※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

銀座・浅草という、東京を代表する2つのエリアに百貨店を構える、株式会社松屋。日本の伝統文化と最先端のファッションを発信する「松屋銀座」、下町の銘菓を多くそろえたモダンな外観の「松屋浅草」は、今や国内外からたくさんの人が訪れる名所となっている。

代表取締役社長執行役員の古屋毅彦氏は、2023年から同社のトップとして会社を牽引している人物だ。今回は古屋氏に社長就任後の取り組み、そして今後力を入れたい「地域共創」のプロジェクトなどについて話を聞いた。

前例にとらわれず果敢に挑戦し、「銀座の街で個性を出す」ことを意識してきた

ーー社長のこれまでの経歴を教えてください。

古屋毅彦:
大学卒業後に、三菱UFJ銀行で5年ほど働いた後、父が経営していた弊社へ転職しました。最初に三菱UFJ銀行を選んだのは、お金と情報が集まる場所で多くの経営者と会うことができ、将来に向けて非常に勉強になると思ったからです。

弊社に入社してからニューヨークへ渡り、コロンビア大学院で国際関係学修士号を取得しました。アメリカに住んでいた6年間は、自分自身の考え方を変えるような期間だったと感じています。

当時の日本は「出る杭は打たれる」という風潮が強くありましたが、ニューヨークの人々は挑戦することに対して前向きでした。そして、この考えが自分に合っていると思ったのです。

ーー社長就任後は、どのような取り組みを行いましたか?

古屋毅彦:
競合となる百貨店は数多くありますが、前例にとらわれず挑戦し、先駆者であることを心がけてきました。セールなどさまざまなイベントも多く開催しましたし、ファッション性の強いシューズブランドを集めたフロアをつくるなど、ほかの百貨店が行わないような取り組みに挑戦してきました。

その中でも特に意識したのが、「銀座という町でいかに個性を出せるか」ということ、そして、いろいろな商品や提案を通じて、お客様を明るい気持ちにすることです。

さまざまな取り組みの中でも特に成功した事例が、ロイヤルカスタマーを対象とした特別販売会「松美会」の改革です。このイベントを通して、商品を買ってもらうだけではなく、松屋で買い物をすること自体をお客様に楽しんでもらう機会を提供することができました。

売場に立つ全員が「クルー」として、お客様に矢印を向けることがテーマ

ーー他社との違いや強みなどを教えてください。

古屋毅彦:
弊社は百貨店を運営している会社ですが、ほかの百貨店との大きな違いは、銀座と浅草にしか店舗がないので、地域とのつながりが強いという点です。入社から定年まで働く社員も多く、お客様の中には弊社の社員と数十年来の顔なじみになっていただいている方もいるので、非常にアットホームです。

部長や課長などの役職に関係なく、全員が松屋の「クルー」として現場に立つことが、弊社ならではの特徴です。お客様に矢印を向けることをテーマに掲げ、全員が同じ方向を向くことで120%の力を出すことができています。

また、百貨店という業種柄、高いホスピタリティが求められますが、その求められるレベルに社員たちが応えてくれていることも弊社の強みです。

「地域共創」の取り組みを通して日本各地の魅力を銀座から発信する

ーー今後の注力テーマを聞かせてください。

古屋毅彦:
日本人のお客様を変わらず大切にすることに加えて、今増えている海外のお客様に日本のものづくりの素晴らしさを伝え、ファンを獲得していくことにも力を入れていきます。そして、松屋自体を世界で認知されるブランドにするつもりです。

また、日本各地の魅力を引き出す「地域共創」のプロジェクトを進めることにも力を入れています。たとえば、現在弊社では、県内の市町村と組んで、お土産の地域ブランドを立ち上げる手伝いをしています。

国内外から人が集まる銀座と浅草にある松屋だからこそ、たくさんの人に地域の魅力を伝えることができると思っています。弊社が地域のハブとなって魅力を発信し、それを見たお客様が実際にその地域に訪れてくれるというサイクルを回せるよう尽力していきたいです。

地域の企業や人とつながることで松屋はもっと強くなれますし、弊社の活動を見て、その地域や松屋を応援してくれる人が増えてくれると嬉しいですね。

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

古屋毅彦:
弊社では、社員たちの働きやすさにつなげたいという思いから、営業時間の短縮に乗り出しました。実際に営業時間を短縮することで、人員に余裕を持って店舗を回すことができるようになりましたし、結果としてお客様にもより良い接客を提供できるようになりました。こういった働きやすい環境で百貨店業に携わりたい方は、ぜひ弊社に来てくれると嬉しいです。

また、インバウンド需要が高まっている今、弊社の手がけている百貨店事業は今後さらなる成長が期待できるビジネスだといえます。弊社では海外のお客様を通じて、世界に通用する小売業の仕事を学ぶことが可能です。こういった仕事に興味がある方と、一緒に働けると嬉しいです。

編集後記

国内外から人が集まる銀座と浅草は、まさに「地方と東京」「日本と世界」をつなぐ街だ。地域の魅力を世界に発信する松屋の「地域共創」は、銀座と浅草という2エリアに百貨店を構える同社ならではの価値ある取り組みだと感じた。インバウンド需要が高まっている今、同社の取り組みは地方を活性化させ、結果として日本全体を盛り上げることに貢献してくれるだろう。

古屋毅彦/1973年東京生まれ。1996年に学習院大学法学部政治学科を卒業後、同年に東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2001年に株式会社松屋へ入社し、2008年に米国コロンビア大学院(SIPA)国際関係学修士号を取得。2011年に取締役執行役員に昇格。本店長や取締役常務執行役員、取締役専務執行役員など経て2023年から現職。