
1945年に設立されたセザックス株式会社。印章店・馬場静山堂として創業したのち、現在は印刷業を軸に広告代理事業を行っている。カタログ・マニュアルの製作から、新製品の発表に伴うプロモーションまで手がける販売促進のワンストップサービスが特徴だ。代表取締役社長の馬場明彦氏に、事業が多角化した経緯や会社の強み、今後の展望をうかがった。
広告業界の知見で家業の印刷会社をパワーアップ
ーーこれまでの経歴や社長就任の経緯をお話しいただけますか。
馬場明彦:
大学卒業後は広告代理店に入社し、イベント運営やセールスプロモーションを担当しました。その後、父が経営していた「セザックス」について、長男として事業継承の相談を受けたことがきっかけとなり、入社することを決めました。
弊社に入社してから、広告業と印刷業は近い領域にある一方で、業界内の文化が大きく異なることを知りました。私自身のノウハウや人脈を生かし、「印刷会社」という家業の延長線上で新しい事業ができると考え、セザックスインターナショナルという広告プロダクションを立ち上げたのです。
広告制作事業は、グループ内のデザイン事業を担う「セザックスクリエイティヴ」と同居する形でスタートしました。途中から両社の社長を兼ねることになり、デザイン部門の社員と衝突するようになってからは、とても苦労した記憶があります。
社員の半数が一日で退職するという事態を経て、自分のやり方が間違っていたと痛感し、経営道を本格的に学びました。その後、2001年に弊社の社長へ就任しました。
ーー経営者としての心得について、教えてください。
馬場明彦:
すべての源は「人」であると考えています。たとえば印刷業の場合、最新鋭の印刷機を導入したとしても、それを扱う人が未熟だと良いものはつくれません。対照的に、情熱のある人が丁寧にメンテナンスしていれば、古い機械でも良いものがつくれるのです。
昔は機械によって製品の質が変わりましたが、デジタル化が進んだ今は印刷技術が標準化したと感じます。営業では技術をアピールするだけではなく、社員の人間性で競合との差別化を図る時代になりました。
私も気持ちの良い挨拶と素直さ・謙虚さを心がけ、仲間の人柄については面接段階からチェックしています。素直な人は学びの吸収力が違うので、成長も早いといえるでしょう。
オーダーメイドの広告活動で印刷物に付加価値を

ーー事業内容を教えてください。
馬場明彦:
私たちの仕事は、印刷物をつくるお客様の根底にある「商品を買ってほしい」「人を集めたい」といった目的を実現するお手伝いです。
弊社の近年のスタンスは印刷会社というより、「印刷」というハード面を持つ広告会社ですね。印刷物に情報・クリエイティブという付加価値をつけ、一つのメディアとして提供できることが強みです。そのため、案件次第ではマス広告を扱う大手広告代理店も競合となり得ます。
多岐にわたる業種から依頼を受ける中で、国産スマートフォンのマニュアル制作実績では国内シェアNo.1を誇っています。新しい機種が世の中に出るときは、取扱説明書や店頭用POP・パンフレットの製作、発表会の企画まで、すべて弊社が請け負うことも少なくありません。
ーー「クリエイティブ」へのこだわりもお聞かせください。
馬場明彦:
印刷業界は多重下請け構造が生まれやすいのですが、弊社は直接取引を基本としています。お客様から直接いただけるお褒めの言葉は、営業や制作の現場で頑張る人たちにとって大きなやりがいになっています。
デザインからシステム開発まで、すべてがオーダーメイドだからこそ、お客様の「本当の課題」を引き出せる人材の育成も大切です。ただ、近年は時代の変化がめまぐるしく、要望を聞く前に提案できる力が求められています。
お客様の望みは成果ですので、見えない困りごとを解決できる領域まで踏み込めるとベストですね。要望に全力でお応えするパワー・能力・スピード感で負ける気はありません。
「人格」ある法人として社員を幸せに導く会社づくり
ーー貴社で働く魅力はどんなところでしょうか。
馬場明彦:
弊社では、40年前から職種別採用を行ってきました。自分のやりたい仕事ができる点は大きな魅力ではないでしょうか。新入社員の教育はもちろん、先輩社員を後輩につけるメンター制度も導入し、心配事やトラブルがあれば早めに相談してほしいと伝えています。
社内独自のイベントも充実しています。感動した出来事をWeb日報に書く「月間感動大賞」は、「社長と美味しいものが食べられる」という受賞者特典がある企画です。
新しいことにチャレンジした人は「月間MVP」として表彰し、成果を問わず金一封を贈ります。授業参観のようなドキドキ・ワクワクを味わえる「職場参観日」や、ご家族を呼んで食事会をする「昇格者奨励会」もモチベーションの向上につながりますね。
印刷工程で余った紙でお絵かき帳をつくり、児童館に寄付する取り組みは弊社ならではのものです。いじめ問題や児童虐待が絶えない世の中で、未来をつくる子どもたちに贈り物をしたいと思い、有志を募って絵本プロジェクトも立ち上げました。製作した絵本は、希望する方に25冊までは無料で差し上げています。
ーー今後の目標をお聞かせください。
馬場明彦:
情報を整理して印刷物の付加価値を創造するという強みをコアに、事業の幅を広げていく過程で、セザックスをより良い会社にしたいですね。
私が思う良い会社とは、所属している人たちが退社後も含めて幸せを感じられる会社です。「法人」と呼ぶように、会社にも人格があると考え、お客様や世の中に必要とされる「良い性格の会社」でありたいと思います。
編集後記
優れた印刷技術と広告代理店の機能をかけ合わせ、印刷業界に独自のポジションを築いたセザックス。顧客の声を真摯にキャッチして、常に全力で実現していく「人格」が好ましいからこそ、大手をはじめ多くの企業から受注が絶えないのだろう。

馬場明彦/1962年生まれ。早稲田大学商学部を卒業。1986年に大手広告代理店へ入社し、イベントプロデューサーなどを務める。セザックス株式会社へ入社後、1994年、広告プロダクションとしてグループ会社の株式会社セザックスインターナショナルを設立。2001年、セザックス株式会社の代表取締役社長に就任。