
人材不足や原材料費の高騰など、飲食業界を取り巻く環境が厳しさを増す中、飲食店経営から製造業、不動産業へと事業領域を拡大し、持続的な成長を続けている会社がある。東京日本橋を中心とした店舗展開をはじめ、各事業でバランスの取れた経営を実現している株式会社バンズダイニングだ。
かつて多額の債務を抱えていた同社の再建から現在に至る道のり、さらなる飛躍に向けた今後の展望を代表取締役社長の塙良太郎氏にうかがった。
多額の債務を克服、再生の軌跡
ーー政治の世界から経営者になるまでの経緯をお聞かせください。
塙良太郎:
私は千葉県で生まれ育ち、高校を卒業後、慶應義塾大学に進学しました。在学中は、公認会計士の勉強会にも参加し、税務や商法、会計について集中的に学びながら、充実した日々を送りました。地元千葉への愛着が強く、将来は千葉に貢献したいという思いを抱いていた私は卒業後、千葉県議会議員の秘書として働き始めたのです。
しかし、その後の人生は予想外の展開を迎えます。父が居酒屋チェーンの運営とビルのサブリース事業を手がけていたのですが、私は議員秘書の仕事の傍ら、夜は居酒屋の店長として家業も手伝っていました。そんな中、私が25歳のとき、その会社に多額の債務があることが突然明らかになったのです。それまでも父との経営方針を巡って意見の相違はありましたが、この事態を受けて対立は決定的となりました。このままでは会社が存続できないと判断し、父に経営から退いてもらい、私自身が会社を引き継ぐ決断をしました。
ーー多額の債務整理にはどのように取り組まれたのですか?
塙良太郎:
昼間は議員秘書として働き、夜は居酒屋の店長として16時間以上働く日々を続けながら、不動産鑑定士や銀行の担当者をはじめとする多くの方々の支援を受け、10年間をかけて返済しました。その間に父の破産手続きなども経て、ようやく債務を整理できたのです。
また、債務整理と並行して取り組んだ商店街活動や青年会議所活動を通じて、「潰れる人」と「潰れない人」の明確な違いが存在するということを学び、安定した経営基盤を築くことが、事業の存続にとっていかに重要かを理解することとなりました。
飲食・製造・不動産を結ぶ独自の経営モデル

ーー現在の事業展開について教えてください。
塙良太郎:
当初は千葉県で飲食店8店舗と小規模な工場の運営からスタートし、さらなる成長の可能性を模索する中で、製造業分野への参入の機会を得たことが大きな転機となりました。その後、事業を着実に拡大し、現在では製造業を3社運営するまでに成長しました。
飲食部門では、東京日本橋を中心に、多様な業態の店舗を展開しています。たとえば、「KOUZO」「くらのあかり」「炙りや楽蔵」や、仙台の味を楽しめる「仙台焼肉 ホルモン 独眼牛」など、地域に密着した店舗展開を進めているのです。
また、EC事業にも注力しており、牛タンやモツ鍋などの通信販売を展開しています。特にコロナ禍では、外食需要の減少を補うために、ご家庭で楽しめる商品ラインナップの充実に努めた結果、10代から50代まで幅広い層のお客様に支持をいただくことができたのです。
このように、飲食、製造、不動産の各分野で事業を展開することで、安定した経営基盤を築き上げることができました。
ーー多角的な事業展開の中で大切にしていることは何ですか?
塙良太郎:
「かいた汗は嘘をつかない」という考えのもと、一生懸命に取り組んだことは必ず自分の成長につながると確信しています。この信念から生まれた「当たり前のことをちょっとプラスする」という経営哲学は、これまでの経験や苦労を基盤に、そこに少しだけ工夫を加えていく姿勢を重視するものです。間違ったものを無理に加えず、確実に実践可能なことを着実に積み重ねることこそが、持続的な成長の土台となると考えています。
具体的には、「フローとストック」の両輪経営を掲げ、飲食店と製造業で得られる収益(フロー)を不動産投資による資産(ストック)へと効果的に結びつけることで、事業リスクを分散させ、安定した経営基盤を築いています。この安定した基盤があるからこそ、店舗運営においても高い理想を追求できるのです。
10倍成長を目指す半導体産業への挑戦
ーーこれからの成長戦略について教えてください。
塙良太郎:
現在、各事業会社で社長ポジションの空席が多数あり、規模の拡大だけを目的とするのではなく、一緒に事業の成長を目指せる意欲的な仲間を募集しています。社長として活躍できるポジションも用意していますので、新たな挑戦を求めている方にとって、非常にやりがいのある環境だと思います。
「バンズ(Bonds)」という社名に込めた、人と人とのつながりを大切にするという理念のもと、お客様、従業員、取引先といった、すべてのステークホルダーとの信頼関係を重視する経営姿勢が弊社の特徴です。一人ひとりの可能性を信じ、共に成長できる環境を整えることを心がけています。
また、人材戦略を基盤に、時代の流れを見据えながら新たな挑戦も始めています。現在、半導体関連の製造業への進出を計画しており、東京本社で経営企画や総務人事、採用営業を統括しながら、仙台に営業所を設置し、生産拠点を千葉と仙台に配置する計画を進めています。今期だけで26億円の投資を決定し、さらなる飛躍を目指しているところです。
ーー最後に、理想とする企業の姿をお聞かせください。
塙良太郎:
今後10年で規模を10倍に拡大することを目標にしています。しかし、その成長は決して無理せず、これまで積み上げてきた経験や努力を土台に、一つひとつ確実に前進する形で実現したいと考えています。
社員とともに成長し続ける企業文化を何よりも大切にしていきたいと思っています。現在は、仙台での従業員の採用が特に好調で、地域の雇用創出にも大きく寄与するなど、非常に興味深いフェーズを迎えています。
そんな新しい仲間たちとともに次なるステージを目指せるタイミングにある今、私たちとともにこの大きな成長の機会に挑戦してくれる方々との出会いを、心から楽しみにしています。
編集後記
「当たり前のことを、ちょっとプラスする」という塙社長の経営哲学には、類まれな実践力と覚悟が宿っている。多額の債務という巨大な壁を乗り越え、数々の事業を成功へと導いてきたその道のりには、想像を超える努力があったに違いない。飲食、製造、不動産という多様な事業を巧みに統合しながら、半導体産業という新たな挑戦に挑む姿勢は圧巻だ。塙社長が描く株式会社バンズダイニングの未来がどのように実現されていくのか、その歩みに今後も注目したい。

塙良太郎/慶応義塾大学卒業後、千葉県議会議員秘書を経て、25歳で父の会社を承継。多額の債務整理に成功し、事業を再生。2013年から東京での事業を本格化し、2014年に社名を株式会社バンズダイニングに変更。現在は東京、千葉、仙台を拠点に、飲食、製造、不動産など複数の事業を展開している。