
インバウンド需要が高まっている日本。官公庁の観光立国推進基本計画によると、2019年に訪日外国人旅行者数は3188万人だったのに対し、2030年には6000万人にまで増え、消費額は15兆円になると予想されている。
こうした中、観光地に住み込みで働く派遣事業を行っているのが、株式会社ダイブだ。ユーザーとのコミュニケーションツールとして活用するLINE公式アカウントの登録者数は17万人(2025年4月時点)を突破し、業界のトップランナーの地位を確立している(2024年11月時点)。
工場の派遣スタッフから人材派遣会社の経営者となった経緯や、同社のミッション「一生モノの「あの日」を創り出す。」に込めた思いなど、代表取締役社長の庄子潔氏にうかがった。
働きことに希望を持たせてくれた恩人との出会い
ーーまずは庄子社長の経歴について教えてください。
庄子潔:
高校卒業後は、音楽を学ぶために米国の短大へ留学しました。ただ、結局学校を卒業しないまま、20歳のときに帰国し、就職活動を始めます。最終学歴が高卒のため、採用試験でことごとく落とされてしまいました。
将来に焦りを感じていた中、求人誌でパイプを製造する工場の求人広告を見つけ、派遣社員として働き始めたのです。
ーー人材派遣の仕事に興味を持ったきっかけは何だったのですか。
庄子潔:
派遣元の営業担当者の方との出会いが、大きな転機になりました。その方は2週間に1回、勤務先の見回りに来てくれて、「フォークリフトの免許取ったんだって?すごいね」など、毎回励ましの言葉をかけてくれたのです。
それまでの就職活動の経験から、社会から必要とされていないと感じていた私は、自分の努力を評価してもらえたことで、初めて社会から認められたという感覚になりました。そして、「自分も誰かの人生を変えるきっかけを与える人になりたい」と思い、憧れの人と同じ人材派遣業界で働こうと決意しました。
ーーそこから人材派遣会社の経営者になるまでの経緯を教えていただけますか。
庄子潔:
派遣元の担当者の方に「御社で働かせてください」と申し出たのですが、人を雇う余裕は無いと断られてしまいます。そのため手当たり次第に人材会社に応募し続け、面接で「この仕事にかける思いだけは誰にも負けません」とアピールしたところ、熱意が買われ採用されました。
入社して間もなく、私を採用してくれた上司から、新しく立ち上げる会社に来ないかと誘われました。それが株式会社アプリ(現:ダイブ)です。私は迷わずついていきましたが、スーツを着たこともなく、敬語も上手く話せなかったため、完全に役立たずだったと思います。
それでも「自分のように希望を持てない人を救いたい」と、めげずに食らいつき、少しずつ仕事のコツをつかみ、数年後には一社員として会社に貢献できるようになりました。
その後、創業者が退任するタイミングで、後継者として指名されたのです。まさか自分が経営者になるなど想像もしていなかったので、とにかく驚きましたね。ただこの会社が好きで、少しでも力になりたいと頑張ってきた成果が認められたのだと、嬉しかったことを覚えています。
私を信頼して次の経営者に指名してくれた思いに応えるため、社長就任を引き受けました。その後、旅行代理業や留学支援、海外事業事業を拡大していき、勇気を持って新しい世界へと飛び込んでいくという決意を込め、社名をダイブに変更しました。
しかし、コロナ禍を機に事業選択をし、今のリゾートバイト特化型の経営スタイルに落ち着いています。
リゾートバイトに特化する理由と、業界をリードする企業となれた秘訣

ーー改めて貴社の事業内容について教えてください。
庄子潔:
弊社はリゾートバイトに特化した人材派遣会社です。北海道から沖縄まで約4,600の施設と取引があり、温泉旅館やスキー場、遊園地などのリゾート施設を中心に、住み込みで働くスタッフを派遣しています。現在は年間で約1万人の方が弊社のサービスを利用してくださっています。
派遣業務の中でもリゾートバイトに特化している理由は、2つあります。1つは、知らない土地で長期間働くリゾートバイトは、人の変化や成長につながるということです。
人が変わるためには、付き合う人・環境・時間を変える必要があると言われています。リゾートバイトは住み込みなので住む場所が変わりますし、新しい人との出会いもある。そして就業時間に合わせて生活するため、時間の使い方も変わります。
最初は慣れない土地で生活しながら働くことに、違和感やストレスを感じるでしょう。しかし、そこを乗り越えると、これまで気付かなかった新しい自分の側面が見えてくるのです。リゾートバイト運営事業を通じ、みなさんが一歩を踏み出すお手伝いができればと思っています。
