※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

道路の縁石から下水道の部材まで、街のインフラを支えるコンクリート製品。林屋コンクリート工業株式会社は1929年の創業以来、この分野で着実な成長を遂げてきた。JISマーク認定工場として品質管理を徹底する一方、自動倉庫システムをいち早く導入するなど、効率化にも注力している。関東圏を超えて全国から信頼を集め、業界への貢献で藍綬褒章も受賞した同社の代表取締役社長、林重信氏に話をうかがった。

工場での業務を起点に全部署を経験し、経営のトップへ

ーー社長へ就任するまでの経緯を教えてください。

林重信:
大学を卒業してすぐに、家業である弊社に入社しました。当時は私の祖父が会長を務めており、外部で修業するよりも社内の全部署を経験する方が良いだろうとの判断で、まずは工場に配属となったのです。

最初に工場勤務を経験したことはとてもよかったと思っています。現場を体験することで、非効率な作業を改善する必要性に気づくきっかけになりました。特に課題だと感じたのが、金型の管理です。弊社は2800種類ほどの金型を扱っていますが、それらの保管は倉庫に奥から順に入れていくだけだったのです。そのため、奥にある金型を一つ取り出すのに数時間かかることもあり、そのためにかかるコストが製品の利益を上回ることもありました。そこで、自動ラック式の倉庫を導入し、必要な金型を短時間で取り出せる仕組みを整えました。

多くの費用がかかる改善だったため、当時の会長や社長には猛反対されましたね。しかし、結果として作業効率が飛躍的に向上し、注文から製造までの時間を大幅に短縮できたため、必要な改善だったと思っています。その後、本社の営業部や総務部などを経て専務に就任し、2013年には社長へ就任しました。

豊富な品ぞろえと迅速な納品で、顧客のニーズに応える

ーー貴社の事業内容を教えてください。

林重信:
道路や下水道などのインフラ整備に使用されるコンクリート製品の製造が主力事業です。そのほか、縁石や側溝、汚水雨水桝、マンホールなどの製品を手がけています。また、販売代理店として、鉄蓋や化粧ブロック、生コンクリートなども取り扱い、建設に関わる幅広いニーズに対応しています。

ーー貴社の強みをお聞かせください。

林重信:
弊社の強みは、商品の豊富さとスピード感にあります。多彩な金型によって、さまざまなニーズに対応できるのが大きな特徴ですね。既に多くの金型がありますが、今後も積極的に新商品の開発に取り組んでいくつもりです。

スピード感においては、コンクリート製品が固まるまでに2週間ほどかかることを考慮して、あらかじめ多くの製品を在庫として持つことで納期を大幅に短縮しています。注文を受けてから生産していたのではかなりの時間がかかってしまいますから。こうしたスピーディな体制を評価いただき、関東のみならず、関西や四国、九州のお客様からご注文をいただくこともあります。

ーー社長に就任してからどのようなことで苦労されましたか?

林重信:
最も苦労したのは、建設需要の大きな変化への対応です。日本のインフラ整備は昭和から平成初期にかけて急速に発展しましたが、やがてその波も落ち着き、新設から維持補修へと市場ニーズが変化していったのです。この時代の変化に適応するためには、従来とは違う新しいコンクリート製品の開発が必要でした。また、製造や運搬などの工程全体の見直しも欠かせません。それにより、需要が激減する中でも利益を確保し、企業を存続させることができましたが、事業の転換には大きな苦労がありましたね。

安定した経営を重視し、社員が安心して働ける職場を目指す

ーー人材育成と今後の展望について教えてください。

林重信:
10年ほど前から社員教育に注力しており、外部講師を招いた研修に加えて、個別指導も導入し、継続的に教育の機会を提供しています。なかでも個別指導は特に効果が高く、実践的なスキルの向上につながっていると感じています。今後も人材育成を経営の重要な柱として強化していく方針です。

弊社の経営理念は、「いたずらに規模の拡大を求めずに、安定と存続を優先した経営を目指す」です。経営基盤をしっかりと固め、社員が将来に不安を感じることのないように、会社を維持することが最も重要だと考えています。そのうえで、社員一人ひとりが「この会社に勤めてよかった」と実感できる環境を整えることが、私の目指す会社の姿です。今後もこの方針を軸に、弊社の発展を目指してまいります。

編集後記

インフラ整備から新製品開発へ切り替えながら、時代の流れに合わせて業界に貢献し続けてきた林屋コンクリート工業。決して安売りすることなく、高品質な製品をつくり、適正価格での取引を貫いている。その姿勢こそが、業界を存続させたいという強い意思表示であり、同社の価値を高め続けているのだと実感した。

林重信/1954年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。1977年に林屋コンクリート工業株式会社へ入社し、工場で製造や試験室など全ての部署を経験。その後、本社の営業部、総務部を経て、2013年に代表取締役社長へ就任。また、業界団体である東日本セメント製品工業組合の理事長を12年勤め、その功績により令和元年春の叙勲において藍綬褒章を受賞。