
1897年創業の株式会社キャピタル東洋亭は、「本格的な西洋料理を気軽に食べられる店を」という理念のもと、128年にわたり関西の洋食文化を牽引してきた。「百年洋食ハンバーグステーキ」をはじめとしたメニューで多くのファンを魅了し、現在は関西圏に12店舗を展開している。伝統の味を守りながら新たな挑戦を続ける同社の代表取締役社長、高橋克彰氏に話をうかがった。
海外で修業を積み、歴史ある家業の社長に就任
ーー社長のご経歴を教えてください。
高橋克彰:
私には9歳上の兄がいるので、特に家業を継ぐという意識はありませんでした。しかし、料理には興味があったため、大学卒業後は料理の道に進むことにしました。東京の代官山にあるレストラン「小川軒」で修業したのち、26歳でフランスへ渡航、5年間にわたって「FAUCHON(フォション)」や「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」などの名店で職人として経験を積みました。
帰国後は独立を考えていましたが、フランスへ修業に行かせてもらった恩返しとして、1年間は実家の会社で働こうと決めたのです。しかし、会社の経営に関わる中で、最終的に家業に残る道を選び、専務としてしばらく経験を積んだ後、54歳のときに社長に就任しました。
ーーこれまでの貴社の歩みについてお聞かせください。
高橋克彰:
弊社は、私の曽祖父である高橋銀次郎が「本格的な西洋料理を気軽に食べられる店を」との思いで創業しました。少しずつ店舗を増やし、「百年洋食ハンバーグステーキ」や「丸ごとトマトサラダ」といった看板メニューを展開しながら、発展し続けてきました。これまで、本店の火事や狂牛病、新型コロナウイルスの流行など、売上が落ち込む厳しい局面もありましたが、多くの方々に支えられ、おかげさまで2025年に創業128年を迎えます。創業以来培ってきた料理へのこだわりと、世代を超えてご愛顧いただいている顧客基盤が弊社の強みです。
社員の成長を支える環境づくりが経営改革の起点に

ーー経営において特に印象に残っている出来事を教えてください。
高橋克彰:
27年ほど前に、現在もお世話になっている外部の先生と出会ったことが、大きな転機となりました。その先生から「経営計画書をつくりなさい」とアドバイスをいただき、最初のページに掲げたのが「会社は社員が成長し、夢を叶える場」という理念でした。当時、飲食業は長時間労働が当たり前で、新入社員が10人入っても1年後に残るのは1人いるかどうか、という状況でした。そのように就業規則や給与規定すらない状態では、社員が成長し、夢を持つことはできないと実感したのです。
また、それまで損益計算書など、経営に必要な数字をきちんと理解できていませんでした。しかし、経営計画書の作成を機に数字を意識するようになり、雇用環境も含めて会社としての基盤を築くことに力を注ぐようになりました。
ーー人材の成長をどのようにサポートしていますか?
高橋克彰:
特に新入社員研修に力を入れ、トップダウンではなく、会社のことを一緒に考えてくれる社員の育成を目指しています。また、外部の先生にお願いして、年に10回ほど幹部研修なども実施しています。各店舗で起こる問題や悩みを共有して、参加者同士がディスカッションしながら解決策を導き出してもらうのです。上から指示を出すのではなく、社員同士で対話を重ねて答えを出すことが、納得感のある学びにつながっていると感じますね。
また、日々の業務に加えて、社員がやりがいを持てる取り組みも多数行っています。たとえば、料理やサービスのコンテスト、新しいお菓子やドリンクの開発などですね。また、幹部だけでなく、現場の社員がミーティングの講師を務める機会も設けています。さらに、海外研修も実施しており、毎年5〜6人程度、ヨーロッパやハワイ、香港へ研修に行ってもらうなど、成長の場を幅広く提供しています。
創業者の思いを受け継ぎながら、さらなる成長を目指す

ーー今後の展望をお聞かせください。
高橋克彰:
今後は売上100億円を目指しており、その実現に向けて、生産性の向上が重要だと考えています。人手不足の課題に対応するためには、セントラルキッチンの拡張や機械の導入を進め、業務の効率化を図ることが急務と言えるでしょう。
一方で、サービスのIT化については慎重に判断する必要があります。たとえば、タッチパネルの導入は確かに便利ですが、スタッフとの会話を大切にする弊社の強みを損なわないようにしなければなりません。また、単に店舗を増やすのではなく、レストランを基軸としながら惣菜店の展開など、新たな可能性も模索していきます。創業時の精神を大切にしながら、京阪神地区を中心に活躍の場を広げ、持続的な成長を目指していきたいですね。
編集後記
料理人から経営者へ。その転換点で高橋社長が掲げた「社員が成長し、夢を叶える場」という理念に、深い共感を覚えた。数々の危機を乗り越えてきた老舗だからこそ、人を大切にする文化が根付いているのだろう。インタビューを通じて、伝統とは革新の連続であることを教えられた。

高橋克彰/1956年12月5日生まれ。1979年に日本大学文理学部卒業後に東京小川軒に入社。1980年、株式会社キャピタル東亭本店入社。1982年に渡仏し、3つ星レストラン「エスペランス」と2つ星レストラン「ジェラールパンゴ」でデザート菓子を、ホテルメルディアンパリではMOF(最優秀菓子職人)ギ・モネー氏に師事し、マドレーヌ広場のフォーションでアントルメを、メゾンド・ショコラでチョコレートを学ぶ。1987年、帰国し、専務取締役に就任。2010年、第5代・代表取締役社長に就任。