※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

株式会社フクシンは、1911年創業の、100年以上の歴史を持つ老舗企業だ。布団商から始まり、現在は布団レンタルからリネンやシートカバーのクリーニング、リース事業まで幅広い事業を手がけている。時代の流れに柔軟に対応する同社だが、顧客への誠実な気持ちは変わらない。代表取締役社長の金沢剛純氏に、同社の事業内容や企業文化、今後の展望を聞いた。

父親の後を継ぎ、36歳で社長へ

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

金沢剛純:
祖父が2代目、父が3代目社長という環境で育ったため、会社のあり方や社長の心得といった話は幼い頃から聞いていました。特に「社員あってのフクシンなんだ」ということは常に父親から言われていましたね。

新卒で日本生命保険相互会社に入社し、5年ほど経った頃、父からフクシンに来ないかと誘われました。印象的だったのは、「今来ないのならもう来なくていい」と言われたことです。

当時の弊社は、事業の柱を増やそうという過渡期にありました。父曰く、「仮にうまくいって会社が成長したとしても、その苦労を知らない社長の息子が入社したところで、社員は誰もついてこないから」とのことでした。その言葉を聞いて、28歳の時に入社を決めました。

私が入社した時点で、当時の社長である父から、自分はあと8〜9年で辞めるといわれました。自分が次期社長になるまでの猶予が10年もないとわかり、とにかくがむしゃらに仕事に打ち込みましたね。2012年に父は宣言通り引退し、私が36歳の時に社長へ就任しました。

ーー社長就任後に変化したことはありますか?

金沢剛純:
社員が自ら考えて行動する企業文化に変わってきたかと思います。

私たちの仕事は毎回契約を取るような商売ではなく、サブスクリプションのように毎月の仕事が決まっています。その環境に甘えていると感じていたので、社長就任後は自分から提案・販売する意識を持つように社員に伝えてきました。それと同時に、現場に対する権限委譲も進めましたね。

もし社員が失敗したとしても、それで辞めさせることはありません。誰かを解雇して会社が一流になっても、何の意味もありませんから。だからとりあえず挑戦してみよう、最後まで続けてみようと社員には伝えています。

信頼の積み重ねで顧客ニーズを探る

ーー貴社の事業内容を教えてください。

金沢剛純:
弊社は、布団のレンタル・クリーニングやシートカバーのリース、オリジナル商品の販売など、生活の衛生と安全に関するサービスを提供しています。クリーニングやリースの主な取引先はタクシー会社や病院、介護施設などです。

弊社はもともと布団屋として創業し、長らくタクシー会社への布団レンタルが主な事業でした。そこから、時代の流れとともに変化するお客様のニーズに対応し、タクシーのシートカバーのクリーニング・リース、スーツの管理・販売と事業を増やしてきた背景があります。2019年には病院や介護施設のリネン、タオルなどのクリーニング・リース事業を開始し、弊社のメイン事業の一つとなっています。

今後もお客様のニーズに応じて事業の柱を広げていきますが、これまで培ってきたノウハウを生かすためにも、自分たちの畑は越えないようにしたいと考えています。そういった意味では、布製のものを用意してお客様に使っていただき、洗濯して届けるというベースはすべての事業に共通しています。

ーー会社を経営する上で心がけていることはありますか?

金沢剛純:
お客様から信頼していただけるように、お客様の話に耳を傾ける姿勢を徹底しています。

相手が何に悩まれているか、今どういった取り組みをしているのかという話は、非常に参考になります。お客様のリアルな声は、ニーズを把握する上で欠かせません。仮に弊社と関係のない分野であっても、お客様の悩みを解消に向けてできる限りのことはします。

先ほども触れましたが、弊社の仕事はサブスクリプションのような側面があるため、お話を聞かなくても、仕事は変わらずいただけるかもしれません。しかし、そこに甘えるのではなく、能動的にお客様の悩みの解消に向けて動くことが、信頼の蓄積につながると考えています。

さらなる発展に向けて採用とDXに注力

ーー今後の展望について教えてください。

金沢剛純:
特に注力したいのは、社員の採用と定着です。仕事を受注できそうなのに、こちらのマンパワーが足りなくて取れなかったとなっては、非常にもったいないですよね。

採用と定着を目指すためには、従業員満足度の向上が大切です。社長面談を年に1度行っているのですが、そういった社員と1対1で話せる機会をもっと増やしていきたいですし、福利厚生や弊社ならではのユニークなイベントも増やしていきたいですね。

同時に、管理職の負担を軽減するために、業務のDXも推進していこうと考えています。マネジメント層には、機械では補えない人間にしかできない部分を担ってほしいという思いがあります。

今後仕事を増やしていく上で、人材の採用と定着、DXによる生産性の向上はマストです。明るく元気で楽しい会社という企業像を目指して、さまざまな取り組みを行っていきたいと考えています。

編集後記

100年以上の歴史を持つ同社は、常に時代のニーズを読み解き、流れに合わせて変化してきた。その柔軟な姿勢と、顧客を思う変わらぬ信念は、今後さらに同社を発展させていくだろう。

金沢剛純/1976年東京都生まれ、学習院大学卒業。日本生命保険相互会社に入社し、6年リテール部門にて業務。2004年に株式会社フクシンへ入社。2012年に同社代表取締役社長に就任。