
「あったらいいなを常に考える」というコーポレートビジョンを掲げる株式会社E-LINE。同社はデータ分析事業を主軸に、「スモールデータ」と呼ばれる質の高い少量データを収集・分析し、地域の生の声を反映したWeb制作事業や、1問から利用できる学生向けの学習支援サービス事業を展開している。将来的にはAIを活用した感情認識技術や介護ロボットの開発も視野に入れる同社の代表取締役社長、小泉聡史氏に話をうかがった。
リクルート時代の自問自答が導いた自身の成長
ーーリクルートへの入社を決めた理由と、そこでどのような経験をされたのでしょうか?
小泉聡史:
もともとは学者志望で、大学や大学院では応用理工系や量子理工学系を学んでいたのですが、大学院での研究がきっかけでプログラミングに興味を持つようになりました。研究者になるか、プログラミングの道に進むかという岐路に立ったとき、「より多くの人を喜ばせたい」という思いから、自分を鍛えるために株式会社リクルートへの入社を決意したのです。
リクルートは技術だけでなく人間性も求められる環境で、上司からは「自問自答しなさい」とよく言われていたことを今でも覚えています。そこで、私はスキルを身につけるためにはどうすればいいのかを考え、毎日5回誰かに質問することを自分に課し、特に一番話しかけにくい人に声をかけることにしたのです。
この経験を経て、インドア気質だった私は人間として大きく成長することができました。そして、リクルートで培った技術と経験、そして「もっとこうしたら良くなる」という思いや考えを形にするため、株式会社E-LINEを立ち上げたのです。
Web制作から学習支援まで、データ分析を軸に広がる事業領域

ーー貴社の主な事業内容について教えてください。
小泉聡史:
弊社の主力事業は「データの分析」で、AIが加工するデータのもとになる1次データを収集・分析しています。たとえば文部科学省のデータを分析し、保険会社の保険料率算定に活用される予測を立てるといったイメージです。
次に力を入れているのがWeb制作事業です。こちらでは実際に現地調査を行うことで、ビッグデータでは見落としがちなローカルな傾向を反映したサイトを構築しています。地域の方に取材をして得た生の声をもとにサイト設計をしているため、売上に直結する成果を上げられるのが特徴ですね。
加えて、学習支援サービス事業も行っており、「この問題だけわからない」という学生向けに、ピンポイントで回答を提供できるサービスを展開しています。リーズナブルな単価で気軽に質問できるシステムは、国内はもちろん、海外の学生にもご利用いただいています。
ーー貴社の特徴的な取り組みはありますか?
小泉聡史:
6時間労働制の採用です。弊社は朝10時から夕方5時までの勤務で、間に1時間の休憩をとります。この休憩は10分ずつに分けてもよいなど、柔軟な運用を心がけています。この制度で重要なのは、退勤時間ぴったりに帰ることです。なぜなら、「やり残した」と感じるくらいで帰ることで、翌日に「続きをやりたい」というモチベーションが生まれるからです。
また、労働時間が短いことにより、社員は帰宅後にさまざまなコミュニティに参加でき、そこで得た新しい発想やアイデアを仕事に持ち込むことができます。この制度は社員の成長を促進するだけでなく、新しいサービスの創出にもつながっていると感じています。
志を持った社員とともに、技術への飽くなき追求を続ける

ーーどのような人材を求めていますか?
小泉聡史:
アイデアを持つ人材を求めています。日々の生活の中で「これがあったら便利だな」と思ったことがある方、それを形にしたいという意欲がある方に入社していただきたいですね。経験やスキルは問いません。実際に弊社では、飲食業界など、まったくの異業種から入社した社員も活躍しています。6時間労働制という環境の中で、プライベートも充実させながら社会に新たな価値を提供していきたい方は、ぜひ弊社をご検討いただければ幸いです。
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
小泉聡史:
当面の目標は、テキスト分析技術の高度化です。弊社は文章に含まれる感情を数値化する技術を持っています。しかし、現状のAIは日本語特有の曖昧さによって、感情をうまく認識できません。今後、技術の進歩によって状況は変わってくるはずなので、将来的にはAIを活用して人間の感情までも読み取れるシステムの開発を目指しています。
さらにその先には、「1家に1台の介護ロボット」の実現に挑戦したいと考えています。これは、私が「身の回りのことすべてを他人に任せきりにする状況を避けたい」という思いから描いたビジョンです。年齢による動きの違いや怪我が発生するパターンなどのデータを分析し、AIと連携できればロボットによるアクシデントを予測した介護が可能となるでしょう。
未来を悲観するのではなく、技術で明るい未来をつくっていく。そうした志を持った社員と共にこれらのビジョンを実現していきたいと考えています。
編集後記
取材中、小泉社長の言葉からは常に「人」を中心に据えた思考が感じられた。特に印象的だったのは、「やり残した」と感じるくらいの分量で仕事を終える、6時間労働制の発想だ。単なる働き方改革ではなく、創造性を引き出す仕組みとして機能している点に、小泉社長の経営者としての視点の鋭さを見た。

小泉聡史/北海道大学大学院(理工学系)を修了後、2007年に株式会社リクルートへ入社。2010年に株式会社E-LINEを創業し、スモールデータを活用したWeb制作事業を展開。その後、株式会社ミキハウスなど複数の企業の経営に携わり、グループ全体で年商100億円を達成。2017年に事業を売却し、E-LINEに資本を集中。現在はエンジェル投資家として活動し、教育CSRや東京大学との研究にも参画している。