
株式会社日さくは、明治45年に日本で初めて機械式井戸掘削(※)事業を開始した企業だ。井戸掘削、地質調査、特殊土木工事の3事業を柱に、全国規模で事業を展開。各分野が連携したワンストップ型のサービスを特長としている。同社の事業の概要や価値観、今後の展望について、代表取締役を務める若林直樹氏に話をうかがった。
(※)掘削(くっさく):土や岩などを掘ったり削ったりする工事のこと
地質調査エンジニアから営業職を経て社長に就任
ーー社長就任前はどのような仕事をしていましたか?
若林直樹:
弊社は主に井戸の掘削、地質調査、地すべり対策などの特殊土木工事の事業を展開しています。1977年に弊社に入社した当時、私は地質調査のエンジニアとして採用されました。地質調査とは、専門知識をもとに、地質や基礎地盤、地下水など地下の見えない部分を細かく調べる仕事です。
エンジニアとして約20年間働いたあと、営業の仕事に携わるようになりました。まったく知らない会社を訪問しては断られる、ということを繰り返していたのですが、小さい仕事を受注できるようになり、そこからどんどんシェアを増やすことができました。調査によって地すべりの危険性を発見できたときには、お客さまから感謝され、仕事のやりがいを感じましたね。
その後、管理部門に配属され、各地の支店でコスト削減や利益の追求、運用に携わり、役員に就任しました。
ーーどのような経緯で社長に就任したのですか?
若林直樹:
ある程度全国の支店を回ってから役員になったためか、前社長が退任する数年前から、私が次期社長だという風潮が社内にありました。その流れは、私自身も感じていました。そうした空気が徐々に高まる中で、社内の流れを受けるかたちで、2016年に代表取締役に就任しました。
井戸の掘削に関わる業務をワンストップで受注

ーー貴社の事業について教えてください。
若林直樹:
弊社は、日本で初めて機械で井戸を掘削する事業を始めた会社です。1912年に創業して新宿の下落合で初めて井戸を掘削して以来、ずっと井戸掘削事業を続けています。
地質調査と特殊土木工事を展開することになった背景には、1950年代頃からの高度成長期に、地下水のくみ上げによって地盤沈下が起きたことから井戸の掘削が規制され、仕事が減るという事態になったため、井戸掘削の技術と知識を応用して新規に事業を展開したという経緯があります。
ーー貴社の強みや特徴はどのようなところですか?
若林直樹:
地質調査から井戸の掘削、メンテナンスのすべての工程を受注できるところが、弊社の強みです。一般的に、井戸の掘削を行う事業者は井戸の掘削だけを請け負うことが多いのですが、弊社は事前にその土地に水があるかどうかの調査を行い、井戸を掘ったあとのメンテナンスまで行うというワンストップサービスを展開しています。井戸掘りのすべての過程に関わることで、何か問題が起きたときに責任を持って対応できる体制が整っており、それがお客さまからの信頼につながりました。
特殊土木工事においても同様で、全国規模で地質調査と特殊土木工事を一貫して請け負っているところが、他社にはない強みになっています。
会社を発展させるのは「社員と家族の幸せ」
ーー経営者として、どのような考えや価値観を大切にしていますか?
若林直樹:
経営において、社員とその家族の幸せを第一に考えています。
かつて、弊社は同族経営だった時期があり、その時代には「去る者は追わず、来るものは拒まず」という傾向がありました。ところがその後、経営が厳しくなったときに、事業所の撤退と人員削減を繰り返したことで、会社の将来を担うはずの社員が相次いで退職してしまったのです。
会社が成長していくためには、お客さまから良い評価を受ける社員が必要だと私は考えます。そして、社員がより良い仕事をするためには、会社に対する思い入れが必要だと思うのです。社員が良い仕事をして、お客さまから感謝され、それが会社の発展につながる。そういった好循環をつくるため、私は人を大切にする経営方針を打ち出しました。
具体的な取り組みとしては、運動や食生活改善のセミナーを開催すると同時に、法定項目を上回る健康診断や二次検査の費用を会社が負担するなどの、「健康経営」を行っています。社員が健康で良い仕事をしてくれることは、お客さまや社会に貢献することにつながりますし、今後はそのような会社が発展するのではないかと考えています。
ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。
若林直樹:
弊社は、5年後に向けて目標を設定しましたが、それには収益性の改善が必要となります。そして、社員一人ひとりが「働きがい」「やりがい」「生きがい」を醸成することによって、お客さまの信頼を得られるという理念に基づき、人材教育に注力しています。社員の人格形成が、5年後、10年後の弊社の発展に結びつくと考えています。
さらに、生産人口の減少傾向を鑑みて、今後は業務効率を向上させ、限られた人員で最大限の成果を生み出す体制を整える方針です。ドローンやAIを活用した現場での業務や施工の効率化を進め、収益の改善を図るつもりです。
編集後記
現在は新卒の採用を強化しているという、株式会社日さく。文系・理系を問わず広く人材を募集することで採用の間口を広げるほか、地元テレビ局や新聞で企業PRを実施しているという。新しい風を組織に入れることで、同社の事業はどのように変化するのか。同社のさらなる成長に期待が寄せられる。

若林直樹/1951年東京生まれ、早稲田大学大学院修士課程修了。1977年、株式会社日さくに入社。2016年に同社代表取締役社長に就任。