もう1つの理由が、ビジネスとして伸びしろがあるということです。インバウンド需要が高まっている観光業はさらなる成長が見込まれます。観光業に特化したリゾートバイト事業は、大きなビジネスチャンスだと期待しています。
ーー業界のトップランナーであり続ける秘訣はどこにあるのでしょうか。
庄子潔:
リゾートバイトのビジネスモデルの複雑さにあります。通常の人材派遣の場合、同じ職場に長期間にわたって人材を派遣するのが一般的です。一方でリゾートバイトの場合は、冬は北海道、夏は沖縄と、季節ごとに派遣先が変わります。
つまり派遣会社からすると人材管理に非常に手間がかかるため、これまで多くの大手人材派遣会社が撤退していったのです。弊社では事務手続きを効率化するため、独自のシステムを構築し、オペレーションを仕組み化することで、作業効率の向上に努めています。
また、マーケティング知識が豊富な人材を揃え、自社のPRに注力してきた結果、多くの方に弊社を認知していただけるようになりました。
地方の観光客誘致と営業力の強化でさらなる成長を目指す
ーー新規事業についてお聞かせください。
庄子潔:
社内で実施した新規事業コンテストをきっかけに生まれたのが、地方創生事業です。既存の公共施設を利活用し、グランピング施設として自社で運営を行っています。
この事業の特徴は、あまり知られていない非観光地に特化している点です。日本には知名度は低くても、魅力的な観光資源がたくさんあります。現在は全国6ヶ所の施設を運営していますが、これからさらに増やしていく予定です。
地元自治体と連携しながら、弊社の事業を通して非観光の関係人口(※)を増やしていきたいですね。
(※)関係人口:居住地は別にあるものの、特定の地域や地域住民たちに魅力を感じ、多様な関わりを持つ人
ーー営業の強化についてはどのような取り組みをしていますか。
庄子潔:
お客様が抱える課題解決に向けてサポートできるよう、営業の質の向上を目指しています。たとえば、ただどのくらい人手が必要か聞くだけでなく、人手が不足している原因を突き止め、解決策を提案するなど、根本的な課題解決のサポートができるようになると良いですね。
最終的には、マーケティングや集客も含め、宿泊施設全体のオペレーションを担えるような人材になってほしいと思っています。
観光のインフラ企業として業界のさらなる成長に貢献したい
ーー採用方針について教えてください。
庄子潔:
現在、新卒採用と合わせて中途採用も行っています。職種については営業職のほか、サービスの効率化や仕組み化に重要な社内システムの改善に力を貸していただけるエンジニアも募集しています。
弊社が採用時に重視しているのは、弊社のビジョンやミッションに共感してくれる方かどうかです。私たちは「一生モノの『あの日』を創り出す。」をミッションに掲げています。私たちの「リゾートバイトを通じて、かけがえのない経験や時間、思い出を届けたい」という思いに賛同していただける方に来ていただきたいですね。
ーー最後に今後のビジョンと、読者の方へメッセージをお願いします。
庄子潔:
観光業界は今後も成長が期待されるものの、いまだ数多くの課題が残っています。そこで私たちは、人手不足の解消や生産性の向上、集客支援などをサポートしたいと考えています。観光に携わる方が「困ったときはダイブに相談しよう」と真っ先に思い浮かべてもらえる会社を目指し、成長を続けていきたいです。
弊社は若い会社だからこそ、果敢にチャレンジできる環境です。好奇心や探求心が強く、私たちと一緒に観光業のイノベーションを起こしていきたい方とお会いできることを楽しみにしています。
編集後記
不採用続きで意気消沈していたときに、担当者からの労いの言葉に救われ、自分の新たな道を見つけた庄子社長。今いる環境から離れ、さまざまな人と出会えるリゾートバイトの仕事は、まさに新たな一歩を踏み出す気付きを与えてくれる場となることだろう。株式会社ダイブは事業を通して日本の観光産業を支えながら、人々が成長する機会を提供していく。

庄子潔/1997年仙台市立仙台高等学校卒業。高校卒業後、2年間米国に留学。帰国後、人材ビジネスに興味を持ち、人材会社へ就職。そこでの出会いをきっかけに、2002年に観光地に特化した人材会社、株式会社ダイブの設立に参画。創業初期より第一線で事業拡大に貢献。2012年代表取締役に就任。2024年東京証券取引所グロース市場へ新規上場。