※本ページ内の情報は2025年5月時点のものです。

建設機械から農業機械、特殊車両まで、産業機械部品の専門商社として、ものづくりの基盤を支えてきた株式会社トモエシステム。1947年の創業以来、同社は多くのサプライヤーと信頼関係を築き、顧客に最適な商品を提供してきた。兵庫県神戸市に本社を置く同社は、近年、グローバル展開を加速し、中国・タイ・アメリカに拠点を構え、世界市場における存在感を高めている。業界の技術トレンドを捉えながら、さらなる成長を目指す同社の代表取締役社長、柳瀬秀人氏に話をうかがった。

異業種で学んだ信頼の大切さとプロとしての矜持

ーー貴社に入社されるまでの経緯を教えてください。

柳瀬秀人:
私は創業者の孫として生まれましたが、学生時代は会社を継ぐつもりはまったくありませんでした。1997年に大学を卒業したあとは、食品メーカーに入社。営業職として5年ほど楽しく働いたのち、本社部門に異動して、製品企画に2年半、営業企画に2年半携わっています。

その後、会計系のコンサルタント会社を立ち上げた友人から、「もし少しでも家業を継ぐ可能性があるなら、その前に一度転職を経験した方がいいよ」とアドバイスされて、その友人の会社に転職しました。私が入社したころは従業員6名でしたが、この会社は急成長を遂げて、現在では19か国23か所に拠点を持つ、従業員数500人規模の会社になっています。その後、2010年に家業のトモエシステムへ入社したという流れです。

ーー家業とは異なる業界でどのような経験を得たのでしょうか?

柳瀬秀人:
1社目の食品メーカーでは、営業職として、信頼関係は人間関係を構築していくなかで育つ、ということを学びました。できることをきちんとやれば、同僚や上司だけでなく、お客さまや同業他社の社員からも評価されます。実際に、お客さまが自発的にその食品メーカーの商品を並べ、私が営業努力をしたような体裁をつくってくれたこともありました。その協力的な姿勢に、「ここまでしてくれるのか」と驚くほどでした。

2社目のコンサルタント会社では、私以外全員が会計士か税理士という環境のなかで、士業の責任の重さや、プロフェッショナルとしての仕事を目の当たりにしました。仕事に対するプロ意識の姿勢はこの頃に身につけました。

ーー入社してから社長就任までの間に、どのような取り組みをしましたか?

柳瀬秀人:
弊社に入社した2010年当時、すでに社内では国際化の動きがあり、私もこれに対応することから始めました。まず私が着手したのは、英語が話せるスタッフの採用です。この時期、輸入商品の取引や外資系企業のお客さまが増えていたにもかかわらず、英語が話せるスタッフが2人しかいませんでした。そのため、求人サイトの登録や会社説明会、面接を行い、採用人数を増やしたのです。

最初の3年間は、社内文化になじめない人たちの離職率が高かったのですが、時間が経つにつれて抵抗感が薄まったのか、急速に社内の英語化・多言語化が進みました。さらにその後は、弊社のレベルアップを図るために、上場企業を退職したシニアの方を採用して、日本の上場企業の価値観や常識を社内に浸透させようと試みました。

当時の弊社は資金や商圏の面では特に課題がなかったので、会社が1段階上のレベルになり、グローバル展開するための人材採用と定着に注力した次第です。

多彩な商品の供給で世界を支える

ーー現在はどのような事業を展開していますか?

柳瀬秀人:
弊社は建設関係の機械や農業機械、フォークリフトなどの特殊車両の各種部品を中心に取り扱う専門商社です。もともとは自動車の主要部品を修理工場やタクシー会社、トラック会社などに卸す会社として創業しており、この事業を現在も継続しています。そのほかには、鉄道車両や工場設備関係の部品も一部取り扱っており、世界各地のお客さまからの多様なリクエストに柔軟に対応しています。

2009年に中国に子会社を設立したのを皮切りに、タイやアメリカにも拠点を展開して、グローバルな供給体制の構築を進めてきました。これによって、商品の調達力が強化されただけでなく、お客さまに対して現地サプライヤーを念頭においた、柔軟かつ多様な提案ができるようになっています。

会社の質を高めて挑む、世界市場シェア30%への道

ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。

柳瀬秀人:
今後は、サービスの付加価値を高めて既存顧客の満足度を高めていくと同時に、新規顧客の獲得や新しい市場の開拓を進めていきたいです。5年後の目標達成を目指し、サービスの認知度を向上させたいと考えています。世界のトレンドを取り入れ、新たなサービスを提案し、顧客の課題を解決することで道は開けるはずです。背伸びや無理をせず、日々の業務を着実に進めていくなかで、次のステージに上がれたらいいですね。

私は「営業力」というものは、車のエンジンのようなものだと考えています。「エンジンだけ性能がよくても、タイヤやボディが弱い」という車は、バランスが悪いですよね。会社も同じで、「エンジン=営業力」だけが優れていて大勢のお客さまからお問い合わせがあったとしても、「ボディ=会社そのもの」がきちんとしていないと、業績アップや顧客獲得には結びつきません。

会社そのもののレベルを上げるための手段として、デジタルツールによるDX、仕事の標準化が重要だと考えています。ここでいう標準化とは、ある仕事に対して、どんな人が対応しても、その成果の質が一定になるようにするということです。

しかしながら標準化によっては弊社の強みが消える可能性もあります。強みを維持しつつ、標準化で一定のサービスの質を保つこと、この二律背反を克服することが、企業としての成長やグローバル化につながるはずです。DXを推進し、過去を振り返ったときに、「今とあのときではまったく違うね」と社員が成長を実感できるよう、長期的な発展を目指します。

編集後記

「営業力はエンジン、会社はボディ」という柳瀬社長の言葉が印象に残った。これは単なる比喩ではなく、グローバル展開を進めるなかで、人材育成や組織づくりに注力してきた経験から導き出された経営哲学だ。社長就任から9年、祖父の代から会社を受け継いだ者として、バランスのとれた成長を追求する姿勢に確かな説得力を感じた。

柳瀬秀人/1974年、兵庫県生まれ。1997年、関西学院大学商学部を卒業後、大手食品メーカーに入社。2007年、会計コンサル会社に入社。2010年、祖父が創業した株式会社トモエシステムに入社、2016年に代表取締役社長に就任。