※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

植物とインテリアを組み合わせた空間づくりを提案する株式会社ガレージ。同社は、2007年の創業以来、植物の可能性を追求し続け、独自のワークショップやイベントで顧客との絆を深めてきた。また、売上や効率よりも、空間と接客の質を大切にする姿勢で、社員数は140名規模にまで成長している。植物がある暮らしの豊かさを伝え続ける、代表取締役社長の二村昌彦氏に話を聞いた。

幼少期からの夢を叶えた起業までの道のり

ーーこれまでのご経歴を教えてください。

二村昌彦:
もともと私の家系は種苗業を営んでいました。私は次男でしたので、家業は兄が継いだのですが、幼少期から、自分も何か起業したいという漠然とした夢を抱いていました。大学で就職を考えたときに、起業を視野に興味がある分野に絞ったところ、物販ビジネスについて経験できる場として、株式会社カインズに行き着いたのです。

カインズの同期は300名ほどいましたが、先輩をライバルとして、そこに追いつこうとただがむしゃらに働きました。その結果、同期の中では早く責任あるポストに就任でき、そこで活躍できたことは嬉しかったですね。やがて新店舗の立ち上げに携わる機会が増えていき、店長を2年、バイヤーを1年半ほど経験しました。一つの商談の規模が大きかったため、やりがいは大きかったです。また、バイヤー時代にたびたび海外出張に行けたことも貴重な経験でした。

ーー起業に向けて、どのような経験を積みましたか?

二村昌彦:
カインズを辞めた後はオランダに渡り、日本の種苗業会社が運営する農場で働きました。ヨーロッパの園芸文化を体感し、旅などをして過ごしましたね。そうして1年半ほど経ったころに帰国して、弊社を設立しました。

当時はグリーン(観葉植物)とインテリアの両方をメインに扱うお店があまりなかったため、ないのであれば自分でそういったお店をつくろうと思ったのです。私の生活環境の基盤であった植物や、好きなインテリアを集めてお客様に提案するところから事業をスタートさせました。

収支よりも理想を追求し、乗り越えた苦難の日々

ーー起業にあたって、苦労したことはありましたか?

二村昌彦:
本来、会社を経営する上では収支を考えなければなりませんが、「日本で一番素敵なお店をつくろう」という思いひとつで進めたため、軌道に乗せるまでが大変でしたね。仕事は生涯続けるものと考えていましたが、趣味を仕事にしたことで苦労した部分もありました。売上がないためにスタッフを雇えず、雇ったとしても割り振る業務がない。そのような悪循環で、節約のために暖房もつけられない状況でした。

この状況を打破するためには、お店のファンづくりが必要だと考えました。私はお客様の顔や購入いただいた商品を自然と記憶していたため、そのお客様が再来店された際に「この前購入されたインテリアにはこのグリーンが合いますよ」という提案を個別に行うことにしたのです。これは、販売員でありバイヤーだったからこそできたことだと思います。結果的に、お客様ごとに最適な商品をピンポイントで仕入れることで、お客様の満足できる仕入れが出来るようになり、徐々に売上を上げることができました。

ーーそこからどのように事業を展開していったのでしょうか?

二村昌彦:
事業を拡大できた要因の一つに、ワークショップやイベントの企画運営があると思っています。これらのコンテンツは今も弊社のベースとなっていて、お客様がまだ少なかった創業時より続いています。最初のワークショップは木箱をつくり、そこに多肉植物を入れて持ち帰っていただくという体験でしたが、そこから徐々にスタッフが得意なテーマを取り入れ、体験のバリエーションを増やしていきました。また、当時としては珍しかった、音楽や飲食などの異業種とのコラボによる多彩なイベントは、現在も継続して開催しています。

もう一つ、名古屋の商業施設に出店したことも大きな出来事でした。豊橋の店舗が今の形になるまでに10年という長い時間を要したため、名古屋も長くかかると覚悟していましたが、3年で軌道に乗せることができました。商業施設への出店により法人のお客様が増え、関東エリア進出の弾みとなりましたね。

各店舗の個性を活かし、新商品の開発にも挑戦

ーー「garage(ガレージ)」という店名にはどのような思いを込めていますか?

二村昌彦:
通常、園芸店であれば「フラワー」や「プランツ」といった単語がつく店名が一般的ですが、私はあえて「garage」という名前をつけました。そこは、植物とインテリアの可能性を広げていきたいという思いからです。たとえば、アパレルと植物、カフェと植物など、植物はさまざまな分野と相性が良く、どのような場所でも空間を素敵なものに変えることができます。この無限の可能性を追求したいという思いを、店名に込めています。

ーー貴社ならではのこだわりを教えてください。

二村昌彦:
広告宣伝費をほとんど使わず、その分を人件費に費やして店舗のディスプレイに力を入れています。実際に足を運んでいただくと、そのこだわりがお分かりいただけるでしょう。現代はどれだけ人を削れるかという風潮がありますが、私たちは業界平均の2〜3倍のスタッフを配置しています。それはディスプレイだけでなく、お客様とのコミュニケーションも大切にしているからです。

良い提案を行うためには、スタッフ自身が商品を好きであることが欠かせません。好きなものであれば自然と詳しくなりますし、接客時にはその好きという気持ちを伝えればよいだけです。こうした無理のない自然なコミュニケーションがファンづくりにつながると思っています。

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

二村昌彦:
店舗は建物、スタッフ、お客様で成り立っているため、各店舗が個性的であることを意識しています。コロナ禍の影響で植物の需要が伸びている一方で、業界は飽和状態にありますが、引き続き植物の良さを伝えていきたいです。また、これまでは私たちがいいと思うものを選んで販売してきましたが、これからは自らつくっていくことも考えています。さらに、夢である海外出店にチャレンジし、そこから新しいビジネスを展開していけることを目指したいと考えています。

編集後記

「収支より素敵なお店づくり」という創業時の決断は、経営者として異色だったかもしれない。しかし、その真摯な思いがあったからこそ、今の成長があるのだろう。植物を通じて人々の暮らしを豊かにするという志は、今も変わらず確かな輝きを放っている。

二村昌彦/1973年、愛知県生まれ。国士舘大学卒業。株式会社カインズに入社し、9年の修業期間を経て、オランダへ渡航。その後帰国し、2007年に株式会社ガレージを立ち上げ、代表取締役社長に就任。「植物と暮らす」をテーマとして植物の魅力を発信している。