※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

イギリス製デンマンブラシの総代理店として理美容界で足場を固めた株式会社トリコインダストリーズ。そこから自社ブランド「AIVIL(アイビル)」を立ち上げ、クリップ付きのヘアアイロンや、鼻毛ワックス脱毛「サボテンノーズワックス」など、看板商品を生み出してきた。さらにサロン事業も展開し、美容領域の川上から川下までカバーしている。

商品の製造・販売に加えサロン事業を始めたきっかけや、理美容業界が抱える課題に対する思いなどについて、代表取締役社長の村島有治氏にうかがった。

20代で社員数名の会社運営をすることに。他社との差別化を図るため商品の製造に着手

ーーまず村島社長のご経歴についてお聞かせください。

村島有治:
弊社は家業であるため、いずれは自分が継ぐかもしれないと考えていました。しかし、父から継いでほしいと言われたことがなかったため、大学卒業後は一般企業に就職することにしたのです。いくつかの企業の採用試験を受けた私は、最終的に液体化学メーカーに入社し、総務に配属され、経理を担当することになりました。希望の部署ではなかったものの、大企業の経営の進め方を知ることができたのは、いい経験だったと思いますし、家業に入ってから非常に役に立ちました。

転機になったのは、入社から2年ほど経った頃のことで、父が病気で倒れてしまったのです。母に頼まれ、急遽、家業を継ぐことになった私は、前職とのギャップに戸惑いました。当時の弊社は社員数がわずか5〜6名と小規模だったため、荷物の出荷や営業など、あらゆる業務を私一人で行わなければならなかったのです。

ただ、そのおかげで仕事の全体像を把握できたので、今振り返ってみると、必要な過程だったと思います。

ーーこれまでに行った経営改革について教えていただけますか。

村島有治:
まず行ったのは、在庫管理です。それまで発注管理は担当者の勘に頼る部分が大きく、過剰在庫を抱えるなど余分なコストが発生していました。そこで前年の売上データを分析しながら計画的な在庫管理を徹底するようにしたのです。

また、オリジナルブランド「AIVIL(アイビル)」の立ち上げにも着手し、会社にとって大きな転機になりました。それまではあらゆるメーカーの商品を輸入していましたが、どのメーカーも同じような商品を販売しているため、差別化が難しくなっていたのです。

そこで決めたのが、黒子として他メーカーの商品を提供するのではなく、メーカー機能を備えて自社の色を出していくことです。クリップ付きのヘアアイロンや、鼻毛ワックス脱毛「サボテンノーズワックス」など、数々のヒット商品を生み出してきました。

さらに、サロン事業も手掛けるようになり、ショップと融合したヘアサロン「alotta(アロッタ)」を東京に出店しました。ヘアサロンでは、弊社の製品を販売するとともに、施術で実際に使用しています。

多業態を展開し、理美容業界の川上から川下までカバー

ーー改めて貴社の事業内容や強みについてご説明いただけますか。

村島有治:
弊社はメーカー機能を持つトリコインダストリーズを軸に、ディーラーやショップ、サロン業態を展開しています。商流で見てみると、川上部分がメーカー部門のトリコインダストリーズで、中間部分が販売機能を担うHAIRLABO(ヘアラボ)です。

そして川下部分が、理美容室で働く方々向けに美容製品を販売するFIVE(ファイブ)と、サロン事業を展開するalottaです。

弊社はこれまでM&Aを積極的に行い、事業体制を強化してきました。三重の工場を取得したことで、自社で製品開発・改良、修理対応が可能になり、メーカーとしての信頼を高めることができたと感じています。また、株式会社HAIRLABOを買収したことで、直接お客様と接する領域をカバーでき、事業の拡大につながりました。

サロンで美容商品を取り扱うことで、収益を生む体制を構築

ーー美容製品の製造・販売だけでなく、サロン運営にも力を入れている理由をお聞かせください。

村島有治:
理美容室業界の課題を解決したいと考えているからです。理美容室の95%以上は、従業員2人以下の個人経営です。そのため売上が思うように伸びず、残業時間が多い割に賃金が低く、人の流動性が高いという問題を抱えています。そこで弊社では直営店を運営し、一定の収益を確保でき、お客様が定着しやすい仕組みを構築しています。

他店と大きく違うのが、店舗に美容関連商品が充実していることです。多くの理美容室では「うちは小売店ではない」と、限られた商品しか置きません。一方、弊社は十分な売場面積を確保し、自然に商品に視線が向くように陳列することで、お客様の購買意欲を高めています。実際に、美容商品を買いに来るためだけに来店される方もいるんですよ。店舗にはスタイリストが常駐しているので、相談しながら自分に合った商品を選べるのもメリットです。

美容業界には、体力的にきつい割に給料が安いといったネガティブなイメージがあります。しかし、美容は生活に欠かせないものであるため、実は景気に左右されにくく、安定した業界です。近年では、男性の美容意識の高まりを受け、新商品や新技術への需要も高まっています。

こうした流れを追い風にするべく、理美容室でも積極的に美容関連商品を販売していけば、収益性が上がり、美容師や理容師の給料へ還元できると考えています。同時に美容業界の労働環境を改善し、魅力的な職業であることをアピールしていきたいですね。

ーーその他にサロンを経営する上で重視していることを教えていただけますか。

村島有治:
特にこだわっているのが、全室個室制にすることです。一対一で接客することで、髪の悩みなどを気軽に相談しやすくなります。また、他のスタイリストと鉢合わせすることがないため、気兼ねなく担当者を変更できるのもメリットです。

弊社が運営するalottaではカットや縮毛矯正、パーマ、ヘッドスパなど、得意分野の異なるスタイリストを揃えています。ご自身の要望に合わせてスタイリストをお選びいただけるため、リピートしていただくお客様が多いですね。

売上100億円達成を目指し事業を拡大

ーー今後の展望をお聞かせください。

村島有治:
現在、年間の売上高はおよそ40億円ですが、2029年を目途に売上100億円を突破するのが目標です。そのために美容商品を販売するFIVEと、美容サロンalottaの全国展開を計画しています。サロン事業は優秀なスタイリストさえいれば、全国どこでも展開できるので、これからもどんどん店舗を増やしていきたいですね。

そしてサロンに美容商品売り場を併設することで、お客様から生の声を聞き、商品展開に活かしていきたいと考えています。さらに実店舗だけでなくEC事業も強化し、さらなる売上拡大を目指します。

編集後記

「理美容業界の仕事の魅力を多くの人に知ってもらいたい」と話してくれた村島社長。華やかな世界である一方、長時間労働や低賃金による離職率の高さが課題となっている理美容業界にとって、同社は新たな希望となるに違いない。株式会社トリコインダストリーズは業界のあり方を大きく変え、さらなる可能性を広げるだろう。

村島有治/1969年大阪府生まれ。関西大学卒。液体化学メーカーで経理を担当した後、1994年家業である株式会社トリコインダストリーズに入社。1996年にオリジナルブランド「AIVIL(アイビル)」を創設し、2005年代表取締役社長に就任。理美容業界に新風を起こし続けるグローバルカンパニーグループとして、メーカー、ディーラー、サロンを運営するトリコ・ヘアラボ・アロッタ グループを率いている。