テレビ業界の古い体質に風穴を開け、ワークライフバランスの先進企業として注目を集める株式会社白川プロ。教職の夢を諦め、偶然の縁で映像制作の世界に飛び込んだ白川亜弥社長は、養子縁組を経て、経営者となり、働き方改革を推進してきた。従業員が生き生きと働ける環境づくりに挑む白川社長の経営哲学と今後の展望を聞いた。
教育への情熱から映像編集の世界へ、運命的な出会いがもたらした人生の転機
ーー高校の国語教師を目指していたそうですが、映像業界に転身されたきっかけを教えてください。
白川亜弥:
大学では文学部国文科に在籍し、高校の国語教師を目指していましたが、教育実習を経験したことで、自分の適性に疑問を抱くようになりました。そんなとき、母の古い知り合いが経営していた白川プロという会社を紹介されました。映像制作の世界は全く未知の領域でしたが、新しいことにチャレンジしたい思いもあり、入社を決意しました。
入社後は、テレビの裏側を知る面白さに夢中になりました。自分が編集したニュースが実際に放送されるのを見て、大きなやりがいを感じました。映像編集の仕事は、単なる技術ではなく、人の心を動かす力があることを学び、さらにこの仕事に魅力を感じました。
ーー経営者として歩むことになった経緯をお聞かせください。
白川亜弥:
36歳のとき、創業者の白川二三男から養子縁組の話をいただき、大変驚きました。当時の義父は、妻に先立たれ、子供もいなかったため、「後継者」というよりは家族が欲しかったようです。最初は戸惑いもありましたが、会社への愛着と責任感が芽生えていたこともあり、その提案を真剣に受け止め、お受けする決意を固めました。
2014年に義父が亡くなり、私は取締役に就任しました。最初は、現場の仕事から経営の仕事へのシフトに戸惑いもありましたが、「外から見ても中から見ても良い会社づくり」を目指し、全力で取り組んでいます。
働き方改革の先駆者として、テレビ業界に新風を吹き込む
ーー白川プロは働き方改革の先進企業として知られていますが、具体的にどのような取り組みをされていますか。
白川亜弥:
まず、就業規則の見直しから始めました。古い体質を改め、現代の働き方のニーズに合わせた制度を整備しました。特に力を入れているのがワークライフバランスの推進です。育児と仕事の両立支援はもちろん、介護と仕事の両立支援にも早くから取り組んでいます。
男性の育児休業取得率は100%を達成しています。また、治療と仕事の両立支援制度も導入し、長期治療や不妊治療にも対応しています。これらの取り組みが評価され、「ブライト500」という健康経営優良法人の認定も受けました。
重要なのは、単に制度を整えるだけではなく、社員が本当に生き生きと働ける環境をつくりだすことです。社員からの声に耳を傾け、常に改善を続けています。テレビ業界は古い体質が残っているといわれますが、実際はシフト勤務の特性を活かし、柔軟な働き方が可能な利点もあるのです。
1社傾倒からの脱却と新規事業展開、映像技術のさらなる可能性を追求
ーー今後の事業展開について、注力されている分野を教えてください。
白川亜弥:
現在、最も重要なテーマは1社傾倒からの脱却です。主要のお客様との関係は引き続き大切にしつつも、10年後には売上全体に占める割合を25%程度にまで比率を下げたいと考えています。そのために、新規事業の開発に力を入れています。
一つは、BtoBやBtoCの映像制作事業です。企業のウェブCMや、個人向けの「自分史」映像制作などを手がけています。NHKで培った高品質な映像制作技術をフル活用し、新しい市場に挑戦しています。
また、映像編集のスクール事業の展開も視野に入れています。将来的には、学校のカリキュラムに映像編集が含まれる可能性もあると考えており、可能性を感じています。
さらに、最新映像技術の開発や導入にも力を入れています。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)など、新しい技術を取り入れた映像表現の可能性を積極的に追求していきます。
経営者としての成長と、女性リーダーとしての使命
ーー経営者として、また女性リーダーとして、どのような思いで日々の経営に当たっていますか。
白川亜弥:
経営者として常に心がけているのは、「現状維持は後退と同じ」という考え方です。新たな挑戦を続けることが不可欠だと考えています。同時に、社員一人ひとりの声に耳を傾け、彼らの成長と幸せを第一に考えています。
女性経営者としては、中小企業家同友会の活動を通じて、多くの学びを得ています。特に、女性経営者全国交流会の実行委員長を務めることで、女性リーダーとしての役割に深く向き合う機会を得ています。男性と女性が、それぞれの強みを認め合い、ともに活かしていける社会をつくることが大切でしょう。そのためには、女性経営者がより発言力を持ち、存在感を高めていくことが求められます。
今後も、映像の力で人々の心を動かし、社会に貢献できる企業を目指して邁進していきます。同時に、働きやすい環境づくりのモデルケースとなり、テレビ業界全体の働き方改革にも貢献していきたいと考えています。
編集後記
白川社長の言葉からは、教育者としての夢を経営者として昇華させた姿勢が強く感じられた。テレビ業界の古い体質に挑み、ワークライフバランスを重視する先進企業として新たな風を吹き込む姿勢は、業界全体に大きな影響を与えている。1社傾倒からの脱却、新規事業展開への挑戦、そして従業員が生き生きと働ける環境づくりへの熱意は、今後の企業経営のあり方を示唆している。白川プロの挑戦が、テレビ業界だけでなく、日本の企業文化全体にどのような変革をもたらすのか、今後の動向に注目したい。
白川亜弥/1967年埼玉県生まれ、都留文科大学卒。高校の国語の教師を目指していたが、教育実習で挫折し、白川プロに入社。36歳のとき、創業者である白川二三男社長と養子縁組。2014年、白川氏の死去に伴い取締役に就任。「外から見ても中から見ても良い会社づくり」を目指してWLBなどの整備に力を入れる。2020年に社長就任。社員全員がワクワクしながら未来を描ける会社を目指して日々奮闘中。