
大阪の街で50年以上愛される本格焼肉チェーンを運営している大同門株式会社。焼肉定食の販売やテレビCMの制作など、他社がまだ行っていない「日本初」の取り組みを業界でいち早く手がけ、注目を集めてきた。
そんな同社を率いるのが、フォーリー淳子氏だ。全く別の業界で自身の会社を経営していた同氏が、なぜ焼肉チェーンの社長に就任する決意をしたのか。就任の経緯や事業の強み、経営観などを詳しく聞いた。
「父が創業した会社を失いたくない」と会社の買い戻しに乗り出す
ーー貴社の社長に就任するまでの道のりを聞かせてください。
フォーリー淳子:
大阪府知事付通訳を務めた後、オンラインデータベースの会社を設立し、その後に人工知能技術をベースとしたWebマーケティングサービス会社であるシルバーエッグ・テクノロジーを夫とともに設立しました。
大同門は父が創業した会社ですが、私は自分で会社を経営していましたし、当初は弊社を継ぐ気はありませんでした。
ただ、大同門が民事再生の手続きをすることになり、ファンドの手に渡ったときに初めて「父が大きくした会社を失いたくない」と思ったのです。そこで、会社を買い戻すことを決意し、買い戻した2年後に社長に就任しました。この決意をしたのは、頑固で厳格な父が涙を流している姿を見て、長女として大同門を守りたいと思ったことが大きな理由です。
当時、経営難で社内は疲弊しており、社員のモチベーションも下がっている状態。まずはこの状況を改善する必要があると思い、社員1人1人と対話を重ね「もう1度お客様に信頼される会社にしていこう」と根気強く伝えるところから始めました。
昔ながらの焼肉、種類豊富なタレ、本格的な副菜で多くのファンを獲得

ーー事業の特徴や強みを教えてください。
フォーリー淳子:
弊社は今年で57年目を迎える焼肉チェーンで、大阪府民を中心に親しまれています。上質なお肉をリーズナブルな価格で提供できること、お肉に合わせた自家製のタレを10種類以上揃えていることが特徴です。
また、大同門では焼肉を1つの料理としてとらえており、風味を引き立たせ、香ばしさを生み出すことができる「もみダレ」で味付けをしています。多くの焼肉店は、焼いたお肉にタレをつける「つけダレ」が一般的ですが、当店では、タレを職人が肉に揉みこむ(ムンチする)ことで、お客様にお肉を美味しく召し上がってもらうことを意識して提供しています。
また、副菜に関しては、韓国の王朝・李朝時代の料理を手がける料理人から指導を受けてきたなど、非常に本格的な点が強みです。
ーー今後はどのようなことに注力する予定ですか。
フォーリー淳子:
昔は店舗数が60店舗近くありましたが、現在は6店舗にまで減ってしまったので、再び店舗数を増やすことに力を入れていきます。現在、駅近を中心に新店舗の物件を探しており、早い段階で10店舗以上を運営している状態にするのが目標です。
店舗を増やすだけでなく、社員たちが働きやすい環境をつくり、彼らの成長を促すことも大切だと考えています。いろいろな人から刺激を受けることが成長には必要なので、今後は店舗同士で交流会を開くなど、社員たちに「刺激を受けることができる場」をどんどん提供していくつもりです。そのためには、AIを活用して、少人数でも生産性があがるようにしていきたいですね。
また、多店舗化や会社の成長には経営を担える人材が必要となるので、人材への投資にも注力していきます。これから会社を担う方には、私と同じことをするのではなく、会社を変え、未来へ向けて新たな価値をつくりだす意識を持ってくれることを期待しています。
ただ、外部から来た人が経営層に入り、現場からすぐに信頼を得るのは難しいものです。そのため、人材採用と同時に、既存の人材を育てる形で経営陣の強化も進めるつもりです。
そのほか、弊社の今までのノウハウを活かして、焼肉業界に「大同門だからこそ」と言える店舗を10年後までにつくろうと現在思案中です。
変化できる会社であるために、社員たちには「刺激を受けられる場」を提供したい
ーー最後に、社長が会社経営で大切にしていることを教えてください。
フォーリー淳子:
ある経営者の方から教えてもらった「山より大きな猪は出ない」という言葉を大切にしています。たとえば暗い夜に山の中を歩いていれば、猪が出てくるかもと恐怖心が芽生えるでしょう。ただ、自分が歩いている山より大きな猪は存在しませんし、今ある恐怖心は自分の頭の中で「怖い」と思っているから増幅されているだけなのです。
仕事をしているといろいろな問題が発生しますが、頭の中で「大変だ」と考えすぎてしまえば、自分の考えに飲み込まれてしまいます。そのため、あまり考え込みすぎず、1つずつできることから対処することを実践しています。
また、私が新しいことに果敢にチャレンジできるのは、弊社を「100年続く企業にしたい」という目標があるからです。会社経営を成功させるためには、目標達成に対する強い思いが必要なので、「思いがあれば通じる」という気持ちを大切にしています。
そのほか、「疾風に勁草を知る(しっぷうにけいそうをしる)」という言葉も大事にしています。困難な状況のときにこそ、人の進化や本質が明らかになるという言葉です。疾風にも負けない丈夫な勁草のように、困難に立ち向かう強い意志と柔軟な対応を心がけたいと思っています。
編集後記
大同門の店舗数は一時期より減ったものの、大阪を中心に多くのファンがおり、地域で愛される焼肉チェーンとして確固たる地位を築いている。
変化を恐れず挑戦を続けるフォーリー社長であれば、1段目の目標である10店舗出店を達成する日も近いだろう。同社の焼肉の魅力がさらに多くの人に届き、食の街大阪を代表する飲食店としてより一層活躍してくれるのが楽しみだ。

フォーリー淳子/京都市生まれ。神戸女学院大学卒業後、大阪府知事付通訳を務めた後、日英会議同時通訳者として活動。1994年に株式会社メイド・ジャパンを設立。1998年、シルバーエッグ・テクノロジーをトーマス・フォーリー氏と設立。2010年、大同門株式会社代表取締役社長に就任。関西経済同友会常任幹事、大阪産業局理事、2025年国際博覧会協会理事などを務める。