
ジット株式会社は年間2500万個ものインクカートリッジを全国から回収し、山梨県の自社工場でリユースしている環境貢献型の企業だ。主力のリサイクルインクカートリッジ事業を軸に、流通や小型家電のリユースにも事業を拡大している。環境貢献と企業成長の両立を目指す同社の代表取締役社長、石坂幸太郎氏に話をうかがった。
社長就任後の大胆な組織改革で、売上をV字回復させた
ーーこれまでのご経歴を教えてください。
石坂幸太郎:
大学卒業後、営業コンサルティング会社に入社し、半年ほど勤務しました。その経験を経てぺんてる株式会社に入社し、海外事業所の一つPentel Singaporeにて東南アジア市場での営業とマーケティング業務に携わったのです。そして2013年、これまでに培った国際的な視点と営業ノウハウを持って、父が創業した弊社への入社を決めました。入社後は、営業部門とマーケティングを担当する課長として働き始めたのですが、海外での経験が、弊社の営業戦略の構築に大いに活かされたと感じています。
ーー2021年に社長に就任されてから、どのような改革を行われたのでしょうか?
石坂幸太郎:
社長就任後、主に2つの改革を実施しました。1つ目は人材の刷新です。全社員の8割を入れ替え、フットワークが軽い社員を営業に配置することで営業力を強化しました。彼らは営業のみならず、実際に店舗に出向いて棚づくりまで手がけてくれています。
2つ目がDXとIT化の推進で、業務効率化を図り、会社全体の生産性向上に取り組んだのです。これらの改革を実施したことにより、低迷期の2倍以上となる30億円規模にまで売上高を成長させることができました。
3本柱で展開する環境貢献型ビジネス

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。
石坂幸太郎:
弊社の事業は大きく3つあります。メイン事業はリサイクルインクカートリッジ事業で、売上高の約75%を占めています。これは全国からプリンターの使用済みインクカートリッジを回収し、山梨にある工場でリユース加工して販売するビジネスモデルです。
2つ目は流通事業で、インク以外の商材を中国にある工場でOEM(受託製造)して輸入販売しています。現代はペーパーレス化が進み、インクの需要だけでは成長に限界があると考え、こうした事業も手がけています。
3つ目は小型家電のリユース事業です。プリンターなどの小型家電を全国から回収し、まだ使えるものは東南アジアに販売したり、部品を回収した後にリサイクルしたりしています。
ーー貴社の強みはどのような点にありますか?
石坂幸太郎:
最大の強みは、日本国内に工場を持っていることです。山梨県に自社工場があり、国内で回収したカートリッジを国内で加工して再び販売するというビジネスモデルを実現しています。競合と比較すると、リードタイムやコストの面で弊社は非常に有利といえるでしょう。また、製造と販売を一貫して手がけている点も強みですね。製造と営業の距離が近いため意思決定が早く、情報の伝達速度も非常に速いと感じています。
新製品の開発とM&Aで、売上高の倍増を目指す
ーー現在はどのようなことに注力していますか?
石坂幸太郎:
弊社の技術を活かした業務用インクの開発に注力しています。BtoCのインクカートリッジ市場は成熟しつつありますが、BtoBではまだ多くの可能性があると考えています。パチンコ店のポップや量販店のチラシ印刷用など、異なるニーズに対応するインクの開発を進めており、すでに売上の一部を構成するまでに成長しました。今後も弊社の技術力と市場のニーズをうまく組み合わせ、より高品質で環境に配慮した製品を提供していきたいと考えています。
また、管理部門の体制強化も進めており、山梨から東京へと機能を移転させながら、成長を支える組織基盤を固めているところです。
ーー最後に、今後の展望について教えてください。
石坂幸太郎:
弊社は今年で34期目を迎えますが、今後5〜6年の間に売上高を2倍にすることを目指しています。その核となるのが、M&Aによる事業拡大です。特に文具や家電分野で、優れた製品を持ちながらも後継者不足に悩む企業を年間1社のペースでM&Aを行い、弊社の販売網を活用して新たな価値を生み出していくつもりです。
同時に、創業の精神の1つである「人様に役立つ仕事とサービスで生かされている命を燃やしたい。」という考えのもと、障がい者雇用の拡大やリユース事業による環境保全など、社会貢献活動にも一層力を入れていきます。時代の変化に柔軟に対応しながらも、人間性を大切にする企業文化を守り、社会とともに成長する企業であり続けたいですね。
編集後記
石坂社長の言葉から感じたのは、環境保全と企業成長を二項対立で捉えない思考だ。特に印象的だったのは、ペーパーレス化という逆風の中で小型家電のリユースや業務用インク開発など新領域へと踏み出す決断力である。時代の変化を脅威ではなく機会として捉える視点こそ、34期目を迎えるジットの成長を支えている要因だと感じた。

石坂幸太郎/1987年、山梨県生まれ。東京経済大学卒業。大学卒業後、営業コンサルティング会社に勤務。その後、Pentel Singaporeに入社し、東南アジアの営業とマーケティングに従事。2013年、ジット株式会社へ入社。2021年に同社代表取締役社長へ就任。大手量販店の販路拡大や、新製品開発を通じて売上を拡大。現在は山梨本社、東京本社のほか、全国に5つの営業所を展開している。