※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

「すべての人を、ベストコンディションに。」というミッションを掲げるAuB株式会社。同社はアスリートの腸内細菌研究に基づいたサプリメント開発と、その知見を活用した健康管理プログラムを事業の柱としている。浦和レッズで活躍し、日本代表としても名を馳せたプロサッカー選手から実業家へと転身した、同社代表取締役の鈴木啓太氏に話を聞いた。

「誰かを喜ばせたい」という思いを胸にスタジアムから健康市場へ

ーーサッカー選手を目指したきっかけを教えてください。

鈴木啓太:
私がサッカーを始めたのは、幼稚園のころです。もともとインドアで引っ込み思案だったのですが、アルゼンチンのマラドーナのようなサッカー選手に憧れ、サッカースクールに通うようになりました。当時から「ワールドカップで優勝したい」という夢を持ち、一途にサッカーに打ち込んだ結果、プロサッカー選手としての道を歩むことになったのです。

プロとして浦和レッズでプレーする中で、ファンやサポーターを喜ばせて認めてもらうことがプロの本質だと学びました。この「誰かを喜ばせたい」という思いが起業の根底にあります。

ーーそこから、どのような経緯で起業されたのでしょうか?

鈴木啓太:
私は起業する前年の2014年に不整脈を患いました。すぐに引退は考えなかったものの、以前よりも健康に関心を持つようになりました。そして、あるトレーナーとの会話から腸内細菌の可能性に興味を持ち、さまざまな人から話を聞く中で、「アスリートの腸内細菌データを研究する会社をつくろう」という話に発展したのです。

加えて、サポーターの方から「体力が落ちてきてスタジアムに行くのが大変」という声を聞く機会があり、腸内細菌のデータは一般の方々の健康維持にも役立つのではないかとも考えましたね。そこで、2015年の引退を機に弊社を設立し、事業として取り組むことにしました。

菌のバランスに着目した独自のサプリメント開発

ーー貴社の事業内容について教えてください。

鈴木啓太:
私たちは、アスリートの腸内細菌研究に基づいたサプリメントの開発や販売を主力事業としています。創業後の数年間は、アスリートの腸内細菌データの収集・分析に注力し、その研究成果を活かしてサプリメントを開発しました。

サプリメントは自社ECサイトやオンラインモールでの販売はもちろん、クリニックや歯科医院などの医療機関でも取り扱っていただいています。また、単に商品を販売するだけでなく、便通に悩む方向けの便秘改善プログラムなども提供しています。

ーー他社との違いはどのような点にありますか?

鈴木啓太:
最大の違いは、アスリートの腸内細菌データを基にサプリメントの配合を設計している点です。その中で、私たちが特に注目しているのは「菌のバランス」です。市場では単一の菌の効果を強調する商品が多いですが、私たちが分析してきたデータからは、腸内環境全体のバランスが重要であることが示されています。

また、世界中の腸内細菌に関する研究で理想とされている環境と、アスリートの腸内環境には多くの共通点があることがわかりました。アスリートのデータという基盤があるからこそ、効果的な健康サポートを実現できていると考えています。

ーー貴社のミッションについてお聞かせください。

鈴木啓太:
私たちのミッションは「すべての人を、ベストコンディションに。」です。このミッションは、私のアスリートとしての経験から導き出されました。実は、アスリートでさえも年間を通じてベストコンディションでいられる日は数えるほどしかありません。

しかし、その状態でいられる期間を少しでも増やせれば、社会全体がもっと活力に満ちると思うのです。多くの人がコンディションを整えられる社会を実現することで、より豊かな人間関係が築ける世界を目指しています。

日々の体調変化を把握する技術開発への挑戦

ーー今後の展望について教えてください。

鈴木啓太:
今後の大きな目標は「腸内環境の可視化」です。多くの人にとって健康診断は年に1〜2回程度ですが、日々の体調変化をリアルタイムに把握できる仕組みを構築したいと考えています。たとえば、毎日のトイレでの計測によって自分の健康状態を把握できるようになれば、日常的な健康管理の質が格段に向上するでしょう。

また、同じ志を持つ人材の採用も強化する予定です。私たちは「0から1を生み出す」ベンチャー企業として、新たな価値の創造に挑戦しています。現在は10名の組織ですが、今後1年間で5名ほど増員し、人々が健康に意識を向け、適切にセルフマネジメントできる社会を実現していきたいと考えています。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

鈴木啓太:
「心技体」という言葉がありますが、私は「体技心」という考え方を大切にしています。まず体を整えることで技術が磨かれ、技術が向上することで心が安定すると思うのです。読者の皆さんには、ぜひ体を大切にするところから始めていただきたいと思います。しっかり休息を取り、体調を整えることが、自分自身の成長や所属する組織の成長、ひいては日本の発展にもつながると確信しています。

編集後記

プロサッカー選手から健康経営者へ。一見異なる2つの世界だが、「人々を元気にする」という本質は変わらない。アスリートの腸内細菌データを一般の人々の健康に変換するビジネスモデルには、「人を思う心」が色濃く反映されている。

鈴木啓太/1981年、静岡県清水市生まれ。東海大翔洋高校卒業。高校卒業後の2000年に浦和レッズに加入。2009年より3年間キャプテンを務め、2006年に日本代表に選出されると、オシムジャパンとして唯一全試合先発出場を果たす。その後、2015年の引退まで浦和レッズ一筋。現役引退後は実業家に転身し、AuB株式会社を設立。