株式会社岩田商会は1902年に名古屋で創業し、化学の分野で成長し続けてきた商社だ。現在は「モノづくりも得意な化学商社」として、日本の化学産業と住宅産業を支えている。
代表取締役社長の岩田卓也氏に、事業の強みや今後の展開をうかがった。
岩田商会について――事業内容と世代交代
ーー貴社の事業と社長のご経歴について教えてください。
岩田卓也:
弊社は創業122年目を迎えた「化学の専門商社」です。繊維産業で必要なアルカリを供給するために藁(わら)の灰をリヤカーで売り歩いたことから始まり、酸・アルカリの供給を礎にして化学をベースに新しい分野や素材を開拓してきました。現在は建築材料を含めた5つの事業部門があります。
家業だったものの、父は私に「好きなことをやれ」という人でした。部活を通して大好きなバスケットボールに関わりたかった私は学校教員となり、「人の良いところを見る大切さ」を学びました。人の悪いところを指摘するのは日本人気質だと思うのですが、海外では長所を伸ばそうとします。人を成長させられる人は、相手の長所を見極めて伸ばす方法を真剣に考えているのです。私は人に何かを教えることや学ぶことを人生の楽しみと考え、それは現在の人材育成にも生きています。
ーーターニングポイントはいつだったのでしょうか?
岩田卓也:
父が55歳の若さで他界し、最後の言葉は「やっぱりお前を会社に入れておくんだった」というものでした。父のいとこが会社を継いでくれたのですが、次世代の社長には、やはり私がなる必要があると考えて入社を決めました。中部産業連盟による経営後継者養成アカデミーに1年間通い、猛スピードで社長になる準備をしたのです。
ビジネスにおける化学の役割と「やってみやぁ」の精神
ーー事業の強みはどこにありますか?
岩田卓也:
人々の生活を支える「モノ」がある限り、「化学」という分野は絶対になくならないと思っています。商社と謳いながらモノづくりもできる点は特徴で、時代の変化に対応しつつ、世の中に役立つものをつくれる「開発力」が一番の強みです。
弊社には昔から名古屋弁で「やってみやぁ」と表現されるような風土があります。昭和の中頃、「売るだけではなく、自分たちでモノづくりをしてみたい」という社員がいました。下請けから始まった子会社は独自につくり上げたオリジナルの住宅用シーリング材で、今や100億円を売り上げるメーカーとなっています。
私も働きながら工学博士の博士号を取得し、今までにないタイプの帯電防止剤を開発しました。化学の面白さは、新しいものを生み出す可能性が無限にあることです。これからも「やってみやぁ」でチャレンジして、販売においてもモノづくりでも目標を達成していく企業にしていきたいですね。
環境責任と事業の伸びしろを考える
ーー今後の展望をお話しいただけますか。
岩田卓也:
樹脂事業と先端材料(半導体)事業はさらに成長する分野ですし、新しい取り組みもしています。プラスチック削減の流れで合成樹脂は逆風を受けていますが、なくてはならないものでもあります。地球環境と人々の生活に密接に関わる一方で、環境への配慮と生活の便利さというそれぞれの目的に対しては相反するところが多いので、研究次第で伸びるポテンシャルも大きいでしょう。
先端材料はDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIの急激な進化が起きていますし、医療・バイオ・水に関わる分野も、いずれ新たな事業として伸びる分野だと思っています。
弊社には開発部などの開発専門の部署がなく、開発についてのミーティングは全員参加で行います。自分たちでつくれるものはつくり、つくれないものは「技術と技術を化学反応させ」、企業と企業、人と人を繋ぐことで、商社として重要な「今までにない関係構築」にも結びつけているのです。
ーー人材採用の戦略はありますか?
岩田卓也:
何をやっている会社であるかを知ってもらうための戦略について、数年にわたり、考えています。化学は一般の方にとっては動きが目に見えにくい分野でもあるので、人材を獲得するということが一番の難関です。自社HPで化学について解説するなどにより、弊社の活躍を可視化していこうと思います。
若手へ向けて――大きく成長するためにミスを恐れない
ーー若手の方へ向けてメッセージをお願いします。
岩田卓也:
変化の激しい時代を生きていることはチャンスでもあるので、ミスを恐れずにチャレンジしてください。日本は失敗を許さない風潮があるように見えますが、失敗した経験が多い人ほど認めてもらえる社会もあります。
失敗は次に生かせばいいので、成功の数が多くなるように、チャレンジする回数を増やしましょう。それでこそ人生は充実し、いろいろな達成感を得られるのではないでしょうか。自分自身で自分なりの人生をつくりあげることを楽しんでほしいと思います。
編集後記
創業当時の商いを振り返ると、120年前から環境に配慮してリサイクルをビジネスに取り入れていたといえる岩田商会。「化学に強い商社」という独自のポジションから開発に取り組み、課題の多い分野にも切り込んでいくチャレンジ精神には脱帽する。
岩田卓也/1970年生まれ、愛知県出身。慶應義塾大学理工学部を卒業。同大学院修士課程ならびに東京農工大学大学院博士課程を修了。中学校・高校教諭などを経て、2004年に岩田商会へ入社。経営企画室長、取締役、専務取締役を歴任し、2015年5月に8代目社長に就任する。