
フラワーギフトを通じて、一人でも多くの笑顔が生まれることを願い、全国の生花店とともに事業を推進する企業、花キューピット株式会社。新鮮な花を配送する独自のサービスで、他社との差別化を実現している。さらに、約4000店の生花店ネットワークを活かした新たな価値創造にも積極的だ。代表取締役社長の吉川氏に、同社の強みや今後の展望について詳しく話をうかがった。
設計事務所やITベンチャー企業を経て生花業界へ
ーー社長就任に至るまでの経歴について教えてください。
吉川登:
芸大を卒業した後大阪の設計事務所に就職し、5年ほど大阪府の都市計画に携わりました。その後、大手商社から声をかけられたことで、設計業界からIT業界へと参入することになりました。当時はインターネットが普及し始めた時期で、大手デベロッパーの仕事でCAD(コンピュータ支援設計)を扱っていたこともあり、インターネットに興味をもち、総合商社からBtoBのECサイトを構築するプロジェクトの話をいただいたのです。
その後、画像圧縮技術を扱うベンチャー企業に副社長として転籍し、2004年にIT系ベンチャー企業を起業。約2年後に東証マザーズに上場を果たしました。
上場企業の社長を10年ほど務めると、他社からアドバイザーやメンターとしてのオファーが寄せられるようになりました。その頃に、私の商社時代の上司が花キューピット株式会社の社長を務めており、「うちの会社も見てほしい」と依頼を受けたのです。
花キューピットについては、名前は知っていても、実際のビジネスモデルや仕組み、店舗数などは全く知りませんでした。最初はアドバイザーとして提案するだけのつもりでいましたが、花キューピットの仕組みや、ビジネスモデルが面白いと思い、花業界にも可能性を感じたため、参画を決意しました。
ーーこれまで異なる分野で活躍されてきましたが、キャリアの中で大切にしてきた価値観について教えていただけますか?
吉川登:
私は「考えること自体に魅力を感じる」タイプであり、常に探究心を持って仕事に取り組んできました。単に目の前の業務をこなすだけでなく、その延長線上にある疑問や工夫を考えることを意識しています。
設計事務所から画像圧縮技術のベンチャーに参入したのも、この深い探究心があったからだと思います。たとえば、単にCADで図面を描くだけでなく、データ伝送の課題や効率化の可能性を考え続ける、といったようなことですね。
花キューピットの仕事においても、「なぜ人は花を買うのだろう?」など、原点についても日々考えています。
約70年の歴史を持つ、安心のフラワーギフトネットワーク

ーー「花キューピット」の仕組みはどう始まったのでしょうか。
吉川登:
花キューピットのルーツは、1953年に設立された日本生花商通信配達協会まで遡ります。当時はまだ交通網が十分に発達していなかったため、生花という繊細な商品の長距離配送は困難を極めました。そこで、全国の生花店が互いに提携し、フラワーギフトを届ける仕組みをつくったのです。
新鮮な生花を遠方に届けたいと考えたときに、アメリカでは既に同じようなビジネスモデルがありました。アメリカのビジネスモデルを日本流にローカライズして、昭和28年に事業をスタートしたのが花キューピットの始まりです。新鮮な生花を全国各地に届けられる点は、創立当時から変わっていません。
ーーフラワーギフトの具体的な用途を教えてください。
吉川登:
花キューピットのフラワーギフトは、法人よりも一般のお客様のご利用が圧倒的に多いので、1年のさまざまなイベントごとに需要があります。
特に誕生日のプレゼントや母の日のギフトとして利用されることが多いです。その他、卒業や入学などの式典やお盆、敬老の日、クリスマス、お正月など、年間を通してさまざまな機会にご利用いただいています。
お客様がお花を贈りたいと思ったときに、「プロの生花店が届けてくれる花キューピットなら安心」と思っていただけることが、弊社の目指すところです。
ーー他社との差別化ポイントや強みはどんなところでしょうか。
吉川登:
花キューピットは現在約4,000店舗が加盟しており、北海道の礼文島から沖縄県の石垣島までカバーしています。指定された住所に近い生花店が対応することで、お客様が希望する場所に新鮮な状態のフラワーギフトを届けられるのが強みです。
宅配便でフラワーギフトを送る場合、不在の場合は箱に入ったまま営業所で保管となりますが、花キューピットの場合は、生花店に持ち帰り、冷蔵庫などで適切に管理します。再配達の際は、場合によって一部の花を交換していつでも新鮮な状態で届けます。
また、「花屋さんのおすすめ」なら午前中までの注文で、最短当日配達が可能な点もメリットです。
花を通じてコミュニケーションを創出し、マーケットを拡大したい
ーー今後の展望として、力を入れている点についてお聞かせください。
吉川登:
1つ目は新商品の開発で、かわいく見栄えの良いプチギフトをパッケージ化できればと考えています。他社と差別化できるようにデザイン性を追求して、ブランド価値を向上することが、弊社の挑戦の1つです。
2つ目は、花を通じたコミュニケーションの創出です。その一環として、新入社員に初任給を支給するタイミングで、メッセージを添えて両親へ花束を贈る取り組みを開始しました。この取り組みには、企業のファンを増やす、離職率を減らすといった狙いがあります。このように、単なる贈り物としてだけではなく、花束を渡すことの価値を高めたサービス開発にも力を入れています。
最後はECサイトの活用です。ECサイトの会員がいるのですが、まだ十分に活用できていない状況です。顧客の情報を分析して、それぞれの顧客に合った形のアプローチをしていければと考えています。
編集後記
インタビューを通じて感じたのは、吉川社長が持つ新しいことを前にしたときの探究心の強さである。どの仕事に対しても、常に「考えることの面白さ」を追求する姿勢は、生花業界においても生かされている。花を通じたコミュニケーション創出など、新たな価値創造に挑戦する花キューピット株式会社は、生花業界に新たな風を吹き込むだろう。

吉川登/大阪府出身。総合商社やITベンチャー企業を経て2004年、動画などの処理技術を提供するベンチャー企業を起業し、2006年に東証マザーズ上場。2015年に花キューピット株式会社常務取締役、2016年取締役社長に就任。