に変えられない課題が多く残されているのが現状だ。
訪問ケアを中心に介護事業を手がける株式会社ケイ・ティ・サービスの代表・CEOである手代木正儀氏は、あえて売上目標を設定せず、それぞれの現場に裁量を与えることで、全体として質の高い介護サービスを展開することを重視している。手代木氏が何を意識して会社経営に取り組んでいるのか、その方針と将来への展望をうかがった。
子ども時代から経営者を目指した確かな歩み
ーー株式会社ケイ・ティ・サービスに入社されるまでの経緯を教えてください。
手代木正儀:
父が会社経営をしていた影響で、漠然と「いつか自分も経営者になりたい」と考えていました。小学生時代の文集に「社長になる」と書いていた私は、中学生の頃には経営学に関する本を読み始め、さらに父からは「経営学を学ぶことも重要だが、法律を学ぶと経営に大いに役立つ」との助言を受けていました。
その助言から、大学では経済学部経営学科を専攻し、その後、大学院の法務研究科で法務博士の学位を取得しました。経営と法務の双方の専門性を身につけたうえで、2014年に株式会社ケイ・ティ・サービスに入社したのです。
質の追求を第一に掲げる経営方針で躍進を続ける

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。
手代木正儀:
弊社は、高齢者や障がい者向けの在宅介護・看護サービスを中心に事業を展開しています。介護事業というと、特定の施設に入居する施設入居型サービスをイメージされる方が多いかもしれませんが、弊社は「訪問」に特化しており、ケイ・ティ・グループの一員として、訪問看護、居宅介護支援、訪問介護、訪問入浴、そして福祉用具の提供という5つの部門で事業を展開しています。
ーー貴社ならではの強みや特徴は何ですか?
手代木正儀:
弊社の特徴は、在宅ケアに従事するスタッフにとって最善の環境を提供することにこだわる点にあります。今は働くスタッフが会社を選ぶ時代です。「在宅ケアの仕事をするなら絶対ウチがいいよ!」とスタッフ全員が胸を張って言えるような職場であるべきですし、そうした取り組みよりも目先の利益を優先するような企業は退場すべきだと考えています。
私たちは、給与でNo.1は当たり前として、従業員の子育て費用の補助制度など福利厚生を整え、充実した研修制度でスタッフを支援しています。旧来の介護業界が抱える労働環境や待遇、イメージなどの課題に正面から向き合い、柔軟な発想で取り組むことで、全く違う職種からも、たくさんの方が介護職に移ってくるような社会をつくっていきます。
また、規模の成長を目的としない点も他社にはない特徴です。数値目標によって本質を見失うことを避け、「仲間を大切にする」「ケアのあり方に正面から向き合う」という本質に専念できる場所であり続けることで、オーガニックな成長を実現しています。
ーー貴社が大切にしている考えを教えてください。
手代木正儀:
弊社は、スタッフ一人ひとりに「自分がここにいる意味」を意識しながら働いてほしいと考えています。AIやロボットが活躍する時代に、人として働くことの意味とは何なのか。目の前の人、隣にいる仲間を大事に想い、人間性を大いに発揮していくことがこれからの仕事の意味だと思います。
「ここから思いやりを巡らせよう」というスローガンには、「今ここにいる自分を起点に」という意味が込められています。一人ひとりが自分を起点として、利用者さまへの思いやりはもちろん、チームで働く仲間のことも思いやる。そうして思いやりの輪を広げれば、チームや会社を超えて社会全体に良い影響が巡っていく。そういう循環の中でこそ、私たちは自分の存在意義を強く確信できるのだと思います。
質の追求と価値観の共有を軸に描く未来像
ーー今後の展望についてお聞かせください。
手代木正儀:
今後注力したいのが、SNSを活用した弊社の価値観の発信です。正直、「中身は最高なんだから、黙っててもみんなわかるでしょ」と、これまで情報の発信を何もしてこなかったのです。
私たちは「見た目重視」というのが大嫌いです。しかし、たしかに給与や職場などをじっくり比較すれば私たちがNo.1であることは間違いありませんが、まずは知っていただけなければ比べることもできません。そこで、ありのままの弊社をスタッフたちの充実した働き方とともにSNSを通じて発信することで、会社の理念や姿勢をより多くの人に知ってもらいたいと考えています。
展望を聞かれて、売上目標やエリア拡大を掲げることを期待されることも多いのですが、膨張と成長は違います。これからも「私たちは揺るぎないNo.1であるか?」と常に自問自答し、日々愚直に取り組んでいくだけです。私たちは会社の存在感より、存在意義を大切にしたいのです。
ーーこれから貴社への就職を検討する人へのメッセージをお願いします。
手代木正儀:
現場業務に興味をお持ちの方へ、在宅ケアの仕事に就くなら、絶対に私たちの会社がNo.1であると約束します。もしケイ・ティ・グループより良いかもと思う会社があったらいつでもご連絡ください!
本部スタッフに興味をお持ちの方へ、上っ面だけというのが嫌いで、意味のあることが好き。意味ある目的のためなら努力を惜しまない。そういう方をお待ちしています。働く会社は規模ではなく姿勢で選ぶ、という方には気に入っていただけると思います。
編集後記
手代木氏の言葉からは、介護業界への深い愛情と揺るぎない信念が伝わってきた。利益や規模の拡大を追求するのではなく、「スタッフが活躍する場」としての企業の質に徹底的にこだわる姿勢は、業界の未来を切り拓く挑戦そのものだ。人にしかできないケアの本質を見つめ、「介護の当たり前」を変えようとする同氏の志は、単なる理念や建前ではなく確固たる行動指針として息づいている。手代木氏が仲間とともに進める挑戦は、確実に地域社会や業界全体に変革をもたらし、介護という仕事の価値を再定義する礎となるだろう。その未来が訪れる過程を、私たちは今、目撃しているのかもしれない。

手代木正儀/1987年生まれ。東京大学経済学部を卒業後、早稲田大学大学院法務研究科にて法務博士の学位を取得。東大や順天堂大学などのメンバーで構成される組織「医療と法律研究会」の第2期代表を務め、米国やドイツなど各国の留学生とともに人権問題について学ぶ組織「WITH(Waseda International Team for Human Rights)」では副代表を務めた。大学院を修了後、2014年に株式会社ケイ・ティ・サービスに入社。2018年、ケイ・ティ・グループ各社(株式会社ケイ・ティ・サービス、株式会社サービスワン、株式会社儀八、株式会社至誠堂)において代表取締役 CEOに就任。