
株式会社ドコモ・バイクシェアは、NTTドコモのシェアモビリティ(※)事業会社だ。環境に優しい移動手段によって、日本のまちづくりに貢献するという理念を掲げ、電動アシスト付き自転車とモバイル技術を融合させたサービスを展開している。通信事業会社であるNTTドコモが、なぜシェアモビリティ事業に参入したのか。株式会社ドコモ・バイクシェアの代表取締役を務める武岡雅則氏に、事業の背景や今後の展望についてうかがった。
(※)シェアモビリティ:自動車や自転車などの移動手段を複数の利用者で共有し、移動の利便性向上を実現するサービス
iモードの企画開発で学んだ新事業の可能性
ーー入社から現在に至るまでの話をお聞かせください。
武岡雅則:
1997年に株式会社NTTドコモに入社し、現在に至るまでの約28年間、ずっとドコモで働いています。入社当初は設備部に配属されていましたが、その後は、デバイスからビジネスまで幅広い業務を経験しました。
iモードがスタートしたときには、新機種が出る度に新しいサービスが広がっていくことが魅力的でiモード端末の企画開発の部署に飛び込みました。この経験を通じて、新しい通信事業やビジネスサービスの発想に触れる機会が増え、デバイスの先にモビリティなどのさまざまなビジネスがあることを実感しました。デバイスとビジネスについて、両方の知見を得られたことは、非常に有意義だったと感じています。
その後、2018年に北陸支社の企画総務部長に就任し、支社長の補佐を務めるようになりました。このときに経営者としてどのように会社を回していくかを勉強し、その後、2021年にドコモ・バイクシェアの社長に就任し、現在に至ります。
環境に優しい移動手段としてシェアサイクル事業に参入

ーー貴社の事業内容を教えてください。
武岡雅則:
弊社は、シェアサイクル事業を展開しています。シェアサイクルとは、ポートと呼ばれる拠点に停まっている自転車を借りて、別のポートで返せるサービスのことです。レンタルサイクルの場合は、ある場所で借りた自転車を同じ場所に返しますが、シェアサイクルは乗りたいポートで自転車を借り、目的地の近くにある別のポートに自転車を返せます。短距離の移動には、非常に便利なサービスです。
また、通信事業者であるNTTドコモが運営しているということもあり、電動アシスト付きの自転車に通信機能が付いているところも特徴的です。弊社のシェアサイクルは、自転車の後部にある操作パネルに、ICカードやスマートフォンなどをタッチして借りられるようになっており、予約もスマートフォンから簡単に行えます。
ーーなぜNTTドコモが、シェアサイクル事業に携わることになったのですか?
武岡雅則:
2006〜2007年頃から、NTTドコモの全社的な取り組みとして、スマートライフのビジネスを強化していました。その中のキーワードの一つが「環境」です。
電動アシスト付きの自転車を使うシェアサイクルのサービスは、1人の人を1km運ぶのに、約2gのCO2を排出します。同じ距離をガソリン自動車で移動するときのCO2排出量は約132gですから、約66分の1で済むということになります。
このような観点から、欧州では以前から環境に配慮した取り組みの一環として、シェアサイクルを推進する動きがありました。特に昨今は、「街のリデザインをする」という考えのもと、自転車用道路を整備し、自転車と徒歩による移動をメインにしようという世界的な動向が顕著です。
NTTドコモとしても、直接的に通信事業と結び付かなくても、いずれ必要になるサービスではないかと考え、まずは内部事業としてサービスをスタートしました。その後、2015年に現在の会社を設立した次第です。
競争から協業へ!シェアモビリティで生活利便性の向上を目指す

ーー今後はどのようなことに注力したいとお考えですか?
武岡雅則:
今後は、単にシェアサイクルというビジネスの範疇を超えて、日常的な交通手段の一つとして、利用者の生活利便性の向上に注力したいと考えています。これを実現するためには、各自治体との協力・連携が必要です。「自転車活用推進法」の制定など国土交通省による後押しもあり、各自治体のまちづくりにシェアサイクルを活用しようという機運が高まっています。
ーー最後に、貴社の今後の展望を教えてください。
武岡雅則:
シェアモビリティのサービスを維持し続けられるよう、バランスの良い事業設計をしていきたいですね。
弊社は2024年にシェアサイクルサービス「HELLO CYCLING」を運営するOpenStreet株式会社と業務提携を発表し、2025年6月よりポートを共同利用できる仕組みをスタートさせました。国内での利用数第1位の弊社と、国内最大のステーション数を誇るOpenStreetが連携するというのは、他には類を見ないことだと思います。競争によってそれぞれが自社の利益だけを追い求めるのではなく、幅広いエリアでサービスを充実させることで、より多くの方にサービスを利用していただけるような方向性を目指しています。
編集後記
「自治体との連携を視野に入れ、モビリティ事業の専門人材を採用・育成していきたい」と語る、武岡代表取締役。競争激化が予想される業界で優位性を保つため、正社員採用を強化していく方針だそうだ。シェアサイクル事業の枠を超え、まちづくりへの貢献も考える意欲的な姿勢が印象的だ。同社の今後の展開に、環境の観点からも大きな期待が寄せられる。

武岡雅則/1997年、東京理科大学理工学研究科修了後、株式会社NTTドコモに入社。iモード90Xシリーズの企画開発や、数々のサービス企画運営を実施。マーケティング部にてiPhoneの導入交渉に参画後、2014年、プロダクト部の担当部長としてドコモのアクセサリー事業を新規に立ち上げ成長させる。2018年、北陸支社企画総務部長に着任。2021年、株式会社ドコモ・バイクシェアの代表取締役に就任。