
インクジェット印刷機、丁合(ちょうあい)機、紙折機など、プリンティングやドキュメンテーションの分野で使われる機械を開発・製造している株式会社デュプロ。同社は海外にも販売会社を複数展開しており、グローバルな製品展開にも強みを持つ。
代表取締役社長を務めるのは、「ものづくりが好きだった」という理由で同社に入社した田中日出男氏だ。印刷業界を牽引する同社の事業やものづくりへの考え方とはどのようなものなのか、詳しい話を聞いた。
一般社員は失敗を恐れず挑戦すること、管理職は部下の挑戦を促すことが大切
ーー貴社に入社後、社長になるまでの経緯を聞かせてください。
田中日出男:
デュプロに入社したのは、もともと私はものづくりが好きで、幅広くものづくりに関われる仕事がしたいと思ったからです。生産、部品検査、資材調達の部門を数年かけて経験した後、当初目指していた開発部門に配属されました。
入社後すぐに開発の仕事に就くことはできませんでしたが、結果としてそれは良かったと思っています。資材調達時代に取引先と深い関係を構築でき、部品のことで困ったときに相談できる相手をたくさん持つことができましたから。
その後、開発本部の本部長や常務取締役などを経て、代表取締役社長に就任しました。初めて管理職になったときは、自分が目を届かせなければいけない範囲が急に広くなり、一般社員とは違うマネージメントの難しさを実感しましたね。
ーー社長就任後は、どのような考えを大切にしていますか。
田中日出男:
私が社員によく伝えているのは、「成長と挑戦のサイクルをしっかりと回そう」ということです。挑戦しなければ成長はできませんし、成長しなければ新しい挑戦はできません。
社員たちは失敗を怖がらずに挑戦してほしいですし、管理職は部下の挑戦を促し、進むべき方向性と乗り越え方を一緒に考えてほしいと伝え続けています。
他社には真似できない、加飾から印刷まで一貫して提案できる点が強み

ーー事業の内容や強みについて聞かせてください。
田中日出男:
弊社は印刷機の製造や紙の加工に関連した製品開発を行う会社で、主に一般・新聞・印刷の後加工という3つの事業領域に分かれています。
1つ目の「一般」では、企業や学校、自治体で使う印刷機や紙折機などを提供しています。2つ目の「新聞」では、新聞販売店向けに、折込広告を束ねる丁合機や、折込広告を新聞に挟む組込機、また雨の日に濡れないよう新聞をビニールに入れる機械などを手がけています。
そして3つ目の印刷の「後加工」は、GA(グラフィックアーツ)とも呼ばれるもので、印刷会社が本を製作したり、加飾印刷(エンボスや箔押しなどインク以外の加工のこと)を施したり、紙を裁断するための機械を提供しています。
弊社のお客様は、社員数100名程度の比較的中規模の会社が多いですね。競合のメーカーもありますが、加飾、抜き加工、印刷などを一貫して提案できるメーカーはほかになく、唯一無二の提案ができる点が強みです。
ーー紙媒体のデジタル化が進んでいる今、どのようなことを大切にしながら商品開発を行っていますか。
田中日出男:
デジタル化が急速に普及したことで、新聞や雑誌など情報を伝達するための紙の需要は下がりつつあります。しかし、名刺を入れる箱など、情報伝達以外の紙の需要は確実に残ると私は考えています。
こうした時流の中で、会社を成長させるためにはどうしたら良いのかを常に考えながら、お客様に価値を提供できる商品をつくりたいという思いで、ものづくりをしています。
また、たとえばGAの領域には職人たちが手がけるような仕事も多く、現状誰でもできるような仕事ではありません。昨今、職人の高齢化が進んでいますので、職人の仕事を誰でもできるようにするためにはどうすれば良いのかについても考えています。
人材の成長に重点的に取り組むことで、自社開発製品売上高60億の壁を超える
ーー貴社ではどのような人材を求めていますか。
田中日出男:
ものづくりが好きな方と一緒に働きたいですね。企画提案から開発設計、納品、そしてお客様の声を聞くところまで携われるのが弊社の売りなので、ものづくりの醍醐味をとても感じられると思います。
ーー今後の注力テーマと展望を聞かせてください。
田中日出男:
弊社は海外でも事業を展開していますが、GAの分野に関してはまだアジアでは知名度が低いので、知名度を高めていく活動をしたいです。そのために必要なのが、営業力の強化です。このGAの領域を拡大するのに加えて、今後は新商品を開発し、事業を多角化することも考えています。
また、来期から新たな人事評価制度として、特に「挑戦と成長」に軸を置いた評価方法を取り入れる予定です。管理職は部門のメンバーをどのくらい成長させることができたか、一般社員はどのくらい成長できたかを評価していきます。
社員たちには、この評価制度に納得感を持ってもらえるよう、評価基準をできるだけ可視化します。評価制度を公平にすることで、誰にでもチャレンジの場を与えられるような環境を構築していくつもりです。
そして今後の展望は、できるだけ早く自社開発製品売上高60億円、原価率70%を達成することです。人材が成長すれば商品開発のサイクルも短くなり、目標の達成にも近づくので、人材の成長に重きを置いて取り組んでいきます。
編集後記
ものづくりが好きだからという理由でデュプロに入社した田中社長。取材を通して、顧客のためになるものづくりとは何なのかを常に追及する思いが伝わってきた。ペーパーレス化などで紙の使い方が見直されている今、同社の商品は、これまでにはなかった紙の楽しみ方を人々に提示できる可能性を秘めていると感じた。今後、同社の製品が「紙の新たな価値」を創出してくれることを期待したい。

田中日出男/1964年大阪府生まれ。1987年、明治大学卒業後、株式会社デュプロに入社。開発本部本部長、常務取締役などを経て、2022年、代表取締役社長に就任。