
東大阪市を拠点に、地域発展のハブとしての役割を担う株式会社F.C.大阪。同社はJリーグに所属するプロサッカークラブ「FC大阪」の運営を主軸としながら、行政や企業と連携して地域や社会の課題解決にも積極的に取り組んでいる。プロサッカー選手から経営者へと転身した、同社代表取締役社長の近藤祐輔氏に話をうかがった。
クラブの収益化に奔走し、ビジネスパーソンとしての道を切り拓く
ーーこれまでのキャリアについて教えてください。
近藤祐輔:
私は小学校5年生からサッカーを始めました。当初はプロサッカー選手になることを特に意識していなかったのですが、高校3年生のときに国民体育大会(現:国民スポーツ大会)に出場する機会に恵まれたのです。そこでご縁があり、ザスパ草津(現:ザスパ群馬)でプロサッカー選手としてのキャリアをスタートしました。
選手引退後は、Jリーグキャリアサポートの紹介で現在の会社の前身となる組織に入社したのです。これが今の仕事に携わるきっかけとなりました。
ーービジネスパーソンとして歩み始めるにあたり、どのような心構えで臨みましたか?
近藤祐輔:
常に「元プロサッカー選手」として見られることに、少なからず劣等感がありました。「1人のビジネスパーソン」として認められたいという思いが強くあり、仕事には特に力を入れて取り組んでいましたね。
2015年ごろに弊社のサッカー事業を充実させていく動きがあり、その中でクラブの収益化に尽力したことが、私の大きな転機になったと思います。クラブのあり方や収益源の確保など、ビジネスについて考え抜いた経験が、今の経営にも非常に活きているのです。
サッカークラブの運営にとどまらない、多角的な価値提供

ーー貴社の事業内容とその特徴を教えてください。
近藤祐輔:
弊社はプロサッカークラブ「FC大阪」の運営を行っていますが、一般的なスポーツクラブとは少し異なる収益構造を持っています。通常のサッカークラブの収入は約6割がスポンサー収入、残りの4割がチケットやグッズ販売とされていますが、弊社ではスポンサー収入が8割を超えているのです。
これは単に広告枠を提供するのではなく、地域や社会の課題解決にともに取り組む「パートナーシップ」を重視している姿勢の表れといえるでしょう。具体的には、環境問題に取り組むパートナー企業と共同で脱炭素のプラットフォームをつくったり、ステークホルダー同士をつなぐ役割を果たしています。
ーー行政との連携において、どのような取り組みを行っていますか?
近藤祐輔:
2018年に大阪府とスポーツ界初となる包括連携協定を締結しました。サッカーの基本的な概念として「ホームタウン」がありますが、この協定をきっかけに東大阪市のホームタウン化が実現できたのです。現在では、行政が抱える課題を話し合い、民間の力を含めた解決策を提案していくという関係性を築くことができました。
そうした中で、弊社はこれまでに築いてきたネットワークを活かして、パートナー企業と行政をつなぐことで、新しいビジネスの創出にも貢献しています。このような活動が信頼につながり、さらに新たなビジネスチャンスを生み出すという好循環をつくり出しています。
ーー社長就任後、特に印象に残っている出来事をお聞かせください。
近藤祐輔:
Jリーグに昇格したときのことが強く心に残っています。2021年2月にクラブ立ち上げから運営を支えてきた疋田前社長が、急逝されたのです。そして、副社長だった私が2021年3月に社長に就任することになりました。
社長就任後は、前社長が抱いていた「Jリーグ昇格」という夢を引き継ぎ、できるだけ早くそれを実現させたいという強い思いを持って取り組みました。
その目標に向かってチーム一丸となって取り組んだ結果、2022年11月にJ3リーグ昇格の成績条件を見事に達成することができたのです。
クラブ、自治体、サポーターが一丸となって成し遂げた昇格は、本当に何にも代えがたいものでした。
スタジアムを水色に染める、地域に愛されるクラブづくり
ーー今後の展望について教えてください。
近藤祐輔:
今後は「DXの推進」と「クラブの本質的な価値の向上」という2つの取り組みを進めていきます。DXについては、キャッシュレス決済の導入など、効率化を図る施策を実施していきたいと考えています。ただし、急激な変化はファンやサポーターに混乱をもたらす可能性があるため、皆様の声に耳を傾けながら段階的に進めていく方針です。
並行して、サッカークラブ本来の価値であるファンやサポーターとの絆づくりも強化していきます。スタジアムをFC大阪のチームカラーである水色で埋めることを目標に、地域に愛されるクラブづくりに注力する所存です。この両輪をしっかりと回すことが、次のステージへの飛躍につながると確信しています。
ーー最後に、読者へメッセージをお願いします。
近藤祐輔:
自分の意見を持つことは大切ですが、それに固執するのではなく「他の意見も受け入れる心」を持つことが重要だと思います。たとえはじめは違うと思える意見でも、一度受け入れてみることで世界の見え方が変わることもあります。自分の殻を自ら破り、固定観念にとらわれず、常に柔軟な姿勢で挑戦し続けることが、人間としての成長につながると信じています。
編集後記
近藤社長のパートナー企業や地域住民、ファンなど、多様なステークホルダーの喜びを追求し続ける姿勢は、ビジネスの本質といえるのではないだろうか。相手の思いを汲み取り、それに応えていくという信念が、F.C.大阪の成長を支える原動力なのだと実感した。

近藤祐輔/1986年、北海道生まれ。小学生の頃からサッカーに打ち込み、ザスパ草津(現:ザスパ群馬)に入団し、プロサッカー選手となる。引退後、FC大阪を事業側で支え、発展に大きく貢献。2021年に株式会社F.C.大阪の代表取締役社長に就任。選手として培った経験を活かした事業展開で、スポーツとエンターテインメントの分野で実績を重ねる。現在は、FC大阪が持つ力で地域振興に尽力している。