
ウインファースト株式会社は、三興製鋼株式会社と株式会社向山工場が設立した、異形棒鋼の共同販売会社だ。同社が開発した主力製品「エムケーフープ」は、全国シェアNo.1の高強度せん断補強筋である。
業界のパイオニアともいえる同社の代表取締役社長を務める向山敦氏に、「エムケーフープ」開発のエピソードや、事業内容、今後の展望について話をうかがった。
社内で反対されながらも「エムケーフープ」を開発
ーー社長のこれまでの経歴をお聞かせください。
向山敦:
高校時代は剣道一筋で、正直なところ、勉学にはあまり力を入れてきませんでした。しかし、社会に出ることを意識し始めたとき、「もう一度しっかり学びたい」という気持ちが強くなり、イギリスのイーストアングリア大学に留学し、国際関係学を専攻しました。
大学卒業後は、兼松株式会社に入社し、鉄鋼製品を取り扱う仕事に従事しました。このときに鉄鋼業界の方々と深いつながりを持てたことは、後に株式会社向山工場での製品開発に生きる、貴重な経験だったと思っています。
その後、兼松トレーディング株式会社での勤務を経て、2002年に私の父が代表取締役社長を務めていた株式会社向山工場に入社しました。はじめの1年間は、特定の部署に所属せず、工場を巡回して現場改善のためのアイデアを出していましたね。
2006年に、株式会社向山工場と三興製鋼株式会社それぞれの販売部門を統合する形で弊社が設立され、私も出向することになったのです。2014年には弊社の代表取締役社長に就任し、翌2015年からは、未来建築研究所株式会社の代表取締役社長も兼任しています。
ーー株式会社向山工場に入社後は、どのようなことに取り組みましたか?
向山敦:
まず取り組んだ大きな仕事は、新しい鉄筋の開発です。関東エリアで製造する電炉メーカーとして初めて、降伏強度785N/mm2、引張強度930N/mm2の高強度せん断補強筋「エムケーフープ」を開発しました。
開発の背景として、1995年の阪神淡路大震災以降、建物の耐震性向上のために高強度な鉄筋の需要が高まっていたことが挙げられます。向山工場の設備と品質で何ができるかを考え、2004年頃に高強度鉄筋の開発を提案したのですが、保守的な業界だったこともあり、最初は社内から大きな反発を受けてしまいました。
そこでまずは情報収集と情報発信を重ね、品質管理の担当者や工場長と関係を構築するなど、理解と協力を得ながらようやく試作品の製作にたどり着きました。
ただ、試作品をつくって終わりではありません。製品として広く使ってもらうためには、国土交通大臣の認定品としての規格を取得する必要があり、そのためには専門家である東京理科大学名誉教授、松崎育弘先生の協力も必要でした。幸い、お客様からご紹介をいただき、開発チームに加わっていただくことができ、開発を成功させることができました。そして、2012年から「エムケーフープ」の製造と販売を開始することができたのです。
相場が大きく変動する鉄筋業界の中で、安定して売れる製品を開発したいという私の思いが実を結び、現在ではこの「エムケーフープ」の売上高が年間約45億円程度になっています。「エムケーフープ」の開発で苦労して手に入れたノウハウは、現在に至るまで新製品開発の基盤となっていますね。
建築業界の課題を改善したいとの思いから別会社を設立

ーー貴社の事業内容を教えてください。
向山敦:
弊社の主な事業は、鉄筋コンクリート用棒鋼の販売です。兄が代表取締役社長を務める向山工場の製品と、三興製鋼の製品を取り扱っています。両社の製品を、弊社から商社に販売し、そこからさらにゼネコンや加工メーカーに製品が流通しています。
ーー向山社長が代表を兼務する「未来建築研究所株式会社」では、どのような事業を展開していますか?
向山敦:
未来建築研究所株式会社は「エムケーフープ」の開発が契機となり、設立しました。技術的な専門知識やノウハウを活用した、構造設計、大型案件の鉄筋納り図作成及びVE提案、リニューアル工事、環境に優しい水性無機塗料「タフマックスNEO」、省力化・DXに貢献するウェアラブルカメラ「Rokid Glass2、AAASボディカメラ」など、さまざまな技術的サービスや先進的製品を提供することで建設業界の課題解決を目指しています。素晴らしい能力を持った人たちが正当に評価され、皆が幸せに過ごせる労働環境を実現したいという想いが同社を立ち上げた理由です。
社員が自律的かつ幸せに働ける環境をつくりたい
ーー貴社の採用方針についてお聞かせください。
向山敦:
現在、年齢層としては、50代前後の社員が最も多いです。年齢別に分けたときに、人員の構成がピラミッド型になるように、新卒〜30代くらいの社員を重点的に採用したいですね。年齢層の比率をバランス良くすることが目的なので、新卒採用か中途採用かということにはこだわっていません。
ーー今後はどのように会社を成長させたいとお考えですか?
向山敦:
私は保守的な考え方が苦手で、社員にも枠にとらわれず広い視野で自ら考え、行動できる人材であってほしいと考えています。組織として強くなるためには自律的に動く社員が必要なので、そのような社内文化を築きたいですね。また、社員が仕事を通じて充実感を得られ、幸せに働けるような環境づくりが私の仕事だと考えています。そのために、新技術の開発や顧客開拓にも積極的に取り組んでいく方針です。
編集後記
小さなことでも工夫して、与えられた仕事を改善することを心がけているという向山社長。その真摯な向上心は、画期的な新素材「エムケーフープ」の開発、そしてウインファースト株式会社の成長、未来建築研究所株式会社の設立へと結実した。向山社長の改善を続ける姿勢は社員一人ひとりに伝わり、会社全体をさらなる高みへと押し上げていくだろう。同社のさらなる進化が楽しみだ。

向山敦/1972年埼玉県生まれ。1994年、学習院大学経済学部卒業。1996年、英国イーストアングリア大学卒業。1996年に兼松株式会社入社。1999年に兼松トレーディング株式会社に入社。2002年に株式会社向山工場に入社、2006年にウインファースト株式会社に出向する。2014年、同社代表取締役社長に就任。2015年、未来建築研究所株式会社を設立し、同社の代表取締役社長に就任。2024年、ヒューチャーフォース株式会社設立、同社社長に就任。