
AIを活用した品質管理システムを自社開発し、製造業に新たな価値を提供する株式会社フツパー。一度設置して終わりではなく、継続的に学習・進化するAIシステムの開発にこだわり、クラウドとオフラインを組み合わせたハイブリッド方式で特許を取得している。また、月額制で導入できる外観検査AIをはじめとする3つのサービスを展開し、製造現場の効率化に貢献している。将来のIPOを見据え急成長を遂げる同社で、経営の舵を取る代表取締役兼CEO、大西洋氏に話をうかがった。
イスラエルでの挑戦を経て日本で起業
ーー社長のご経歴を教えてください。
大西洋:
私は大学在学中から、「いずれ起業したい」という気持ちを持っていました。とは言うものの、当時は起業のための行動は特にしておらず、大学卒業後は電子部品メーカーに就職しました。在職中に、「若くて体力があるうちに起業したい」「自分でITサービスをつくりたい」などという思いが強くなり、入社から1年で会社を退職することになりました。2018年にイスラエルへ渡り、友人と一緒に最初の起業をしました。
ーーなぜイスラエルで起業しようと考えたのですか?
大西洋:
「イスラエルは、国民の1600人に1人が起業家である起業大国だ」という情報を知ったことがきっかけでした。最先端の技術の多くがイスラエルで生まれていることもあり、「起業したい」「ITサービスをつくりたい」「イスラエルに行きたい」という3つの思いを効率よく叶えるには、イスラエルでITサービスの会社を立ち上げることが近道だと考えたのです。起業を決意してからは、友人の家の壁に目標を書いて「何月何日までにイスラエルに渡航する」と宣言しました。「やると決めて宣言したからには、絶対に実行するぞ」というスタンスで臨み、実行に移したのです。
ーーその後、どのような経緯でフツパーを立ち上げたのですか?
大西洋:
イスラエルでの起業はあまり上手くいかず、約1か月で日本に帰国することになりました。帰国後は東京のベンチャーキャピタルで出資を受けようとしましたが、そちらも上手くいきませんでした。そこで、イスラエルへ行く前にお世話になった社長に相談したところ、工場向けのAI・IoTサービスを提供する子会社を立ち上げて社内起業するという話があり、私もその事業に参画させていただくことになりました。事業開発のグループリーダーを1年半務めた後、大学時代の友人である黒瀬から、「一緒に起業しよう」と誘われて、弊社を立ち上げることになったのです。
AIの強みを活かしたサービスで特許を取得

ーー貴社の事業内容を教えてください。
大西洋:
弊社の事業は、大きく分けて3つのサービスから成り立っています。
1つ目は、製造業向けの外観検査AIサービス「メキキバイト」です。このサービスは、製造業における人手不足の解消を目的として開発しており、創業時から現在に至るまで弊社の事業の柱となっています。カメラレンズの選定から現場設置、データ収集、クラウドとの接続、システム構築まで弊社で効率よく行い、実際の運用までをパッケージングして、月額制で提供しています。
2つ目は、人員配置やシフトの作成をAIが行う「スキルパズル」というサービスです。単に人員配置を自動化するだけでなく、その人のスキルや資格、作業負荷、相性などをすべて考慮しているところが大きな特徴となっています。この「スキルパズル」と「メキキバイト」は、中小企業のお客さまを中心に、製造業の現場でご好評いただいてきました。現場で使えるサービスとして評価が高まったことで、昨年あたりから大手企業の引き合いも増えています。
3つ目は、AI構築サービス「カスタムHutzper AI」です。こちらは大手エンタープライズ向けに、データ解析や3Dモデル生成、AI活用のサポートなど、独自技術を駆使したDXの提案をしています。具体的には、3D生成AI技術を活用した牛の体重管理や採食量推定システムの開発、モビリティ組み立てラインにおける行動分析AIの構築、港湾コンテナターミナル内の在庫予測システムの開発などに活用されてきました。製造業にとどまらず、さまざまなお客さまのニーズに対応してAIの構築や実装をしています。
ーー貴社サービスの強みや特徴はどのようなところですか?
大西洋:
まず、検査の領域においては、特定の業務領域に特化して自社でAIを開発しているところが特徴だと思います。汎用的な画像認識AIモデルでは網羅しきれない局所的な部分にも注目してAIを進化させ、検査の精度を高めているのは、弊社ならではの取り組みと言えるでしょう。
また、これはシステム全体についていえることですが、クラウドを使ってデータを収集したり、現場の効率化に取り組んでいる検査システムも強みです。システムを導入した後も、継続的に学習することがAIの強みだと考えているため、弊社はクラウドでデータ収集する仕組みの部分で特許を取得し、クラウドとオフラインのハイブリッドでサービスを提供しています。
採用を強化しさらなる成長とIPOを目指す
ーー貴社の採用方針についてお聞かせください。
大西洋:
弊社は採用を重要なミッションと捉えて、継続的に注力しています。私は会社の成長にダイレクトに影響するのは、「営業」「開発」「採用」の3つだと考えており、営業と開発を成功させるには、いい人材を採用することが必要不可欠です。弊社の人材採用の特徴として、エージェントを使わずリファラル採用で入社する人が多いことが挙げられます。そのため、社員同士の団結力が強いのです。
創業期は役員3名からスタートした弊社の事業ですが、この5年間で着実に成長し、現在は社員数66名にまで規模を拡大しています。AI関連のサービスを開発する大阪発のスタートアップで、ベンチャーキャピタルから投資を受けながらIPOを目指して規模を拡大する会社は、弊社のほかにはあまり見られないと思います。そういった環境を「楽しい」と思ってくれる人と一緒に働きたいですね。
ーー今後はどのように会社を成長させたいですか?
大西洋:
弊社は、創業期から「IPOを目指す」という目標を掲げてきました。この目標を設定したのは、IPOの審査基準が、経営陣と社員が一丸となって取り組むためのわかりやすい指標になると思ったためです。今後も社会から有益性を認められる会社になるべく、成長を続けていきたいですね。
編集後記
「宣言したことは必ず実行する」という大西CEOのスタイルが、社風として根付いている印象を受けた。社内で開発した独自技術で特許を取得し、製造業の現場で実用的なAIを提供する。それは一朝一夕には実現できない成果だ。取材を通じて、技術力と実行力を兼ね備えた企業としての本質を垣間見ることができた。

大西洋/1994年、兵庫県生まれ。広島大学工学部卒業。専攻テーマは製造プロセスの最適化。新卒で日東電工株式会社に入社し、ICT部門の法人営業に従事。退社後はWebサービスを開発し、イスラエルで起業を試みるも撤退。工場向けAI・IoTベンチャーに入社し、事業開発グループリーダーに従事。その後2020年、株式会社フツパーを設立し、代表取締役兼CEOに就任。MENSA会員。ソフトバンクアカデミア12期生。