※本ページ内の情報は2025年4月時点のものです。

AIを駆使した製造業向けのソリューションを提供している、アイクリスタル株式会社。同社は、代表取締役である髙石将輝氏が、名古屋大学在学中に取り組んでいた研究を発展させ、事業化したことから始まった。2019年に創業したばかりの会社だが、そのサービスは大手企業も利用するほどに完成度が高く、さらなる成長の可能性に満ちている。髙石社長は、なぜこれほどの短期間で事業を大きく成長させられたのか。会社設立の経緯や会社の強み、今後の展望などを聞いた。

個人の研究が、今や多くの人が注目する一大プロジェクトに

ーー髙石社長の経歴をお聞かせください。

髙石将輝:
アイクリスタルという会社は、私が大学時代に取り組んでいた、半導体材料の製造プロセスに関する研究を発展させ、事業化することで生まれたものです。私の研究テーマは、大手メーカーとの共同研究を行うほど、ビジネスとして大きな可能性があります。その技術を活かして、大学院修士1年のときに、自ら事業化するために会社を立ち上げたのです。

当時は、ビジネス未経験・社会人未経験という初めてだらけの状況で正直不安でした。それでも、大学のスタートアップ支援プログラムを通じて、研究室や大学関係者からのバックアップを受け、なんとかスタートを切ることができたのです。

「名古屋大学発のスタートアップ」という肩書きを最大限に活用して、幸いにも創業初期から大手企業との取引を実現することができました。そこから順調に成長を続け、現在は社員約30名を抱えるまでに成長しています。

ーー会社の創業に関して、特に印象的だった出来事を教えてください。

髙石将輝:
修士1年のときの、創業当初の苦労が強く印象に残っています。当時は会社運営の知識がなく、さらには学業にも取り組んでいました。そのため、共同創業者の牧野に頼りながら、なんとか会社を運営している状態だったのです。当時の暗中模索ともいえる感覚は、今でもはっきり思い出せます。

その状況が大きく変わったのは、大学院を修了したタイミングです。会社経営に専念できる環境を得たことで、事業を円滑に進めることができるようになると同時に、社長としての責任感も養われていきました。

そして、事業にかける思いがさらに強まり始めたのもこの頃のことです。創業当時こそ、学業と事業の両立に苦しむような小さな会社でしたが、今では、効率化で製造業の変革を目指す、ゆるぎない芯のある会社になっています。

AIを活用し、製造業の効率化に特化したソリューションを提供

ーーあらためて、貴社の事業内容を教えてください。

髙石将輝:
弊社の主な事業は、AIを用いた製造業向けソリューションの開発・提供です。製造装置や製造工程の解析によって、製造条件の最適化を行い、製品性能の向上や製造コスト削減、開発期間の短縮などを実現しています。

また、このソリューションを応用したサービスとして、製造現場の方にAIの基本知識を教える教育プログラムの提供にも取り組んでいます。

弊社がこのソリューションに力を入れているのは、AIには製造業が抱える人材やコストなどの課題を解決に導く可能性が秘められていると感じているからです。そのために、まずは製造現場でもAIソリューションを活用できることを知ってもらい、いずれは製造業というジャンルのアップデートを実現できればと思っています。

ーー他社と差別化できる、貴社独自の強みは何でしょうか。

髙石将輝:
弊社の大きな強みは、少ないデータから信頼性の高いAIモデルを開発できることです。AIの学習に使われる教師データは実際の製造データやシミュレーションデータを利用することから、製造現場では必ずしもデータが豊富であるとは限らず、この特徴は製造業に必要不可欠な要素といえるのではないでしょうか。

すでにソリューションの質は現場から求められる高いレベルに達しています。今後も弊社の強みにさらに磨きをかけ、業界の第一人者としてのポジションを確固たるものにしていく所存です。

事業拡大の先にある、製造業の変革という壮大な夢を実現するために必要なこと

ーー今後、特に注力したいテーマを教えてください。

髙石将輝:
まず大切なのが、知名度向上に向けた新規取引先の開拓で、大学時代のつながりを活用して半導体分野へのアプローチを強めていきたいです。また、ソリューションの幅広い応用力を活かして、自動車関連の部品や電池、ガラス、樹脂といった材料系の会社にも手を伸ばしていきたいと考えています。ほかに、既存顧客の別部署や別工場など、組織内における横方向の展開も狙っていきたいですね。

加えて、絶対に欠かせないのが、ソリューションの絶え間ないアップデートです。現在、弊社が提供するサービスは課題を解決する「ソリューション」という立ち位置にいます。しかし、今後は誰でも簡単に使える「AIデータプラットフォーム」へと進化させ、製造現場のサポートプログラムのような存在になれればと考えています。

ーー将来的に、貴社をどのような姿に成長させたいとお考えですか?

髙石将輝:
弊社の事業領域は、半導体、AI、スタートアップという、ビジネスの注目度が高いキーワードの交差点にあります。今後は、このポジションを最大限に活用して、次世代を代表するスタートアップになることを目指すと共に、製造業という歴史の長い分野に秘められた可能性を引き出せるような会社への成長を目指します。

そのためには、データサイエンティストやITエンジニア、UXデザイナーなど、多方面の専門的な人材が必要です。各人材が持つ知識を活かして、製造現場の知見やAIの理解を深め、ひいては新たな価値を生み出すイメージ力へとつなげていくつもりです。

弊社が掲げる「製造業の変革」という目標は極めて難易度が高いものではありますが、それだけにやりがいと社会的価値にあふれています。人生をかけて挑戦できるものを探している方にとっては、弊社が最高のフィールドになるのではないかと思います。

編集後記

アイクリスタルの、少ないデータから信頼性の高いモデルを構築できるソリューションは、リソースを節約しながら競争力を高めるという、攻守を兼ね備えたものだ。日本の国際競争力が問題視されている今こそ、同社のソリューションが光るのではないだろうか。この高い実用性は、髙石社長が高い理想と現実的な視点を両立させているからこそ実現したものだ。新世代の提案者とも呼べる髙石社長が、製造業を革新する日はそう遠くないだろう。

髙石将輝/2021年名古屋大学大学院工学研究科物質プロセス工学専攻修了。同大学院、修士1年次に、数値解析・機械学習・最適化技術を活用したSiC溶液成長における最適な結晶成長条件の研究を行い、同技術を事業化。アイクリスタル株式会社を創業し、代表取締役に就任する。