
和歌山に本社を構える株式会社世界一統は、創業140年を超える老舗酒造メーカーである。自社ブランドの日本酒「南方」や、和歌山県産の果実を使用したリキュール「和歌のめぐみ」などを製造・販売するほか、地域の飲食店への酒類卸売事業も展開している。
近年は海外展開にも注力し、17か国への輸出実績を持つ。伝統的な産業でありながら、時代の変化に柔軟に対応し、世界規模で活躍の場を広げる代表取締役社長の南方雅博氏に話を聞いた。
大隈重信が名付けた「世界一統」の志を受け継ぐ
ーー社名の由来を教えてください。
南方雅博:
弊社は1884年に、生物学者である南方熊楠の父が「南方酒造」として創業しました。南方熊楠の弟が2代目を継いだのですが、彼は早稲田大学出身で、当時の学長が後に総理大臣になる大隈重信だったのです。大隈重信が和歌山を訪問した際に、お酒の名前をつけてほしいとお願いし、名付けてもらったのが、「世界を統一する酒界の一統たれ」という意味を込めた「世界一統」という名前でした。「世界に羽ばたくように」と命名していただいた通り、今では海外にも商品を輸出していて、時代を超えたつながりを感じています。
ーーもともと家業を継ぐつもりだったのですか?
南方雅博:
私は父から「継いでほしい」という話もなかったため、継がない前提で進学し、株式会社竹中工務店に就職しました。日本酒は1975年ごろが生産や消費のピークで、そこからずっと右肩下がりとなっています。今も厳しい状況が続いており、後継ぎがいない酒蔵も多いと聞いています。そうしたこともあって、父は私に家業を継ぐように言わなかったのかもしれません。
「建築」という「ものづくり」の世界で働いたことで、「酒」という「ものづくり」の世界に興味をもち、前向きに実家に戻り、家業を継ぐことになりましたが、就職を経験したことで、会社員には会社員の、家業には家業の大変さややりがいがあることを理解しました。
ーー業界が変わったことで、どのような気づきがありましたか?
南方雅博:
ものづくりは、分野は異なっても本質的な部分は共通していると思っています。建築であれ酒造であれ、より良いものをつくりお客様に届けたいという思いは変わりません。家業を継いで17年になりますが、お客様との出会いも多く、楽しく仕事をしています。
日本の、そして和歌山の酒の素晴らしさを世界へ発信

ーー貴社の事業内容を教えてください。
南方雅博:
弊社の主な事業は、酒類の製造や販売、卸売です。製造や販売については、国内にとどまらず海外にも輸出しており、日本のお酒の美味しさを世界に伝えています。卸売業としては、和歌山に密着した会社として地元の飲食店とお取引があり、地域の皆さまの豊かな食生活に貢献しています。
ーー海外展開を強化した理由をお聞かせください。
南方雅博:
地域に密着した卸売業は人口減少の影響を強く受け、市場縮少が懸念される状況です。しかし、その一方で、製造業の売上は大都市圏や海外への販路拡大によって伸びています。地元密着の卸売業を今後も続けていくためには、こちらの製造業の方でしっかりと収益を確保する必要があり、そのためには成長が見込める海外市場の開拓が不可欠だと考えたのです。
ーー地域との連携について、具体的な取り組みを教えてください。
南方雅博:
10月1日は「日本酒の日」と制定されており、その前後の週末にはみんなで日本酒で乾杯する、というイベントが毎年開催されています。そのような機会を通じて、より多くの方に和歌山のお酒を知っていただきたいと考え、同じ和歌山の酒蔵である中野BC株式会社さんと共同で「和歌山を楽しむ旨い酒セット」を考案しました。
ラベルのイラストを描いてくださったのは、和歌山出身の漫画家であるマエオカテツヤさんという方です。マエオカさんは以前、「和歌山妖怪大図鑑」という作品で南方熊楠のイラストを描かれていたことがあり、ご縁を感じていたので、今回イラストを描いていただけて嬉しく思っています。
時代の変化に対応しながら、情熱を持って酒づくりに取り組む

ーー経営者として大切にされている価値観をお聞かせください。
南方雅博:
私が大切にしているのは「うまさの先へ」というスローガンにも表れているように、時代の変化に対応し、常にチャレンジをし続けることです。食文化や食生活は常に変わっていきますから、私たちもその変化に柔軟に対応し、より良いものを提供し続けることが大切だと考えています。
もう一つ大切にしているのは、情熱と誇りを持ち仕事に取り組むことです。商品が長期的に売れ続けるためには、価格設定だけではなく、付加価値の提供が重要になります。しかし、自分たちがその価値を理解していないと、相手に伝えることはできません。そのため、自分たちがつくっているものを心から好きになり、「素晴らしいものをつくっている」という自負が不可欠だと感じています。
ーー今後の展望を教えてください。
南方雅博:
創業140年という節目を迎え、次の10年をどう進んでいくかを考えています。和歌山に根差した会社でありながら、世界に向けて発信していく。その両立を目指して、お酒づくりの可能性をさらに広げていきたいですね。
編集後記
製造業であれ卸売業であれ、その商品への愛着がなければ、本当の価値は伝えられないと語る南方社長。140年以上続く老舗でありながら、常に新しいチャレンジを続ける原動力が、お酒への深い愛情にあることを知り、ものづくりの本質を教えられた気がした。

南方雅博/1975年、和歌山県生まれ。慶應義塾大学卒業。ものづくりの世界に興味をひかれ、建築物を作品と呼ぶ株式会社竹中工務店に入社。人事・工事現場・営業に8年間従事。2007年、家業である株式会社世界一統に入社。自社ブランドとして、日本酒は自らの名前でもある「南方」、リキュールは和歌山県産果実使用「和歌のめぐみ」を立ち上げる。現在は17か国に輸出し、大きな柱に成長。地元では全酒類卸売業も展開している。