
株式会社バトンズは、M&A・事業承継支援プラットフォーム「BATONZ(バトンズ)」を運営する会社だ。企業規模を問わずインターネットを活用したM&A支援を行う国内最大級のプラットフォームビジネスを手がけ、成約数は年間1000件以上と成長を続けている。同社の代表取締役CEOの神瀬悠一氏に、これまでの経緯や今後の展望などについてお話をうかがった。
エンジニアとして磨いた「物事を構造的に捉える力」がずっと活きている
ーー貴社に入社するまでの経歴について教えてください。
神瀬悠一:
大学卒業後、日本ユニシス(現:BIPROGY株式会社)に入社し、まずはエンジニアとしてキャリアをスタートしました。入社当初は打ち合わせに参加し、議事録を取ることが仕事でしたが、その経験ができたことで、広い視野が身につき、次第に大きな仕事を任せてもらえるようになっていきました。物事を構造的に捉える力を身につけることは全ての仕事に活きてくるということを学べてとても良い経験をしたと思っています。
その後、コンサルティングファームに転職しコンサルタント業務を経験したのですが、業務で分析や課題解決に取り組んだことも現在の経営に活きています。
エンジニアとコンサルタントの経験を積んだことで、「次は支援する側でなく、自分自身で事業を成長させたい」と思うようになった私は、リクルートに転職。事業成長の手法やマーケティングスキル、チームのパフォーマンスを最大化させる方法などについて学ばせてもらいました。
ーー貴社に入社するきっかけについてお聞かせください。
神瀬悠一:
元々、新しいことを学んで成長していくことが好きな私は、リクルートで幅広い仕事に携わるうちに「日本M&Aセンター」という会社の存在を知りました。
当時のバトンズは日本M&Aセンターからの分社化直後で、特にエンジニア・マーケティング・デジタル分野の強化を図ろうとしている時期でした。これを実現すべく、創業メンバーが、新たな経営メンバーを探すなかで私を食事に誘ってくださり、「誰でも、何処でも、簡単に、自由に、M&Aが出来る社会を実現する」というビジョンに共感したことが入社の決め手です。
ーー当初、取締役として入社した後、代表取締役CEOに就任されましたが、ご自身のなかで変化はありましたか。
神瀬悠一:
立場が変わったことでより一層責任感を持つようになったと思います。取締役として入社し、3年後に創業者からバトンタッチして代表取締役CEOに就任しましたが、当時は10人規模の会社で、役職者だけでなく「バトンズのビジネスをどう発展させていくか」と社員全員で考えることが日常でした。そのため、代表取締役CEOに就任した直後も業務内容に大きな変化はありませんでした。一方で、気持ちの面では変化があり、これまで以上に「社員の生活を支えていかなければならない」という実感を持つようになりましたね。
ただのマッチングサイトではない、「マッチング後のすり合わせ」までサポートできる体制

ーー貴社の強みについて教えてください。
神瀬悠一:
大きな強みとして挙げられるのは「価値観のすり合わせ」までサポートしている点です。弊社が運営するサイトは「M&Aプラットフォーム」と呼ばれ、事業を譲渡したい方と譲り受けたい方のマッチングを支援するサービスを提供しています。しかし、このサイトは単なるきっかけにすぎず、申込後すぐにM&Aが成立するわけではありません。
弊社では、マッチング後に売り手・買い手の価値観を細かなところまですり合わせ「一緒になればうまくいく未来」を描くところまできめ細かにサポートしています。さらに、取引先をM&Aできる相手を見つけて仲介したいと考えている金融機関や専門家などの方にもご活用いただいており、1社ずつ個別に声をかけるよりも効率的にマッチングできると好評です。
サイトの使いやすさ、取引相手の質の高さに加え、弊社の社員に相談に乗ってもらえるという掛け算で、より良い未来を創出しているのが弊社の強みです。
AI導入などで技術面を、社員研修でコンサルティングスキルを高めて「安心できる相談役」に
ーー今後の事業展開について教えてください。
神瀬悠一:
