※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

観光立国を目指す日本において、訪日外国人客の受け入れ体制整備は急務である。その中で、外国人観光客にターゲットを絞り、独自の戦略で成長を続けるのが、株式会社からくさホテルズだ。同社は株式会社ザイマックスグループの一員として「からくさホテル」ブランドを展開している。多様な国籍のスタッフが活躍し、従来のホテル業界の常識にとらわれない柔軟な発想で注目を集めている。リクルート出身であり、ザイマックスグループの成長とともに歩んできた代表取締役社長の佐藤亮祐氏に、仕事観と組織づくりについて話を聞いた。

予期せぬ配属から始まるキャリアの出会い

ーー社会人としてのキャリアはどのようにスタートされたのでしょうか。

佐藤亮祐:
1993年に株式会社リクルートに入社したのが、私のキャリアの始まりです。当初は違う部署を希望していたのですが、配属されたのはビル事業部で、これが私と不動産業との出会いになります。

当時は、グループの負債を返済するため、保有する不動産を売却する業務に従事していました。しかし、資産売却を進めれば進めるほど自分たちの管理する物件が減り、リクルートグループでの仕事を失うという矛盾を抱えながらの日々でした。

その後、リクルートのビル事業部は2000年にMBO(※)で独立し、社名を株式会社ザイマックスとしました。そして、現在のザイマックスグループの礎となるプロパティマネジメント事業を開始したのです。入社当時は想像もしなかった不動産の世界ですが、変化の激しい環境に身を置くことで、次第にこの仕事の面白さを知ることになりました。

(※)MBO(マネジメント・バイ・アウト):企業の経営陣が自らその会社の株式や事業を買い取り、経営権を取得して独立するM&A手法。

ーー仕事に向き合う上で大切にされている考えをお聞かせください。

佐藤亮祐:
「人生は思ったようにはならない。でも、それがいい」ということです。私にとってリクルートでのビル事業部への配属も、その後の事業展開も、当初自分が思い描いていたものとは全く違いました。しかし、思ったようにはならないからこそ、想像以上の未来に遭遇できる面白さがあります。

独立したての頃は、平均年齢が30代前半の若き仲間たちと突き進みました。自分たちなら何でもできるという根拠のない自信と高揚感を持っていたのです。困難な状況でも新しいことに挑戦する楽しさが勝っていたのです。予測できない未来を悲観するのではなく、その変化を楽しむ姿勢が今の私の原動力になっています。

外国人ゲストのニーズを徹底的に追求する事業戦略

ーー貴社事業の特徴と、他社との差別化ポイントについて教えてください。

佐藤亮祐:
弊社が経営・運営する「からくさホテル」は、外国人観光客のニーズを満たすことに注力するため、ターゲットを明確に設定しました。その戦略に基づき、訪日外国人が快適に過ごせる環境を整えています。

まず、ホテルスタッフの約4割を外国籍の人材が占めており、多言語対応が可能です。また、外国人ゲストにとっての利便性と快適性を追求しました。たとえば、複数人で客室を使用しても快適なように、シャワーブース、洗面所、トイレをそれぞれ独立させるなど、機能性を重視したレイアウト設計となっています。さらに、ファミリーやグループに最適なコネクティングルームが全体の約半数を占めており、多様な滞在スタイルに対応しています。

私たちは、伝統的な日本の「おもてなし」の形にとらわれず、ゲスト一人ひとりのニーズに応えることを大切にしています。ゲストが旅先で困っていることに的確に答え、親しみやすく、役に立つ対応を重視します。私たちが目指すのは、ゲストとお互いに尊重し合える関係です。形式的な丁寧さよりも、約束を守り、ゲストの困りごとに親身に対応することを徹底しています。

その結果、宿泊予約サイトでは、各国の言語で「スタッフがフレンドリーで助かった」「安心して泊まれた」といった口コミが多く寄せられています。特定の国籍や文化に偏らず、多様な背景を持つゲストが自然と交流し、情報交換を楽しめるような風通しの良い空間づくりを目指しています。

多様なスタッフが輝く「働く人を大切にする」組織

ーー人事制度や働く環境づくりにおいて、特に注力されている点はありますか。

佐藤亮祐:
ホテル業界は給与水準が低いと言われがちですが、ザイマックスグループでは「働く人が元気であり続ける経営の実践」という経営理念を掲げており、弊社でも業界平均を上回る待遇を実現しています。

特徴的なのは、毎月の給与に退職金を上乗せして支払う「前払い退職金制度」です。外国人スタッフがいつか母国へ帰る際にも、手元に資金を残せるようにという配慮からこの制度をスタートしました。また、外国語資格取得と業務実用できる語学力に対して支給される「ランゲージインセンティブ」もあり、母国語以外で最大3言語まで評価対象となります。

残業時間も月平均6時間程度と少なく、制服や髪型の自由度も高め、スタッフがプライベートも大切にしながら、自分らしく働ける環境を整えています。

ホテルを起点とした社会課題解決への挑戦

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。

佐藤亮祐:
これからも「ユニークなホテル会社」であり続けたいと考えています。規模の大きさやラグジュアリーさを競うのではなく、世界中の旅行者に選ばれ、かつ働く人が幸せである会社を目指します。

また、助け合いの精神で、自社の利益追求だけでなく、ホテルの枠を超えて社会の役に立つ存在でありたいです。競争すべき部分と協調すべき部分を見極め、時には他社とも手を取り合いながら業界全体の課題解決にも貢献する。そんな柔軟で開かれた事業展開を描いています。

ーー最後に、今後どのような方と一緒に働いていきたいですか。

佐藤亮祐:
今ある仕事をこなすだけでなく、ホテルの枠にとらわれず未来に必要な価値を創り出せる方に来ていただきたいです。弊社にとってホテル事業はあくまで起点に過ぎません。たとえば、業界共通の課題である夜勤の人手不足。これを個々のホテルで抱え込むのではなく、AIやアバター技術を活用して近隣ホテル同士で夜勤業務をシェアする仕組みが作れないかといったアイデアも持っています。また、災害時に備えて備蓄品や発電機を地域で融通し合うなど、競争の枠を超えて、安全・安心を守る仕組みづくりもその一つです。

私自身がそうであったように、キャリアの答え合わせは後からで構いません。まずは一緒に挑戦しましょう。

編集後記

「人生は思ったようにはならない。でも、それがいい」。佐藤氏の言葉には、予期せぬ変化を楽しみ、それを力に変えてきた経営者ならではの強さと明るさがあった。明確なインバウンド戦略と、国籍を問わず従業員一人ひとりを尊重する温かい組織風土。「からくさホテルズ」のユニークな取り組みは、単なる宿泊施設の運営にとどまらず、多文化共生や働き方改革、さらには地域防災のあり方にまで一石を投じている。既存の枠組みを超えて挑戦を続ける同社の未来に、今後も注目していきたい。

佐藤亮祐/1993年、株式会社リクルートに入社。2000年1月に株式会社リクルートからMBOで分社独立したタイミングで株式会社ザイマックス※に入社。2015年4月に同社執行役員に就任。同年10月、株式会社からくさホテルズの取締役、2018年4月に同社代表取締役社長に就任。2020年4月、株式会社ザイマックス※常務執行役員に就任。2024年4月、株式会社ザイマックスグループ 常務執行役員 海外事業本部長、株式会社ザイマックスグローバルパートナー 取締役に就任。現在は、株式会社からくさホテルズ 代表取締役社長を務めるとともに、これらの職を兼任。

※現・株式会社ザイマックスグループ