※本ページ内の情報は2025年1月時点のものです。

2003年の創業以来、大阪中心部をメインに鉄板創作串料理やソフトフランスパン業態などを展開してきた株式会社寿幸。近年は、飲食店経営のノウハウを伝えるコンサルティング事業も好調だ。代表取締役である田中寿幸氏に、起業のきっかけや成功の裏側、今後の目標についてうかがった。

「根っからの商売人」の精神が、未経験の仕事を成功に導いた

ーーまずは社長の経歴をお話しいただけますか。

田中寿幸:
福井県で生まれ育ち、地元企業で重機運転手として働いていました。しかし、会社では努力が評価されず愚痴を言う毎日が続き、6年目を迎えた頃に「人生はお金を稼ぐためにあるのではない」と気付きました。「お金持ちになって一発逆転したい」とは真逆の発想で、「飯が食えたら貧乏でもいい、自分がやりたいことをやる人生にしよう」と思ったのです。

人に雇われず、自分で自分をプロデュースする方法として、「店を持てば自分が社長だ」と考えました。仲間に引き留められたものの、「絶対に成功する」という強烈なハングリー精神があり、25歳で大阪に出てからは命がけの戦いを覚悟して仕事に挑みました。

ーー初出店時のエピソードもお聞きしたいです。

田中寿幸:
1年ほど飲食店で修行したのち、まだまだ業界素人の状態でしたが、出店のチャンスが来ました。1店舗目の店舗の家賃は4坪で月36万円と相場より高値でしたが、無知ゆえになにも知らなかったので「店さえ出せば経営者になれる。やるしかない!」と、大阪のミナミに店をオープンしました。

もちろん、すべてが我流なので来客はゼロからのスタートです。最初はどれだけ待ってもお客様が来なかったので、最初にやった戦略が「お客様が来るまで店を開け続ける」ことでした。朝どこも空いてない時間にふらっと来たお客様がその日の売り上げになっていました。

この状況からなぜここまで流行らせることができたかというと、1つだけもっていた特殊能力「トーク力と人間力」があったからです。これで一度来たお客様は必ず2度来る、この繰り返しで常連様が増えていきました。一流の料理人が店を潰してしまうのは商売人ではなく職人だから、料理人である前に商人の心得を持って商売しなくてはならないのです。

席数を増やすために移転した先は、立地が悪く「飲食店の鬼門」とされる場所でした。それでも結果的に、家賃が月26万円・全24席の店舗で1850万円の月売上を達成し、「席数売上日本一」という快挙が各種メディアで取り上げられました。

ーー事業が軌道に乗った要因は何だったのでしょうか?

田中寿幸:
まさに「根っからの商売人」であることと、他の飲食店経営者とまったく違う思考と考え方が、創業から21年間にわたって増収・増益が続いた要因でしょう。従業員には「固定観念に縛られるな」と伝えていて、「飲食業界は12月が一番繁盛する」というセオリーを聞いた時も、まず私は「なぜ?」となります。

12月に来たお客様を満足させたら1月に必ずまた来る、そしたら1月は12月を抜ける、こういう考えでやっています。コロナの時の戦いもコロナがきてからいくら何をしようとも勝てないです。コロナが来る前の経営体制、チーム作りで全て勝敗が決まってしまっているのです。

接客と料理が自慢の飲食事業×人生論を伝授するコンサル事業

ーー貴社の具体的な事業について教えていただけますか。

田中寿幸:
鉄板創作串料理の「鉄板神社」をはじめ、無添加食パンにこだわった「明日の食パン」、ソフトフランスパン専門店の「フランスパン神社」など、飲食店の運営を柱としています。最大の強みはスタッフ一人ひとりの「人間力」と「笑顔」で、接客の質を第一に伸ばしてきました。

料理においては、一般的な飲食店やご家庭ではかけれないひと手間を惜しまず、「誰もやっていないことをやろう」という発想を大切にしています。たとえば鉄板焼きの料理の提供スタイルは皿盛が主流ですが、「鉄板神社」ではあえて料理をひとつひとつ串料理として提供し、いろいろなメニューを少しずつ楽しむ発想が流行につながりました。

ーー優秀なスタッフを育てる秘訣があるのでしょうか?

田中寿幸:
経営者に「覚悟」がなければ人材は育たず、教育もできないと考えています。「人手不足だから辞められたら困る」という理由で、本来やるべき指導もしない企業は少なくありません。ですが、私は「お客様からいただく料金以上の仕事は必ず成し遂げる」という方針で、接客スキルを厳しくチェックして指導します。

私が一番大事にしている教育は「笑顔教育」です。教育に関してはこの「笑顔教育」だけでよいと考えているので、ここだけ徹底的にやっています。スタッフにはいつも「ただの作業員にはなるな」と話しています。社員同士がお互いの長所を見つけ、感謝の気持ちを伝えられるように、WEB上で褒め合うバッジを贈りあう取り組みも継続中です。

ーーコンサルティング事業についても教えて下さい。

田中寿幸:
飲食店経営者向けに行っているコンサルティングでは難しいことを語らず、シンプル・イズ・ベストを心がけています。最初に教えるのは仕事論ではなく人生論であり、思考や精神力といった「心」の部分です。

人間は、誰かに感謝された時に幸せを感じる生き物です。「お客様の喜びが自分の喜びに変わる」という利他の精神こそ、自分が幸せになる一番の方法だとして、顧客を感動させるオペレーションや仕事・仲間に感謝できる「心の教育」を伝授しています。

「笑顔が一番すごい会社」を目指して顧客と社員の幸せづくり

ーー今後の展望をお聞かせください。

田中寿幸:
最大の課題は、社員の満足度を高めることです。現在はハードワークがつづいているので、充実したプライベートを過ごせるように働く環境を改善し、ライフワークバランスを整えていこうと思います。

事業計画はあえて作らず、「お客様に幸せになってもらうこと」と「社員の幸せづくり」、2つの軸を徹底的に強化していきます。店舗のクオリティと人材教育をブラッシュアップし、既存事業を伸ばしていくことが永続的な目標です。そして、お客様がスタッフの笑顔に影響されて、ご自身も笑顔になれるよう、「笑顔が一番すごい店」としてのブランディングを目指します。

編集後記

田中社長が初めて開店した店には、注文せずにただ話しに来るだけの人もいたという。一般的な飲食店では歓迎されない人も「来てくれてありがとう」という心で温かく迎えたからこそ、長く愛される店になった。起業のきっかけやコンサル事業、社員の働き方を模索する姿、そのすべてにシンプルだからこそ確固たる人生論が見えた。

田中寿幸/1977年、福井県生まれ。福井県立科学技術高等学校を卒業後、土木建築会社で重機オペレーターを6年間経験。25歳で大阪に進出し、26歳で独立。2008年、株式会社寿幸を設立し、代表取締役に就任。現在、大阪の難波・心斎橋エリアを中心に5業態18店舗の店舗を展開している。