※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

医薬品原薬の開発において、国内で製造を受託する事業者の少なさや、海外で製造を行う際の長い所要時間が課題となっている。ペプチスター株式会社は、この課題を解決するために設立された企業だ。

大手製薬会社などが出資し、装置メーカーや化学メーカーと連携する「オールジャパン体制」を構築。日本企業の技術を結集し、原薬の研究開発・製造に挑んでいる。その体制や取り組みについて、代表取締役社長の藤家新一郎氏に話をうかがった。

会社設立から事業に携わり、取締役に就任

ーー社長に就任するまでの経歴を教えてください。

藤家新一郎:
私は九州大学の農学部で、農薬の有機合成を研究していました。当時はいわゆる就職氷河期で、採用競争が激しい時期でしたが、有機合成の知識を活用できる企業を中心に応募した結果、2000年に塩野義製薬株式会社に採用されました。

入社当初は創薬の部署ではなく生産技術研究所に配属され、スケールアップ(大量生産)のプロセス開発へ従事することになりました。大量の材料を混ぜ合わせ、その混ぜ方や温度調整、安全な試薬の使用などを研究していたのですが、「本当にスケールアップできるのか」と不安でしたね。

上司からは厳しく指導いただき、詳細なデータをもとに不純物の混入や品質の低下などのトラブルが起きる原因を分析し、現場で同じ失敗が起きないようにする手法を学びました。これは、塩野義製薬だからこそできた貴重な経験だったと思っています。

生産技術研究所に4年在籍したあとは、製造企画の部署で、海外輸出や東日本大震災の復旧プロジェクトなどのプロジェクトリーダーを7年間務めました。その後、経営企画部に配属されて、中期経営計画の策定やM&Aの担当、社内業務のプロセス改革などに携わりました。

2016年からは弊社に出向して工場立ち上げに参画し、2017年に執行役員に就任。2019年の取締役就任を機に塩野義製薬を退職し、弊社に入社しました。代表取締役に就任したのは、2024年のことです。

仕事に大切な「人間力」を構築する8つの要素

ーー仕事をする上で大切なのはどのようなことだとお考えですか?

藤家新一郎:
学歴よりも、「人間力」を大切にしています。私が考える「人間力」とは、「パッション」「志」「好奇心旺盛」「気力・体力」「ユーモア」「独自の情報収集ネットワーク」「コミュニケーション力」「学力」の8つの要素のことです。

「パッション」や「志」というのは、「周囲に影響を与えようとする意欲や意志」と言い換えても良いかもしれません。社会をより良くしていくために、これらの要素は必要不可欠だといえるでしょう。「好奇心」や「気力・体力」は、新しいものを開発する上で、やはり大事な要素です。また、人生に浮き沈みはつきものなので、苦しいときにもユーモアを忘れず乗り切る心を大切にしたいですね。

さらに、情報収集は仕事の成功に大きくかかわる要素なので、社内外に人脈を持ち、インターネットやメディアに頼らない情報ネットワークを構築することができれば、非常に有利になるでしょう。そして、自分から情報を発信する際には、言葉の選択肢をたくさん持つことが必要です。そういった意味で、人と良好な関係を築くコミュニケーション力や、語彙を増やすための学力も磨く必要があると思います。

複数企業の出資による原薬開発・製造会社として設立

ーー貴社の事業内容を教えてください。

藤家新一郎:
弊社の主な事業は、「原薬」と呼ばれる医薬品の有効成分の研究開発と製造・販売です。

医薬品業界ではさまざまな病気に対応するために、さまざまなモダリティが開発されています。「モダリティ」というのは創薬技術や治療手段を包括的に指す言葉で、ここでは原薬に使用される化合物の種類を意味しています。弊社で使用しているのは、ペプチドとオリゴ核酸という化合物です。これらを用いて患者さんの数が少ない稀少疾患や、遺伝性の病気の治療薬を開発しています。

これらの化合物は製造開発を受託してくれる事業者の数が少なく、海外で製造を行うと時間がかかるため、どこで製造するかという問題が起こりがちです。そこで、大手製薬会社などが出資して、弊社を設立しました。弊社は、日本の優良企業の技術を結集して原薬の研究開発・製造を行う「オールジャパン体制」の会社として、注目を集めています。

ーー「オールジャパン体制」とは、どのような仕組みなのですか?

藤家新一郎:
弊社が掲げる「オールジャパン体制」とは、国内のさまざまな優良企業と連携して高度なテクノロジーによる医薬品の開発・製造を行う仕組みのことです。

この体制の背景には、日本国内に創薬の開発や製造のためのノウハウを持っている企業が多くあるにもかかわらず、企業がそのノウハウのニーズを把握する機会が少ないという実情が関係しています。こうした企業間の認識の違いがあることによって、装置を開発する際にオーバースペックになったり、反対にスペックが足りないという事態に陥ってしまっていたのです。そのため、異なる業種の企業が一体となって新薬開発の目的に向かう「オールジャパン体制」は、新しい画期的な取り組みであり、弊社の強みになっています。

挑戦を続け「未来をつくる会社」を目指したい

ーー最後に今後の展望をお聞かせください。

藤家新一郎:
弊社の体制は、今後の日本の医薬製造業のモデルケースになり得る可能性を秘めています。今後は、単に新しい原薬をつくるだけでなく、未来志向の企業としてさまざまな挑戦をしていきたいですね。その中で得た学びを、後発企業の成長に役立てられればと思います。

加えて、私は弊社を「未来をつくる会社」にしていきたいと考えています。イノベーションを生み出し新しい未来をつくるためには、正解がわからない分野にチャレンジすることが必要です。近年ではAIサービスが発達していますが、AIでは判断できない未知の分野に足を踏み入れるなど、常に新しい挑戦をし続けるリーダーでありたいと思います。

編集後記

稀少疾患や遺伝性疾病に対する治療薬の開発には、高度な技術と莫大な時間が必要とされる。藤家社長はその課題に真正面から向き合い、日本の製薬業界に新たな可能性を示している。特に印象的だったのは、装置メーカーや化学メーカーとの協業する「オールジャパン体制」だ。業界の垣根を超えて技術を結集する姿勢に、医療の未来を切り拓くという力強い意志を感じた。

藤家新一郎/1976年、広島県生まれ。九州大学農学部卒業。2000年、塩野義製薬株式会社に入社し、生産技術研究所、製造企画、経営企画に所属。医薬品原薬の製造法開発、中国およびインドサプライヤーを活用した原価低減、新製品立ち上げ、中期経営計画の策定、M&A、JV設立を経験。2017年、ペプチスター株式会社の執行役員に就任、2019年に塩野義製薬株式会社を退職し、ペプチスター株式会社の取締役に就任、2024年に同社代表取締役社長に就任。