
家具・インテリア業界で自社ブランドの展開やOEM受託、プライベートブランドの企画・輸入販売を行っている株式会社永井興産。同社は「ずっと、いいね。」をコンセプトに掲げ、安心・安全で長く愛用できる商品の提供に力を注いでいる。
同社の専務取締役である永井章博氏は、5年間で売り上げを3倍以上に伸ばし、さらには海外進出も見据える新たなリーダーだ。永井専務にこれまでの道のりや、現在の状況、そして未来への展望などを聞いた。
家業を継ぐことへの責任感が芽生えるまで
ーー永井専務の経歴をお聞かせください。
永井章博:
永井興産は、私にとって小さい時からあって当たり前の存在でした。幼いころから家業として身近に感じており、特に父からはいつか会社を支えてほしいという大きな期待を寄せられて育ちました。
しかし、当時の私には会社を継ぎたいという気持ちはなく、学生時代はスポーツインストラクターや通関士になりたいと漠然と考えていました。家族からより長く安定して続けられる仕事をとの助言もあり、進路について深く考えるきっかけとなり、迷いや葛藤の中で、一時は実家を離れ、新たな視点から自分の将来を見つめ直す時間を持ちました。
その後、家業を継ぐことは単に義務ではなく、自分らしい形で家族と会社の想いに応えていく道でもあると考えるようになったのです。
そこから会社を継ぐ意思が固まったのは、大学時代に受けた、株式会社ダイエー創業者の中内㓛氏の特別講義がきっかけです。中内氏から「もし今、あなたのお父さんとお母さんが亡くなったらどうするか」と問われ、自ら問い直した結果、初めて自分には家族や従業員の生活を支える責任があると自覚しました。
ちょうどその頃に父が新たに立ち上げた家具・インテリア輸入事業に強い関心があり、そのビジネスに貢献するため、家業との向き合い方に悩みながらも2006年に永井興産に入社しました。その後、2013年に専務取締役に就任し現在に至ります。
紆余曲折を経て専務となりましたが、最終的には自分自身の意思で、新しい道を切り開くために今のポジションに辿り着いたと感じています。
ーー専務取締役に就任するまでの間で、特に大変だったエピソードを教えてください。
永井章博:
入社当時、弊社は成長の過渡期にあり、組織規模も小さく、経営面では改善の余地を多く抱えていました。私自身は商品の物流業務を担当しており、朝から晩まで現場で出荷作業や片付け、コンテナ荷卸しをしていました。
そんなある日、日によって多かったり少なかったりする発注書を見て、もっと多くのお客様に永井興産の商品を届けたい、そしてその魅力や価値をより広く伝えたいという想いが強く湧き上がりました。
「この商品なら、もっと扱っていただけるはずだ」と感じた私は、社長である父に販路拡大への取り組みを提案しました。当時の私は営業経験がなく、最初はすぐに任せてもらえる状況ではなかったのですが、それでも自分の力で商品を広めたいという想いを諦めることはできませんでした。そこで、自ら営業を志願し、一歩を踏み出す決意を固めたのです。
最初に足を運んだのは、当時の株式会社マイカル様(現:イオンリテール株式会社様)でした。営業経験がないため緊張しましたが、お客様のニーズをしっかり聞き、自社に出来ることはなにかを考えて一生懸命商談をしました。後日、考えた新商品をバイヤー様に提案したところ採用していただきました。この経験を皮切りに、私はハイエースに乗って全国各地を訪問し、お客様の声に耳を傾けながら提案活動を重ねていきました。
ときには車中泊やパーキングエリアで仮眠をとりながら奔走する日々もあり、今思えば、本当に必死で永井興産の商品を広めたいという気持ちだけで生きていましたね。
その結果、5年間で売上は3倍にまで拡大しました。現場視点から経営課題を見つけ、自ら行動に移すことで、組織全体の成長に貢献することができたと実感しています。
柔軟性と効率性が鍵!ファブレスメーカーの優れた総合力

ーー貴社独自の強みはどのような点にあるのでしょうか?
永井章博:
弊社の強みは事業の総合力の高さにあります。企画力、自社で工場を持たないファブレスメーカーとしての柔軟性、コスト効率、さらにPB(顧客プライベートブランド)とNB(ナショナルブランド)を織り交ぜたバランスの良いビジネスモデル、そして小ロット製造でも対応可能な工場ネットワークなど、いろいろな要素がかみ合って、弊社の強い地盤を形づくっています。
中でも一番の強みは、営業現場で得た顧客のニーズを即座に商品化できる企画力と、それを支える柔軟な生産体制です。営業スタッフや社員が持ち込むアイデアを、トレンド、差別化、ストーリーという3つの基準で評価し、社員一人ひとりのアイデアが尊重され、それが実際の商品として形になる取り組みを行っています。
暮らしに喜びを届けるグローバルブランドを目指し、挑戦は続く
ーー今後、特に注力したいことを教えてください。
永井章博:
今後は、自社ブランド商品の強化に一層力を入れてまいります。
私たちは、単なる家具ブランドではなく、人生のパートナーとして、暮らしに寄り添い、日常に豊かさと喜びを届ける存在へと進化していきたいと考えています。そのためには、お客様の感性やライフスタイルに共鳴する、選ばれる商品の開発が不可欠です。トレンドやニーズの本質を捉えながら、心に響く価値提案を形にしていきます。
そして、その先には、これまで国内で培ってきた確かな実績を土台に、海外への輸出事業にも取り組んでいきたいと考えています。グローバルな視点でブランドを成長させていきたいですね。
また、社内においては、社員一人ひとりのモチベーションを高めるために、目標や成果を数値化し、個人が評価・表彰される機会を増やす取り組みなどを強化して、組織全体を活性化していきたいです。これらの取り組みが実を結べば、会社が一丸となって、共通の目標に向かって進む文化が醸成されるはずです。
ーー将来的に、貴社をどのような姿に成長させたいとお考えですか?
永井章博:
将来的には、日本と世界、そして地域と地域をつなぐ「架け橋」として、国内外を問わず価値を提供できる企業へと成長していきたいと考えています。また、これまで培ってきた輸入事業のノウハウを活かしつつ、今後は、輸出事業にも注力し、世界中のお客様のニーズに応える提案力あるブランドの構築を目指します。
そして何より、私たちの商品が、世界中のお客様の暮らしに“喜び”や“物語”をもたらすことを大切にしています。その積み重ねが「ありがとう」という言葉となって返ってきたとき、従業員一人ひとりのやりがいや幸福感へとつながっていく。私たちは、そんな心温まる循環を育む企業文化を大切にしながら、世界と地域、そして人々の暮らしをつなぐ企業として歩みを進めてまいります。
編集後記
永井専務の活躍により勢いを得た永井興産は、今、新たな成長局面に到達しようとしている。ブランド成長に向けた具体的な戦略を掲げている状況を見るに、同社が世界へ羽ばたいていくのも時間の問題だろう。会社の組織改革に意欲を見せている点も見逃せない。近い将来、会社としてのあり方を盤石にし、世界で活躍している同社の姿が見られるはずだ。

永井章博/1983年、兵庫県出身。2006年、流通科学大学経済学部卒業後、株式会社永井興産に入社。物流業務、事務業務、品質管理業務、企画営業部ゼネラルマネージャーなどを経て、2013年専務取締役に就任。