大阪府を中心に、かわいらしい猫のキャラクター「のらちゃん」で有名な、うどん店を展開する「のらや」。このユニークなブランドを率いるのが、株式会社のらやの代表取締役社長である宇田隆宏氏だ。
宇田社長は飲食業界で長くキャリアを積み、2020年に社長に就任すると、会社の組織改革やブランディングを推し進めている。今回は宇田社長に、経歴や「のらや」の強み、会社の将来像などを聞いた。
飲食業界で培った経験を生かし、社長が果たすべき責務に向き合う
ーー宇田社長の経歴について、お聞かせください。
宇田隆宏:
私が飲食業界へ進んだのは、もともと料理に興味があったためです。高校卒業後は大阪の飲食会社に就職し、そこから飲食業界のキャリアがスタートしました。
最初の就職先で約2年間働いたのち、私は音楽活動をする夢をかなえるために生活の場を東京へ移すことにしました。勢いに任せて渋谷のアパートを借り、音楽活動に精を出す傍ら、飲食業で生活費を稼ぐ日々が始まりました。
東京に来てからは、銀座の割烹やゴルフ場のレストランなど、さまざまな場所で経験を積んだのですが、そうしている間に自分の中で音楽活動よりも飲食業の楽しさが大きくなっていったのです。こうして27歳で大阪に戻り、本格的に飲食業に取り組むことになりました。
「のらや」と出合ったのは、大阪で働いていた会社を辞めて、次の就職先を探していたときです。マネージャー職の求人を見つけて2007年に入社し、そこから店長を経てエリアマネジャーから営業部長を歴任し、2020年に社長に就任しました。
ーー社長就任後に行った社内改革や改善について、教えてください。
宇田隆宏:
特に注力したのは旧態依然とした組織体制の変革です。
私が社長に就任したとき、弊社は約2億円の借金を抱えていたうえに、経営に一部の役員の意見が強く反映される組織自体の「属人化」が問題となっていました。社長に就任したからには状況を改善したいと考えましたが、思うように進まず、変化のない日々が続いていました。
この状況を打破したのが、ある社員が放った「第三者の視点で、この現状はおかしい」という言葉です。私は一社員が放ったこの言葉に勇気づけられ、社長として組織改革に着手することを決意。今まで触れなかった組織の問題点にメスを入れ、弊社を前に進める組織として生まれ変わらせることに成功しました。
猫をモチーフにした古民家で、お客様にゆったりとした「うどん時間」を届ける
ーー貴社の事業内容について、お聞かせください。
宇田隆宏:
うどん店の「のらや」の運営が主な事業です。のらやは猫をモチーフにした古民家風の店舗作りが特徴で、大阪府と京都府、兵庫県、和歌山県、東京都に合計14店舗があります。
「のらや」という名前は、最初の店舗の建設中に見守ってくれていた「のら猫」と、12坪と小さかった店舗をたとえた「野良小屋」から名付けたものです。店舗のあちこちに猫がいるのはそのためで、ロゴマークや看板、さらには食器にいたるまで猫が散りばめられています。この猫は「のらちゃん」という弊社のマスコットキャラクターで、のらやと皆様をつなぐ大切な役割を担っています。
また、「のらや」の麺はもちもちとした食感が特徴で、日々の気候に合わせて微妙に調整しながら、職人が製造しています。このこだわりが詰まったうどんに、厳選した利尻産の昆布を使ったおだしを組み合わせることで、弊社が誇りをもっておすすめできる一杯ができあがります。
ーー会社の強みや根本的な価値観について、教えてください。
宇田隆宏:
「のらや」の強みは、猫をモチーフにした古民家風デザインという独自の店舗コンセプトです。
初めて来店したのに、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気の中で、ゆったりとうどんを楽しんでいただく。この「体験」を提供できるのは弊社ならではの強みだと感じています。ありがたいことに、弊社には優しく穏やかな方が多く集まってくれたので、まるで田舎のおばあちゃんの家に遊びに来たような感覚で来店してほしいですね。
社員たちの優しく穏やかな人柄は私も仕事を通して感じることが多く、行動の端々から会社やブランドを愛していることが伝わってきます。この社員たちの人柄と愛があるからこそ、「のらや」は心地よい空間を保ち続けているのでしょう。
ブランドとしての分岐点を迎えた「のらや」が今、求める人材とは
ーー5年後・10年後のビジョンについて、お聞かせください。
宇田隆宏:
まず、「のらや」を30店舗まで増やすというビジョンがあります。そのうえで今後、「のらや」をどのように成長させていくのかという、長期的な方向性を決めていきます。
このまま直営店の店舗数を増やすのか、別業態で会社の成長を狙うのか、それともフランチャイズ店舗の支援事業を伸ばしていくのか。今、弊社は、ブランドを強化していくための、最善の方法を模索するフェーズにあると感じているのです。
また、会社の成長には知名度が不可欠なので、ECサイトにおける「のらちゃん」デザインのお皿の販売を促進して、全国の方に弊社の名前を覚えてもらうことも考えています。
ーー求める人材像について、教えてください。
宇田隆宏:
理想を言えば、「のらや」の雰囲気を好きになってくれて、弊社が大切にしている、単に食事を提供するのではなく、のらやで楽しい時間を過ごしてもらうという「体験を提供する」という価値観に共感してくれる方と一緒に働きたいですね。
弊社は特別なスキルを持った方よりも、「飲食業が好き」「のらやの雰囲気が好き」といった、「仕事を愛する思い」を持って働きたい方を求めています。飲食業で働き続けるには仕事に対する熱意が必要で、その気持ちがあれば成長も見込めます。
私も「人が好き・人を幸せにするのが好き・料理が好きな方は、『のらや』に集まれ!」という気持ちで、皆さんをお待ちしております。これからも、お客様と社員の両方にとって、心地よい環境を築いていく所存です。
編集後記
宇田社長の接客や店舗の心地よさなどを大切にする姿勢からは、「のらや」がサービスを通じて本当に届けたいものが「体験」であることが強く伝わってきた。「古民家」と「猫」と「うどん」という馴染み深い存在に、宇田社長や社員の皆さんの愛情が加わることで、来店者にくつろぎを提供しているのだ。この心癒されるコンセプトによって、「のらや」は人々の憩いの場として成長を続けることだろう。
宇田隆宏/1966年生まれ。高校卒業後の1970年、株式会社蓬莱に入社したことをきっかけに、飲食業界でキャリアを積む。2007年、株式会社のらやに入社。2020年、代表取締役社長に就任。