
株式会社ジェイアール西日本伊勢丹は、JR西日本が60%、三越伊勢丹が40%を共同出資して誕生した会社だ。京都・大阪で百貨店を運営しており、鉄道と百貨店のノウハウを掛け合わせた事業運営を強みとしている。
今回、代表取締役社長の伊倉秀彦氏に、同社の強みや経営統合時のエピソード、今後の展望などをうかがった。
入社2年目から海外勤務を経験し、帰国後は経営統合プロジェクトにも携わる
ーー今までの経歴を教えてください。
伊倉秀彦:
もともと海外で活躍したいという思いが強く、百貨店の中でも当時特に海外進出に積極的だった伊勢丹へ新卒で入社しました。
1年目に新宿本店の婦人服売り場で百貨店のイロハを学んでから、海外事業部へ配属。2年目にタイのバンコクへの出店プロジェクトに関わった後、伊勢丹グループの新たな事業の柱をつくるために、アメリカにある三菱系の銀行へ異動となりました。
サンフランシスコとロサンゼルスの銀行でプロジェクトファイナンス領域の業務に従事したのち、ニューヨークの銀行へ異動。日本へ帰国したのは渡米から3年弱ほどでした。
その後、三越伊勢丹ホールディングスCFOや岩田屋三越代表取締役社長を経て、2023年6月に弊社の代表取締役社長に就任しました。
ーー三越伊勢丹の経営統合時の話を聞かせてください。
伊倉秀彦:
統合する数年前から、プロジェクトに関わり始めました。このとき特に大変だったのが、すべての会社の業務とシステムをまとめる作業です。
一般の人からすると、三越も伊勢丹も似たように見えるかもしれませんが、社員たちの働き方など、裏側は大きく異なります。そのため、2007年頃からまずシステムの統合準備を始めました。
ショッピングカードをはじめとしたシステムの統合作業は3年ほどかかりましたが、事前の話し合いに時間をかけて進めてきたので、途中で齟齬が起きたり、統合そのものが破綻したりするようなことはありませんでした。
全国有数の集客力と駅隣接の好立地で、高いポテンシャルを秘めている点が強み

ーー今までの経験の中で、大変だったエピソードを聞かせてください。
伊倉秀彦:
2011年に、JR大阪三越伊勢丹を担当させてもらったときのことです。開業時は目標の半分ほどの売上しかなく、店舗を立て直すための解決策を考えなければいけませんでした。
そこで提案したのが、今までの百貨店とは違うコンセプトのお店にするということです。JRグループの力を借りて当時の日本では珍しかった、専門店と百貨店の融合を取り入れた商業施設「ルクア イーレ」を2015年にリフレッシュオープンし、結果として館全体の売上を伸ばすことができました。
しかし、その後2020年にコロナ禍が始まり、京都店も含めた全社売上が再度落ち込むことに。従業員も自分たちがどこに向かえば良いのか分からず、社内の雰囲気も沈滞気味に感じられたので、まずは彼らと現状認識と将来ビジョンについて、対話を重ねることにしました。
このときに、今まで大切にしてきたことや今後の経営基盤の方針などを確認し合い、「2032年までに達成する長期ビジョン」を決めることができました。
ーー事業内容や強みについて教えてください。
伊倉秀彦:
弊社は、京都で百貨店を25年以上運営している会社です。ジェイアール京都伊勢丹のほか、国内最大級の駅型商業施設「ルクア大阪」にも百貨店とは違うコンセプトのショップを出店しており、同店は新しいお客さまとの出会いの場となっています。
また、駅隣接の立地という点が強みで、東京や九州といった遠方だけでなく、近隣地域のお客様からも多く利用されており、全国有数の集客力の高さも大きな魅力です。
たとえばジェイアール京都伊勢丹に関しては、電車を利用する際に京都駅を通過しなければいけない奈良や滋賀などの近隣県のお客様が多数立ち寄ってくださっています。京都駅直結という立地、そして京都というインバウンド需要の高い地域という点も含めて、ジェイアール京都伊勢丹は高いポテンシャルを秘めています。
そのほか、年間に何度もセミナーや対話会を実施するなど人財育成にも注力しています。
顧客との信頼関係をベースに、変化をしながら成長していく
ーー最後に、今後のビジョンをお願いします。
伊倉秀彦:
お客様との信頼関係を一番大切にしています。そのため、CRM(顧客との関係づくり)を強めることが、今後の重点戦略です。
お客様にリピーターになってもらえるよう取り組む中で、どのような品揃えやサービスが求められているのかを明確にし、それに合わせた店づくりを考えています。
そして、CRMの実行により、品質・サービスともに高いものを追求し、上質で豊かな生活を求める消費者のための「高感度上質消費」への対応を行っていきます。
また、会社がしっかりと利益を生み出せる体制を維持しながら、生まれた利益を店舗環境や従業員に投資することにも力を入れていくつもりです。
編集後記
海外プロジェクトやJR大阪三越伊勢丹の立て直しなど、多彩な経験を積んできた伊倉社長。同氏主導のもと「お客様により良いものを提供したい」という気持ちで会社が一丸になったからこそ、コロナ禍などのピンチも乗り越えられたのだろう。インバウンド需要が高まっている今、百貨店事業には大きなポテンシャルがある。他社と差別化しながら同社がどのように活躍していくのか、今後が楽しみだ。

伊倉秀彦/1964年神奈川県横浜市生まれ。1987年慶應大法卒後、株式会社伊勢丹入社。2014年株式会社エムアイカード取締役専務執行役員、株式会社エムアイ友の会代表取締役社長、2018年株式会社三越伊勢丹ホールディングス執行役員経営企画部門長、2019年同取締役常務執行役員CFO。2021年株式会社岩田屋三越代表取締役社長執行役員、2023年6月株式会社ジェイアール西日本伊勢丹代表取締役社長に就任。