※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

2016年に設立されたcotobox株式会社。自社で開発・運用中のオンライン商標登録プラットフォーム「Cotobox(コトボックス)」は、2018年に経済産業省のグレーゾーン解消制度を利用し、知財DXビジネスモデルの先駆けとなった。さらに、2021年から4年連続で日本1位の商標取扱件数を達成。代表取締役社長の五味和泰氏に、創業の経緯や企業が掲げるミッション、今後の展望をうかがった。

国際派弁理士という立場を活かし、知財管理の会社を設立

ーーご経歴をお話しいただけますか。

五味和泰:
大学卒業後にエンジニアとして建設業界に入り、設備系の設計に携わっていました。2002年頃に政府が打ち出した「知的財産立国」という政策に興味を持ち、弁理士を志したことが一つ目の転機です。

知的財産、いわゆる「知財」とはデザインや発明、商標(識別標識)といった人間の手によるクリエイティブから生まれる財産的な価値を持つもののことです。知財の専門家として、特許権などの取得をサポートする弁理士になりたいと思った僕は、特許事務所に転職しました。業界で実務を学びながら弁理士試験の勉強をし、2009年に資格を取得したという流れです。

世界中の知財専門家が集まるセミナーに参加するため、2週間ほど米・シアトルに滞在したことが二つ目の転機でした。国際的に活躍する弁理士になるには、もっと英語力を高めて、法律の知見も深めなければならないと痛感し、海外留学を決意したのです。

南カルフォルニア大学で法学修士課程を修了し、自身の経験を活かす方法を考えた結果、日本に戻って弊社を立ち上げた次第です。

ーー起業した理由や当時のエピソードもうかがえますか?

五味和泰:
留学中、アメリカではライドシェアやフードデリバリー、民泊が流行しました。テクノロジーをユーザーに活用してもらうサービスは、知財業界にも良い変化をもたらすのではと考え、スタートアップ関連のコミュニティに参加したことが起業のきっかけです。

中小規模の事業者は、知財の管理や申請時のコストがネックとなるほか、そもそも知財に関心がないケースもあります。社内に専門部署がある大手企業など、資金や人材に余裕のある企業しか活用できていない状況を、当時の僕は社会課題だと感じていました。

テクノロジーによって弁理士の業務を効率化すれば、コストダウンや申請作業の時間短縮が叶い、制度の解説もしやすくなるはず。この発想からサービス開発に着手したものの、最初は個人事業主として行う弁理士業務が収入の糧でした。自らプログラミングスクールに通い、AI研究に意欲的な仲間を集めて、3年ほどかけて弊社の事業を拡大していったのです。

AI搭載の商標登録サービスで創作活動を支援

ーー事業内容と、サービスの魅力を教えてください。

五味和泰:
AIを採用したオンライン商標登録サービスの「Cotobox(コトボックス)」を軸に、知財を保護する手続きのサポート事業を展開しています。商標登録とは、会社名や商品・サービスのネーミング、ロゴマークなどを特許庁に登録することです。

「Cotobox」を使えば、誰でもリーズナブルな値段で商標登録の申請ができます。また、国内外を問わず、商標管理や競合の動向をチェックできるクラウドサービスも運用中です。

知的財産は「価値のある情報」の塊であり、デジタル管理と相性が良いのです。知財を通して、クリエイティブや発明の価値を可視化できれば、定量的な判断がしやすくなり、企業間の連携やライセンス交渉も加速することでしょう。

私たちは新しいチャレンジをする人をサポートしたい、小さな知的活動を結びつけたい、という思いでツールを提供しています。

ーー知財が守られないと、どんな問題があるのでしょうか?

五味和泰:
知的財産権は、世界中に同様の制度があるほど優れたものです。知財の考えが十分に普及していない頃は、商品が有名になってから「他社と被っていたから名前を変更する」「先に特許を取られてしまった」といった問題が頻発していました。

商標や特許を取得すればブランドを守れて、国内のみならず海外にも事業を展開しやすくなります。近年は、Eコマースで商品を一気に全国区にできる時代になり、商標を後回しにする弊害が大きくなってきています。

海外向け機能も開発し、あらゆる知財を可視化する企業へ

ーー今後のビジョンをお聞かせください。

五味和泰:
越境ECを行う日本企業が増えていることから、海外での知財管理をサポートするプロダクトが進行中です。その次のステージで、アジアをはじめとする海外企業にも弊社のプラットフォームを活用してもらう、というのが中期的なビジョンですね。

弊社は「人と知財を結ぶ」というミッションを掲げ、誰もが知財を平等に取り扱える世界を目指しています。今までは商標手続きのDXにサービスをしぼり、国内展開を進めてきましたが、ゆくゆくは特許を含めたあらゆる知財の管理システムを構築したいところです。

ビジネスに関わるすべての人が、大小さまざまなクリエイティブに携わっています。それらのすべてが財産となり、自分の知財を当たり前に権利化できる社会であるべきだと考えています。

編集後記

人材紹介ツールなどを使わず、自らの足で仲間を集めていった五味社長。弁理士の視点とテクノロジーをかけ合わせれば、多くの人の「見えない財産」を守れるはず。その熱い思いと行動力が組織を突き動かし、海を越える未来は遠くないだろう。

五味和泰/1973年生まれ。早稲田大学理工学部を卒業。南カリフォルニア大学の法学修士課程を修了(LLM)。2009年に弁理士登録。2015年、はつな知財事務所(現:Authense弁理士法人)を立ち上げる。2016年、cotobox株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。