現在、より多くのマッチングを生み出すために、サービスの改善を考え、AIの導入などを始めています。経済産業省は現在、「今後10年間で60万社をM&Aする」という方針を打ち出しています。1年あたりで換算すると、6万社。一方、弊社のM&A支援実績は毎年1000〜1500件ほどで、政府目標の1割にも届かない状況にあります。そのため、今のビジネスを洗練させて多くの方に届けられるようにしていくことが必要不可欠です。
たとえば、ご年配の創業者の方は廃業して事業を終えるのではなく、M&Aという手法を知り、選択肢に入れていただけるようになる必要があります。また、若手起業家の場合、その会社をずっと続けるのではなく、事業運営が得意な人に譲り、また別のアイデアをもとに起業したいという方もいらっしゃるでしょう。
M&Aという手法自体の知名度を高め、経営者の方々の選択肢に入れていただく機会が増えてさまざまな事業継承の方法を提供できるよう、弊社は安全で高品質なM&Aをサポートする存在であるために改善・改革を続けております。
その一例として、厳密なチェックを行っていることが挙げられます。弊社サイトは誰でも会社を売買することができるわけではありません。買い手・売り手の情報チェックを厳密に行い、チェック段階にAIを導入することで効率化を実現。これにより高品質なM&Aを支援しています。
また、M&A成立後のことまで見据えて、人材やファイナンスの支援なども弊社で行える体制になっていくと、買い手の裾野がより広がると考えています。
弊社はIPOも目指しており、多くの投資家の方に評価される会社づくりを進めています。M&Aを相談する先として信頼できる会社だと思っていただけるよう、これからますます体制を整えてまいります。
ーー事業拡大するにあたり、必要なことは何でしょうか。
神瀬悠一:
事業拡大のために必要なのは、やはり「人材の採用・教育」です。
採用に関して、私たちが求める人材は「バトンズが有名企業になってきたから」ではなく「ワクワクできそうだから」と思って入社してくださる方です。弊社の「誰でも、何処でも、簡単に、自由に、M&Aが出来る社会を実現する」というビジョンと、「経営者の成功を全力で応援する」というミッション、「未踏の山に、道をつくろう」といったバリューなどに共感できる方、一緒にチャレンジしていける方にお会いしたいと考えています。
また教育に関しては、業務と研修の両面で新たな知識やスキルを身につけられることが特徴であると思います。成長を続ける弊社だからこそ、社員に多くのチャンスを与えられるような環境を提供できているのではないでしょうか。
たとえば、エンジニアはシステム開発だけでなくAIなどの最先端技術に触れる機会も多くあります。営業職には「技術では解決できないことをサポートする」という明確な役割があり、クライアントごとの個性や経営者の思いなどをとらえてマッチングを進めるため、M&Aに関する知識はもちろん、コンサルティングスキルや高い倫理観なども仕事を通して身につけることが可能です。
さらに、弊社では社員研修に非常に力を入れています。営業だけでなく、カスタマーサクセスやコンサルティング、マーケティング、商品企画などの幅広い職種があるなかで、自分が今担当している業務に直結するものだけでなく、OFF-JTという頭を切り替えて別のことを学ぶ研修を実施しています。今の業務から離れて新しい視点を得ることで、成長のきっかけになることもあると思います。2025年秋口からは社内資格制度を開始し、M&Aに関する専門知識を社員であれば誰でも身につけられる体制も整えていく予定です。
さまざまなことにチャレンジして「バトンズにいて良かった」と思ってもらえたら嬉しいです。
編集後記
業界最大級のM&A・事業承継支援プラットフォームを運営する同社には、技術力とコンサルティングスキルの両面を高め、相乗効果を発揮する風土が根付いていた。AIを活用し効率化を進める一方で、クライアントの個性なども把握して高品質なマッチングをサポートすることで業績を伸ばしている。同社はこれからもハード・ソフト両面で改善を続け、存在感を増していくことだろう。

神瀬悠一/1977年東京都生まれ。早稲田大学理工学部を卒業後、SIer(エンジニア)、コンサルティングファーム、リクルートを経て、2019年にバトンズに入社し取締役CMOに就任。2022年、同社代表取締役CEOに就任。