
2010年に海外1号店として原宿店がオープンした「Eggs 'n Things(エッグスンシングス)」。日本のパンケーキブームの火付け役となった、ハワイ生まれのレストランだ。日本法人の代表を務めるのは、米・シアトル発のタリーズコーヒーを日本国内に広めた人物でもある。今回は、代表取締役会長の松田公太氏に、経営者としての思いや今後の展望、多数の飲食店ブランドを手がけるクージュー株式会社について話をうかがった。
海外生活で芽生えた「お互いの文化を尊重したい」という思い
ーー起業のきっかけをお話しいただけますか。
松田公太:
5歳から17歳までの大半をアフリカとアメリカで過ごしていました。当時、日本の文化を理解してくれる人は少なく、「生魚を食べる日本人は変だ」などと言われてしまうような状態でした。理解してもらえないことへのもどかしさを感じ、日本の魅力を伝えたいと思う気持ちは日増しに強まりました。高校生の時には、海外で回転寿司店を開こうとビジネスプランを立て、父親に見せたりもしました。
日本の大学に通うため単身で帰国し、多数の飲食系アルバイトも経験しました。大学卒業後は、銀行で働きながら起業の準備を進めて、いざ立ち上げた事業はタリーズコーヒーの日本1号店です。
ーービジネスプランを変えた理由もうかがえますか?
松田公太:
大学時代に、アメリカでロール寿司がブームになったことが最大の理由です。自分の使命ではなくなったと感じ、新たな事業を探す中で出合ったのが、エスプレッソをベースにしたスペシャルティコーヒーでした。当時、アメリカで人気を集めていた食文化を日本に伝える仕事は、まさに自分のやりたいことだと思いました。
私は、自分の知らない文化を尊重することが世界平和につながると考えます。事業のベースにあるのも、新しい文化として「食」を広げ、お互いを認め合える環境を作るという思いです。
シアトル発のコーヒーショップを日本に広めて4年で上場達成

ーーどのように日本でタリーズコーヒーを展開したのでしょうか。
松田公太:
エスプレッソが流行したシアトルで、私が一番おいしいと感じた店がタリーズコーヒーです。まだ小さな会社だったからか、本社に熱意を伝えて日本展開の権利を得ることができました。
ところが、1996年8月にスターバックスコーヒーが日本に上陸しました。1年遅れでタリーズと契約締結した私は出遅れたと言えます。銀座にオープンした1号店も話題にならず不安でしたが、「味」には自信がありました。経営が安定したのは、半年ほど経ちリピーターが増えてからですね。
ーー店舗数が増えるのも早かったと感じます。
松田公太:
2号店以降はテイクアウトの需要に着目し、オフィスビル内に設けたコーヒーカウンターは大好評となりました。自動車メーカーのショールームに導入し、来店者数を急増させた事例もあります。コーヒーを飲みながら車を眺めたら愛着が湧き、購買意欲が高まると考えたのです。
その後は銀行や病院にも出店していき、効率性・高収益を徹底した結果、個人事業時代を含めて4年で上場を達成しました。
海外の食文化を伝える活動で、日本人が世界に目を向ける手助けを
ーー「EGGS ‘N THINGS JAPAN株式会社」の経営にも乗り出されたきっかけを教えてください。
松田公太:
アメリカでは、パンケーキやエッグベネディクトなど、しっかりとした食事をとりながら朝からミーティングするのが定番です。私も、24時間営業のアメリカンダイナーを愛用していたことから、朝食のメニューをいつでも食べられる店を日本で作りたいと考えていました。
そこに、ハワイのカジュアルレストランである「Eggs 'n Things」から日本法人設立のお話をいただき、ありがたく引き受けた次第です。新しい朝食文化の導入と、ハワイを感じる店づくりを徹底していき、国内で100店舗を達成することが現在の目標ですね。
――「クージュー株式会社」の事業内容も教えてください。
松田公太:
EGGS 'N THINGS JAPAN株式会社の親会社として、さまざまな業態の飲食店を展開しています。すべてのブランドに共通しているのは「海外の素晴らしい食文化を日本で広げよう」という観点です。
チョップドサラダ&ブリートの専門店「CHOPPED SALAD DAY」、キッチンカーグルメを提供する「Mr.HALAL」、本場のパニーニを味わえるイタリアンカフェの「PONTE NUOVO CAFE」、ハワイの雑貨やコナコーヒーを販売する「Menehune collection」。プラントベースのアイスやサラダを提供している「Down to Plant」は、ヴィーガン対応店としても人気です。
ーー今後の展望をお聞かせください。
松田公太:
私はいろいろな文化を受け入れ、発信することが大好きです。文化のベースである「食」を通して、新しいライフスタイルを世の中に広げるためにも、力になってくれる仲間をもっと集めていきたいと思います。
また、日本人の異国文化を受け入れる力は素晴らしい一方で、内側にこもりがちではないでしょうか。「世界に目を向けたら違う景色が見えるよ」と日本の皆さんに伝えるつもりで、これからも精力的に活動していきます。
編集後記
長い海外生活の中で、日本人としてのアイデンティティと向き合ってきた松田氏。食事は個人のこだわりが表れる一方で、人と打ち解けるきっかけになるツールだ。食文化の広まりで実現する思いやりのある社会は、決して夢物語ではないだろう。2025年に分社化し、さらなる発展を目指すクージュー株式会社をはじめ、各事業の展開に期待が募る。

松田公太/1968年生まれ。17歳まで海外で生活。筑波大学卒業後、三和銀行(現:三菱UFJ銀行)に入行。1997年に独立し、タリーズコーヒー日本1号店を開店。2007年、タリーズコーヒー・ジャパンの代表を退任。2009年にEGGS 'N THINGS JAPAN株式会社を設立し、代表取締役に就任。みんなの党より参議院議員選挙に立候補、東京都選挙区にて当選。2016年に政界を引退。2019年にクージュー株式会社を設立し、代表取締役に就任。2022年、公益財団法人日本国際連合協会理事、塩竈市の「しおがま未来大使」に就任。2025年、EGGS 'N THINGS JAPAN株式会社の代表取締役会長に就任。